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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
27/155

第十五幕:雨と姫君

翌日から劉備が指揮する義勇軍は戦に出ない事になった。


理由は劉備自身が教え、義勇軍はそれを聞き入れた。


だが、中にはやはり出たいと言う者も居たのは言うまでもない。


「ああ・・・くそっ。何で戦に出れないんだよ!!」


大柄な身体を椅子からはみ出した形で座り瓶子ごと口ヘ運ぶ。


ゴクッ、と豪快な音を立て口元から僅かに漏れた酒が立派な虎髭を濡らす。


それを裾で拭き取る仕草が実に男らしいが粗野にも見えてしまうのは容姿だけのせいではない。


男の名は張飛。


字は益徳で劉備の義弟である。


愛用する武器は“蛇矛”と呼ばれる代物で柄が長く先の刃が蛇のように曲がっている事から名付けられた。


これは義兄である劉備と桃園で誓いを立てた時に授かった品だ。


彼にはこれが宝物だった。


これを片手に戦場を駆け敵将を上げて義兄である劉備を助けたい。


その一心でこの戦いにも参加したのに出れない。


彼が苛立つのも無理はなかった。


「夜姫様を護る為とは言え・・・胸糞悪いぜ」


「益徳。声に出すな」


天幕が開けられて一人の男性が中に入り、義弟の張飛を戒めた。


立派に手入れされた顎髭が特徴的な男---関雲長だった。


劉備の義弟にして張飛の義兄である。


「だがよ、夜姫様が居なければ俺たちは戦えるんだろ?」


「そうだ。だが、袁術殿の言い分は尤もだろ。それに我々にも欠点がある」


自分は傲慢でお前は思慮だと関羽は口にする。


「それは知ってる。しかしそう簡単に直せるものじゃないだろ」


「それはそうだが、酒で気を紛らわせるのは感心できないな」


「こんな時は酒でも飲まないとやってられねぇよ」


「・・・・・・・」


関羽は義弟である張飛の言葉に無言で圧力を掛けた。


彼の言いたい事は判っている。


織星夜姫の存在が自分達の行動を抑制しているのだ。


ハッキリ言えば彼女の存在は・・・・・・・・・・


「邪魔、だな」


「夜姫様が、か?」


張飛は瓶子を左手で持ちながら訊ねた。


「・・・あの方が居る為に我々の行動は抑制されている」


「そうけどよ・・・さっき口にするな、と言ったのに自分で言ってどうするんだよ」


「すまない・・・今日は気分が悪い」


関羽は息を吐いて額に手を当てた。


「俺もだ。あーあ、夜姫様がここから出ていけば俺達も戦えるのになー」


彼は思わず、言ってしまった。


これが彼の思慮に欠ける所だ。


カラン・・・・・・


乾いた・・・・・棒が落ちる音がして二人は天幕から出た。


「あ・・・・・・・」


可愛らしい、少しでも力を入れれば折れてしまうような弱い声がした。


二人は何を言えば良いか分からないでいる。


目の前に立つ人物は先ほど邪魔と言っていた人物に他ならない。


立っていたのは夜姫だったのだから。


夜姫は空虚な眼差しで二人を見つめている・・・だが、震えている。


『聞かれていた』


瞬時に二人は悟った。


「や、夜姫様、あ、あの・・・・・・・」


関羽は夜姫に一歩近づいたが、それに気付いた夜姫は一歩後ろへ下がる。


「わ、わたし・・・・・・」


「夜姫様、あ、あの言葉は・・・・・・・」


張飛もまた瓶子を左手に持ったまま酒臭い息を吐きながら先ほどの言葉を説明しようとした。


「・・・ごめんなさい」


夜姫はそれだけ言うと走り出した。


二人はその後を追いかけようとしたが出来なかった。


背を向けて走り出した夜姫の瞳から・・・真珠が出るのを見てしまったから・・・・・・・・・・・


『・・・・・・・・・』


去ってしまった夜姫の背を見ながら二人は立ち尽くす。


関羽の足元には夜姫が落としていった棒がある。


それを関羽は拾おうと身を屈めたが、手に取れなかった。


「・・・・・・・」


自分がこの棒を手にとって良いのだろうか?


関羽は自問自答する。


先ほど夜姫の事を「邪魔」と言ってしまった。


彼女がここに来てからというもの自分達の行動は大きく抑制された事は事実だ。


だが、そうだからと言って邪魔という言い方は無いと改めて思う。


彼女が来たからこそ、自分達はまだここに居られる。


それなのに自分と義弟は邪魔と言ってしまった・・・・・・・・


そして夜姫に聞かれてしまった。


「・・・・私は・・・私たちは、夜姫様を傷付けてしまった、な」


張飛に言った訳ではない。


しかし、それに張飛は答えた。


「俺たち・・・夜姫様を、泣かせたんだよ、な・・・・・・・・・」


「・・・あぁ。義兄者が護ろうとしていた、夜姫様を泣かせてしまった」


「・・・・・・・・」


二人は何とも言えずにその場から動けなかった。


“女を泣かせるとは・・・最低な野郎二人だな”


誰かの声がした。


しかし、誰にも聞こえない。


“姫さんが邪魔、か・・・あの糞共と同類なのか?”


もし、そうなら・・・・・・


“とんだ見かけ倒しの英雄様だな。女を泣かせるのが英雄なら立派な英雄だが、な”


何処までも皮肉を込めて声は二人を蔑んだ。


それでも声は二人に聞こえないから幸いと言えるか?


“爺が居たら直ぐにでも殺すだろうな。とは言え、ここに居るのはあいつだけ・・・果たしてどうなる事やら・・・・・・・・”


それだけ言うと声は途絶えた。


そこから場面は夜姫の方に変わる。


『・・・夜姫様が居なくなればなー』


『邪魔、だな・・・・・・・・』


夜姫は何処をどう走ったのか分からないでいた。


しかし、それでも走り続けていた。


眼が見えないから転んでしまう事が数度もあった。


それでも彼女は走り続けた。


一刻も早くあの場から逃げ出したかったのだ。


今朝、彼女は少し遅めに起きた。


フェンリルは未だに寝ており起こさないようにして天幕から出た彼女は典医などを探そうとしたが、思い直し偶には一人で歩こうと思い行動した。


一人で歩いているとまるで自分一人だけしか居ないという錯覚を覚えるが、逆にそれが懐かしい気持ちで心が幾分か安らいだのも事実である。


そんな彼女だったが、ふいに声がしてそちらへ足を運んだ。


誰かの天幕だろうか?


声には聞き覚えがある。


劉備の義弟である関羽と張飛の声だ。


今にして思えば彼等二人と話した事はそんなに無い。


良ければ話してみようと思い天幕へ行こうとした時に・・・・・聞いてしまった。


聞こえてしまったのだ。


彼等の言葉を・・・・・・・・


『夜姫様は・・・邪魔だな』


『あーあ、夜姫様がここを出て行ったら戦えるのになー』


そう聞いてしまった。


『私が・・・邪魔、私が居なくなれば・・・・・・・・・』


無意識に首に掛けた指輪を握り締める。


その間も会話は続いていく。


やがて彼女はその場から離れようと遅くも理解した。


しかし、そこで棒を落としてしまい二人を天幕の外へ出してしまう。


二人の驚いた声が聞こえ、何を言えば良いか判らずに戸惑ってしまい、彼等もまた戸惑った。


「や、夜姫様、あ、あの・・・・・・・・」


関羽が取り繕うような声を出すと同時に近付く気配を感じ一歩下がる。


何故・・・下がったのか?


恐らく怖かったのだ。


また・・・何かを言われるのが。


「や、夜姫様、あ、あれは・・・・・・・・」


張飛もまた謝罪の言葉を口にしようとする。


それを自分は阻止した。


聞きたくない。


聞きたくなかった。


謝罪の言葉など。


寧ろ自分が謝るべきなのだ。


だから・・・・・・・・・


「・・・・ごめんなさい」


夜姫は足を止めて謝罪した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・・・・」


何度も何度も夜姫は謝った。


誰も居ないのに、謝り続ける。


空虚な瞳からは絶え間なく涙が溢れ出て大地を僅かに濡らした。


そして膝を着いて泣きながら謝り続ける。


雷雨の音が聞こえた。


ポツ・・・ポツ・・・ポツ・・・ポツ・・・


雨が頬に当たり、一気に土砂降りの雨が降り出す。


まるで彼女が流す涙だ。


絶え間なく溢れ出す涙。


そんな雨の中でも彼女は泣きながら謝り続けた。


許しを乞うた。


先日、自分は頑張ると誓った。


それなのにもう謝罪の言葉を口にしてしまうとは・・・・・・・・・・


「ふっ・・・くっ・・・・ふぇ・・・・・・・」


涙が止まらず必死に止めようとするが、駄目だった。


そして彼女は雨が降る中・・・倒れてしまった。


倒れた彼女に容赦なく雨は降り注ぎ体温を低下させていく。


だが、その雨が彼女には心地よかった・・・・・・


『“あの時”、と同じね・・・あの時も雨が降っていたのだから』


あの時も自分を容赦なく雨は打ちつけて体温を低下させて死へと誘った。


『今度は・・・ちゃんと連れて行って・・・もう、死んで良いや・・・・・・』


そう願い夜姫は意識を手放した。


「・・・雨、か」


自分の陣を馬に乗り一人で進んでいた孫堅こと文台はとつぜん降り出した雨に眉を顰めながら天幕へ戻ろうとはしなかった。


別に雨が降ろうと関係ない。


今回の見回りは理由と言える物は無い。


ただ少しでも見回りをして部下達が問題を抱えていないか調べているというのが表向きの理由と言える。


雨が降る中で馬を進めていると、ふいに馬が鼻先を前に出した。


「どうした?」


孫堅は馬に訊ねながら前を見ると誰かが倒れているのが見えた。


銀と紫が上手い具合に混ざり合った髪には見覚えがある。


「夜姫様っ」


急ぎ馬の腹を蹴りそこへ行き夜姫を抱き起こす。


「夜姫様。どうさないました?」


声をかけるも返事はなくグッタリとしている。


頬を叩くと僅かに呻いたからまだ生きてはいる事は確認できた孫堅は急ぎ馬に乗せて天幕へと戻った。


天幕へ戻った孫堅が夜姫を抱いている事に部下達は驚いたが孫堅はそれを尻目に指示を出す。


「直ぐに温かい食べ物と布に衣服を用意しろ」


指示を出してから孫堅は夜姫を自分の天幕へ連れて行き寝台に寝かせた。


「こんなに濡れて・・・涙まで流していたのか」


見れば夜姫の瞼は僅かに赤いし水滴を少し舐めてみると塩の味がしたから涙を流したんだと判断できた。


「殿に何かされたのか?」


自分の主人である袁術に何かされたのか?と一瞬だが思った孫堅だが直ぐに自分の考えを否定した。


今の袁術は夜姫にそんな事はしない。


となれば劉備か?と思うが劉備もまたそんな男ではない。


では誰だ?と孫堅は思ったがそこへ部下が来たから思考を一時中断する。


「殿、夜姫様はどうですか?」


「起きん。そなた、今から袁術様の所へ行き連絡してくれ」


「分かりました。しかし・・・綺麗な方ですね」


「あぁ・・・娘もこれ位お淑やかな性格ならな・・・・・」


部下は孫堅の愚痴とも言える言葉を敢えて聞かなかった事にして天幕を後にし袁術の陣へと向かった。


その袁術は劉備と共に関羽と張飛を尋問という名の暴力を振っていた。


「この馬鹿者が!!」


バキッと音がすると同時に僅かな血が白い天幕を赤く染める。


殴られたのは関羽だった。


その横では張飛が唇から血を流して座り込んでいる姿が見えた。


恐らくこれを見れば何が遭ったんだ?と誰もが首を傾げる事だろう。


しかし、諸葛亮、劉備、閻象は激昂する袁術とは対照的に至極冷静だったが、逆にその冷静さが激昂する袁術よりも遥かに恐ろしい印象を与える。


「貴様等は馬鹿だ。夜姫様が居なければ戦えるだと?愚か者!夜姫様が居るからこそ他の兵達は奮い立ったのだ。それを自分達のように戦えると思っていたのか?貴様等のように皆が強い訳じゃない。この傲慢に満ち溢れた愚か者共が!!」


関羽をまた袁術は殴った。


かれこれもう数十分以上は関羽を殴り続けているから袁術の手も限界を迎える。


「殿。もうそこ等辺で・・・・・・」


閻象が血で汚れた袁術の手を止めた。


「離せ!この愚か者を殴らんと私の気がすまん!!」


「それは私も解かっております。ですが、この二人は劉備殿の義弟です。ここは義兄である劉備殿に最終処罰は与えるべきかと思います」


閻象はやんわりとした動きで袁術を止めたが、戦う者から見れば見事に彼の動きを止めていると直ぐに判る。


「ええい離せ!こいつを殴らんと気がすまん!離せ!!」


ジタバタと暴れる閻象を尻目に劉備は関羽と張飛を冷たい眼差しで見た。


夜姫には一度さえ見せた事が無い冷たい瞳に二人は固唾を飲み込み言葉を待つ。


「二人とも。いま決めろ。この場で私に斬り殺されるか、それとも自ら命を断つか」


『!!』


この言葉に二人は唖然とした。


まさかそこまで言われるとは思いもしなかったのだろうが、それこそこの二人の欠点を物語っていると言えるだろう。


「私は夜姫様を実の娘と思っている。その娘と思っていた方を義弟二人に蔑まされたのだ。親として見過ごす訳にはいかん」


劉備の言葉に皆は驚いたが、今にして思えば劉備の行動などは夜姫を護る事に直結しているがその態度はまるで娘を護る親のようにも見えたなと今になって納得した。


「さぁ、決めろ。私の剣で殺されるか、自分で命を断つか」


劉備が鞘から剣を抜こうとした。


眼には迷いが見えないから本気だと二人には判った。


「あ、義兄者っ。ま、待ってくれ」


張飛が劉備に駆け寄る勢いで彼に懇願するように口を開いた。


「あ、あれは・・・・・・・・・」


「言い訳は無用だ。しかも謝る相手が違う。しかし・・・申し開きなら聞いてやる」


せめてもの慈悲だろう・・・劉備はかたい声で言い張飛はそれでも聞いてくれると判り喋り出した。


関羽の方は覚悟を決めたのか腰を据えている。


「確かに夜姫様に言った言葉は・・・否定できねぇ。夜姫様が居るから俺たちは戦えないんだと思ったんだ」


「私もです。義兄者」


関羽が張飛の言葉に頷いた。


「私も夜姫様が居なければ、と思いました。確かにあの方は我々に力を与えてくれた。だが、同時に我々を縛る“鎖”でもあります」


「それに俺は酒を飲んでいて、それで・・・・・・・」


『言い訳だな』


誰かの声がして皆は振り返ったが、誰も居なかった。


しかし、天幕がずれたのは確かだ。


下を見たら黒い狼---フェンリルが居た。


『言い訳だ。この愚か者が』


フェンリルが人語を話したので皆は驚いたがフェンリル自身は気にしていない様子で喋り続けた。


『貴様等は姫君を鎖と称したが言語道断。あの方の事を何一つ知らない馬鹿共が姫君を愚弄するな』


「しゃ、喋れるのかよッ」


張飛が驚きフェンリルを見るが彼の方は氷のように冷たい眼差しを向けた。


『我を誰と思っている?我が名はフェンリル。姫君の従順な下僕にして獲物を何処までも追い掛けて仕留める魔狼だ。その我に貴様ごとき餓鬼が口を開くな。胸糞悪い』


「が、餓鬼だと?」


張飛は狼であるフェンリルに餓鬼呼ばわりされて怒りを覚えたがフェンリルは言い続けた。


『我から見れば貴様を含めた人間など年端も行かない餓鬼だ。しかし、貴様の場合は赤ん坊だな。酒に溺れ思慮に欠ける。だからこんな展開を自ら作り上げたのだ』


そこの偉そうに髭を生やした男も、だとフェンリルは関羽を見た。


『貴様も偉そうな髭を生やしているが貴様の傲慢を象徴しているようなものだ。この猪のような餓鬼と同類だ』


「失礼だが、そなたはどうなのだ?たびたび夜姫様を護る為とは言え将達に喧嘩を売る真似をしたではないか」


関羽はフェンリルの一方的な言葉に憤りを覚えながら言い返した・・・だが、フェンリルは鼻で嗤った。


『姫君が無事なら構わん。我の役目は姫君に近付く男共を一匹残らず喰い殺すのが役目だからな』


「では、この軍が崩壊しようと構わないと?」


『我には関係ない。それに栄光と衰退は国にとって当たり前だ。この漢王朝もまたそうだ。ある意味では董卓という男が出て来るのもそれを物語っていると思うが?』


これに皆は黙った。


フェンリルが言っている事は的を射ているのだ。


国が栄えて衰退する事は当たり前で何時までも栄えることなど有り得ない。


そして漢王朝は衰退の道を辿り続けており董卓の様な男が出て来る時点でもはやそれは末期だと物語っている証拠だ。


『話を戻すが、我は貴様とその男を許さん。この場で・・・貴様等二人を喰い殺す』


そう言うやフェンリルは牙と爪を見せて関羽と張飛に跳び掛ろうとした・・・だが、寸での所で止まった。


“止めておけ。姫さんが怒るぞ”


誰かの声がした。


この声は・・・・・・・・・・


「道化か?」


劉備が声に訊ねると声の主は頷いた。


“おいフェンリル。もう少し冷静になれよ。その二人を食ったって姫さんの悲しみは癒えないぞ”


『また貴様か。我は姫君を悲しませる者は誰だろうと許さん。ヴィザーツに敗れ息絶えようとした我を助けた姫君は恩人だ。その恩人を悲しませる者は敵だ。そしてこの二人は姫君を悲しませた。我に喰い殺されて当然だ』


“そうだが止めておけ。姫さんはそれを望んでいない。それにそいつらはまだ戦う身だ。俺らに代わって、な”


まだ自分達は来れないからこいつらはその間の護衛役という名の“繋ぎ”だ。


『こんな欠点だらけの者が護衛役を務められるとは到底思えんな』


何処までもフェンリルは関羽と張飛を蔑み二人は何か言おうとしたが何も言えなかった。


“欠点があるから人間なんだよ。まぁ・・・こいつらの行いは許せるもんじゃないが。殺すな”


『それでは我の気が治まらん』


“それでも抑えろ。それより姫さんを探さなくて良いのか?”


『姫君の居場所など当に知っておる・・・江東の虎の巣だろ?』


「孫堅の陣に夜姫様は居るのかっ」


袁術がフェンリルに訊ねた。


『居る。そしてもう直ぐその部下が来る』


夜姫が孫堅の陣に居る事を伝える為に。


“髭の餓鬼と魚の餓鬼、お前等・・・姫さんに言った言葉に後悔しているか?”


道化は関羽と張飛に訊ねた。


『している』


二人は頷き劉備達に頭を下げた。


「義兄者、私が軽率だった。殺すなら殺してくれて構わない。だが、その前に夜姫様へ謝罪させてくれ。それから私を殺すなら殺してくれ」


「俺もだ。義兄者。頼む、どうか夜姫様に謝罪してから俺らを罰してくれ!!」


二人は袁術が彼等にしたように土下座した。


「・・・良いだろう。もし、夜姫様がそなた等を許すならそれで良し。許さないと言ったら殺す。それで良いか?フェンリル殿」


劉備はフェンリルに訊ね彼は二人を見てから頷いた。


『良いだろう。この餓鬼どもはそなたの義弟だ。そなたがそれで良いなら構わん。ただし、姫君が許しても我は許さん。何かしらの罰は与えろ』


「分かっております」


劉備が頷くと、まるでそれが合図だったかのように天幕に兵が入って来て孫堅の部下が来た事を伝えた。


「通せ」


「失礼します」


孫堅の部下は天幕に一同が揃っている事に些か驚きながらも要件を伝えた。


「直ぐに行く」


「では、私が先導します」


袁術が答えると兵は一礼し天幕を出て行き、また彼らだけが残ったが直ぐにまた彼等も天幕を出た。


袁術、閻象、劉備、関羽、張飛という順番で馬に乗り兵が先導し進むがフェンリルは関羽と張飛をまるで狙っているかのように隣を歩く。


そして時たま馬を刺激しては彼等を落馬させようとする。


食い殺せないが、これ位はせめてものとばかりに行動だ。


本当なら馬ごと彼等を食い殺したい気持ちを抑えている証拠であるから劉備達は何も言わなかった。


もう雨は止んでいるが・・・夜姫の雨は未だに止んでいない。


それを袁術達は感じながらも孫堅の陣へ馬を進めた。


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