第十三幕:狼の名前
ここで北欧神話のキャラを出します。
まだまだこれからドンドン神話のキャラを出しますが、作者のお気に入りが北欧神話なので・・・・・・・
次は彼女が好きな神話のキャラを出す予定ですが。(汗)
夜姫は袁術の馬に乗り袁紹の陣へ向かっていた。
「・・・・・・」
袁術は夜姫を横抱きにした状態で馬に乗っているが時せつ下を見る。
下には狼が離れず付いて来るが馬は怯えもしない。
一匹だからか・・・または害が無いと判断したからか・・・・・・
どちらにせよ良いと彼は納得した。
今はどうやって夜姫を護り抜くかだ。
彼の予想では袁紹が主導権を握って居る筈だ。
それは彼の陣で開かれるのが一つ理由に上げられる。
彼の陣で開かれるという事は彼が主で他は客人となるのだ。
これだと自分と劉備は端に追いやられる可能性が極めて高い・・・・
そうなれば夜姫は孤立してしまう。
『どうすれば良い・・・・・・?』
答えは自分で見つけるしかないが誰かに助けを求めたかった。
しかし答えを見つける前に着いてしまった。
「ようこそ。いらっしゃいました・・・夜姫様」
陣の入り口には袁紹が待っており迎えて来た。
顔は少し赤いが先ほどに比べればマシとなっているから恐らく水でも飲み風に当たって酔いを醒ましたのだろう・・・・・・・
「こんばんは。袁紹様」
夜姫は袁術の手を借りて下馬してから袁紹に挨拶した。
「まだ皆は来ておりませんが、どうぞこちらへ」
「あの、この子も一緒で良いですか?」
狼も良いかと袁紹に訊ねると彼は狼を一瞥した。
「・・・・・・・」
狼は袁紹を見上げたが警戒心剥き出しで夜姫に何かあれば即座に噛み付く勢いだ。
「構いませんよ。しかし、その狼は夜姫様に懐いておりますね」
今も護るように立っているのだから・・・・・・
「お留守番を言っても聞かないんです。貴方はどうして私に付いて来るの?」
夜姫は狼に訊ねるが狼はただ夜姫の左手を舐めるだけで答えない。
「さぁ、どうぞ中へ」
袁紹は僅かに苦笑しながら夜姫たちを天幕の中へ招き入れた。
「どうぞ座って下さい」
夜姫を上座に座らせて自身はその横に座ろうとしたが、袁術がまるで横取りするかのように座った。
「私は夜姫様の護衛だ」
涼しい顔で腹違いの兄弟に言い隣を見れば劉備が既に座っている。
そして夜姫の前には狼が座るという完璧な防御態勢が出来あがった。
これでは入れないと判断した袁紹は仕方無く・・・かなり自分を抑えてその隣へと腰を下ろした。
「袁紹様。この場で言っておきますが、私がこれ以上は無理と判断したら夜姫様を連れて帰ります」
典医は誰も---将達が来ていない事を幸いに袁紹へ言った。
「夜姫様は無理を通して来たんです。ご了承くださいますね?」
半ば典医と言う立場を利用した脅しと言える言い方だが袁紹はそれを言われてはどうしようもないので頷くしか出来なかった。
そうこうしている内に将達が入って来た。
皆は袁紹に挨拶をしてから夜姫に挨拶をしたのだが・・・左右を固める二人には嫉妬と憎悪の眼差しを向けて来る。
ここでも一人占めにする気か?!
というような眼差しを受けるも二人は決して引こうとしない。
そんなピリピリした雰囲気が夜姫には伝わったのだろう・・・僅かに怯えていた。
それを感じ取った狼は夜姫に擦り寄り怯えを緩和させようとする。
それからもドンドン将達は入って来た。
その中には乱世の奸雄と畏怖されている曹孟徳が居た。
曹操の左右には彼の忠実なる部下にして従兄弟でもある夏候惇と夏候淵が同行している。
「こんばんわ。夜姫様」
曹操が声を掛けると夜姫は虚ろな瞳を上げた。
夏候惇と夏候淵は初めて間近に見る夜姫の容姿に眼を奪われながらも狼が居る事に驚く。
狼が人に懐くなど殆ど有り得ないのだ。
それなのに狼は夜姫の膝に顔を乗せて心地良さそうに尻尾を振っている。
所が曹操が声を掛けると狼は警戒心丸出しで曹操を睨んだ。
「その狼はどうしました?」
曹操は狼を見ずに夜姫に訊ねた。
「散歩中に付いて来ました」
簡潔ながらも説明する夜姫に曹操は納得するように頷いた。
「そうですか。流石は天の姫ですね。動物まで懐かせるとは・・・・・・・」
「・・・・・・」
夜姫は無言で下を向き狼を撫でた。
まるで曹操と会話をするのさえ怖いと言う印象を受ける。
実際その通りなのだ。
曹操と会話している間も彼の内心とでも言えば良いだろうか?
その声が聞こえて来るのだ。
『相変わらず可愛いのう・・・寝台の中ではどのような姿かそそられるのう』
『二人に護られているが何れは・・・・・・・』
などと本人の意思など関係なく頭に聞こえて来るから性質が悪く夜姫は今すぐにでも逃げ出したい気分だった。
それでも左右に劉備と袁術が居るから残れる。
『耐えるのよ・・・ここで耐えないと迷惑が掛るんだから・・・・・・』
夜姫の心の声が聞こえたのか狼はスリスリと夜姫に甘えながら瞳は曹操を食い殺すかの如く激しい怒りで燃えていた。
「では、これで・・・・・・」
曹操は狼を一瞥して離れ夏候惇と夏候淵も夜姫に一礼してから離れ自分達の席へと腰を下ろした。
それから次に孫堅が現れた。
「遅れて申し訳ありません」
先ず袁紹に詫びてから夜姫と袁術に詫び自分の席に腰を下ろした。
孫堅の席は劉備の隣となり夜姫とも近い位置となったが曹操の席は離れている。
これに曹操は眉を顰めたが直ぐに消して今の席に甘んじた。
「では、皆が揃った所で始めるとしよう」
袁紹は部下が持って来た瓶子を取り夜姫の席へ行くと片膝を着いて杯に注ごうとする。
「酌なら私がやる」
注ごうとした所を袁術が止めに入り瓶子を取り上げようとするがそれを袁紹は拒んだ。
「ここは私の陣だ。ならばこの私が夜姫様の杯に酒を注ぐのが礼儀と言う物だ。子供みたいに駄々を捏ねるな」
「私を子供扱いするか」
「あぁ。するとも。そなたは身体が大きな子供だ」
「貴様・・・・・・・」
互いに火花を散らし合うも夜姫が勘で袁術の手を取り戒めた。
「袁術様。袁紹様の言う通りです。ここは袁紹様に注いでもらいます」
「ですが・・・・・」
「では、2杯目から注いで下さい。その次は劉備様で」
「・・・分かりました」
こう言われては下がるしかないので袁術は渋々ながらも手を退けたが眼だけは袁紹を睨んでいた。
『夜姫様に何かしてみろ。貴様を殺してやるからな』
半ば腹違いの兄弟に対する怒りを混ぜた色だが、こればかりは仕方ない。
群雄達もこの二人の仲が悪いのは承知しているので何も言わないが疲れるとは思った。
袁紹が夜姫の杯に注ぎ終えると他の者達もまた酒を注ぐ。
狼の方は何も言わずにいたが夜姫の杯を見つめている。
「貴方も飲みたいの?」
視線に気づいたのか夜姫は狼に訊ねた。
狼が杯に鼻を押し付けて飲みたいという風に仕草をして夜姫に教えると夜姫は自分と一緒に飲もうと言った。
「そのような事をしなくても直ぐに杯を・・・・・・・・」
袁紹は狼みたいな動物が夜姫と杯を共用するなどと言おうとしたが夜姫はそれを謝辞した。
強くは言えないのか袁紹は諦めて乾杯をする事にした。
「今夜は我が陣へ来てくれて礼を言う。先ずは陽人の戦い・・・我等が勝利した。だが、董卓本人は生きているし呂布達も健在だ」
これを言われて群雄達は厳しい顔をする。
戦いには勝利したがまだ一度だけだし董卓も呂布も健在だ。
まだ浮かれるのは早い。
「しかし、今宵は・・・勝利の宴として酒を飲み酔おう」
今宵だけはと袁紹は言い静かに杯を掲げた。
「董卓を討ちこの国に平和を取り戻そう。乾杯」
『乾杯』
袁紹が杯を掲げて飲むと群雄達も飲んだ。
夜姫の方は少量---舐める程度に抑えて残りを狼に渡した。
狼は酒を直ぐに平らげてしまう。
その豪快な飲みっぷりに張飛などは「良い飲みっぷりだ」と褒め称える程だ。
「では、夜姫様・・・・・」
袁術が空になった杯に瓶子で酒を注ぐと今度は夜姫だけが飲み干す。
「何だか少し強い、ですね」
「確かに。もう少し少なく注ぎますか?」
「いえ。大丈夫です。この子も居ますから」
狼の頭を撫でながら夜姫は言いながら思い出したように言った。
「そう言えば・・・貴方の名前を決めてなかったわね」
狼は頭を撫でられて眼を閉じていたが、開けて夜姫を見た。
夜姫は狼の顔を両手で撫でながら名前を考えたが良い名前が思い浮かばない。
『何か良い名前はないかな・・・・・・』
幼い頃から動物に好かれたが名前を考えた事は無い。
それは動物を買う事が出来なかったからだが。
その時・・・頭に光景が浮かび上がった。
何処かの山だろうか?
そこに自分は居て弓矢を持っていた。
そして足元には狼が血だらけで倒れている。
狼は血だらけでありながらも自分を牽制するように睨むが、自分はそれを怖がりもせずに片膝を着いて傷の手当てをしたのだ。
それから狼を膝に乗せ頭を撫でながら自分はこう言った・・・・・・
『貴方の名前は・・・・・・』
「・・・“フェンリル”・・・貴方の名前はフェンリルよ」
狼はパッと顔を上げて夜姫をマジマジと見つめる。
群雄達は聞いた事が無い名前に首を傾げるが夜姫は知らずに言葉を紡ぎ続けた。
「その強靭な身体はどんな物でも縛る事は出来ず、その賢い頭脳は全知全能の神さえも時に凌駕する。そして誰よりも家族思いな狼・・・・・・・・・」
何故この名前にしたのかは夜姫自身分からなかった。
フェンリルとは北欧神話に出て来る魔狼だ。
魔神ロキの長男で弟と妹にヨルムンガルド、ヘルが居る。
誕生した時は普通の狼だったが日に日に力を増して行き神々は彼を拘束する事を決め三回に渡り拘束を試みた。
先ず“レージング”と呼ばれる鉄鎖で試みたが失敗し続いて倍の強度を誇る“ドローミ”で同じように試みたが失敗してしまう。
三回目に“スレイプニール”と呼ばれる魔法の紐で拘束しようとしたが用心深い彼は誰かの右腕を差し出せと要求した。
そこで軍神である“ティール”が右腕を差し出した。
それから彼をスレイプニールで縛るとこれは無理と直ぐに察しティールの右関節から食い千切り一矢報いたが結局は拘束されたのだ。
しかし、神々の黄昏においては自由になり主神である“オーディーン”を丸飲みにした。
だが、その息子であるヴィザールによって倒されるという運命を辿る・・・・・・・
その狼の名前をこの狼に夜姫は名付けた。
「気に入った?」
眼が見えないので狼がどんな顔をしているのか分からずに訊ねる夜姫に狼は鼻先を押し付けた上に尻尾を振り乱し喜びを示した。
「喜んでおりますよ」
袁術が狼を見て夜姫に伝えると彼女は嬉しそうな顔になった。
「良かった・・・今日から貴方はフェンリルよ」
狼---フェンリルを撫でながら夜姫は言い右手で杯を持ち口ヘ運んだ。
その様がまるで猟犬を伴い酒を飲む狩猟の女神に見えたのは錯覚だろうか?
“名前を貰えたな”
誰かの声がしたが誰にも聞こえない。
“うむ。親から貰った名前だが改めて姫君から頂戴した”
別の声がした。
しかし、こちらもまた聞こえない。
“これで先ずは一歩だな”
“あぁ。だが・・・忌々しい小僧が居るな”
“そいつは放っておけ。どうせ何もしない。今はな”
“何れは姫君を毒する奴だ。今の内に我が食い殺しても良かろう?”
“駄目だ。そいつにも色々と働いてもらうんだ”
“ちっ。こんな男は居るだけで姫君を毒すると言うのに・・・目障りだ”
“我慢しろ”
“・・・そちらはどうだ?”
別の声は面白くない口調で訊いた。
“今の所は問題ない。とは言え「外野」が煩いな”
“どういう事だ?まさか・・・・・・・”
声は何か思い当たる節があるのか僅かな動揺を見せる。
“来る、という可能性は捨て切れない”
それに対してもう片方の声は冷静に判断した声で返す。
“まったく・・・貴様は厄介事を姫君に全て押し付けてばかりだな”
“否定できない”
“それで来ると思うか?”
“高いな”
“その時、姫君はまた目覚めるか?”
“目覚めるな。ここに来てから目覚めたんだ”
“そうか”
ただ頷くだけの声にもう片方は・・・・・・
“姫さんと暴れられて嬉しいか?”
“勿論だ。姫君と共に戦場を駆け巡れる・・・昔のようにな”
“あん時はお前以外にも居たな。護衛と斥候を兼ねた奴等が”
“その通りだ。とは言え今は我一人だ”
“一人で大丈夫なのか?”
“我を誰と思っている。我は”
“言うな。長たらしい名乗りは嫌いだ”
“貴様が我を馬鹿にするような事を言うからいけないのだ”
“怒るなよ。怒ると頭が禿げるぞ?”
“煩いっ。それはそうと手は打ったのか?”
“いや全然”
“無責任にも程があるぞ”
“今からやる”
如何にもその場凌ぎ的な返答だが、声はそれで良いと頷くように言った。
“では頼むぞ。我は姫君の傍に居る”
“食うのは禁止だが噛む程度は良いぜ”
それだけ言うと声は消えた。
夜姫たちに視線を戻そう。
夜姫は自分のペースを守りながら酒を飲んでいる。
酌は袁術と劉備の二人が独占しており群雄達は明らかな嫉妬の瞳を向けているが、二人はそれを甘んじて受け入れている。
道化に悪役になってもらうと言われたからだ。
しかし、群雄達の方はそうではない。
毎日のように夜姫と会って話もしているのに、ここでさえそれを独占している。
これは我慢できない。
一人の群雄が意を決して夜姫に近付いた。
「天の姫。私の酌を受け取ってくれませんか?」
「酌なら私がやる」
群雄の言葉を袁術が退けたが群雄は引かなかった。
「袁術様。失礼ですが貴方様は毎日のように天の姫と顔を合わせて話をしているのではないですか?それなのにここに来ても我々に天の姫と話す事を邪魔するのですか」
これに対して袁術は反論しようとしたが、夜姫が杯を差し出した事で未遂に終わった。
「注いで下さい」
「夜姫様」
袁術が咎めるように口を挟むが夜姫は「大丈夫ですから」と言い袁術を抑えた。
きっと自分の事で彼が責められるのが我慢できなかったのだろうとは安易に予想できる。
彼にとっては嬉しい限りだがこれで“例外”が出来てしまうと恐れた。
事実それは的中した。
群雄の一人が夜姫に酌をしたので瞬く間に他にも自分の酌を、と言い寄り始めてしまう・・・・・・・
袁術と劉備の二人がそれを上手い具合に阻止しようとするが当の夜姫本人が無理を承知で受け取るから性質が悪い。
「夜姫様。あまり飲むとお身体に・・・・・・・」
典医が夜姫に言うがそれでも夜姫は大丈夫と言って聞かない。
何人の酌で酒を飲んだのか分からない。
ただ自分のペースを守りつつ飲んでいるがやはり飲み過ぎているとは自覚していた。
それでも止めない。
『私にはこれ位しか出来ないんですもの・・・・・・・・』
自分のせいで袁術と劉備が連合軍内で浮いた存在になるのは嫌だ。
いや・・・もうなっている。
それは先ほどの群雄の言葉で判った事・・・・・・
ならば、これ以上は何としても阻止しなければと夜姫は思い無理を通しているのだ。
人はそういうのを自己犠牲と呼ぶし愚かと断罪する者も居る。
正しくその通りなのだ。
「夜姫様。私の酌を受け取り下さい」
曹操が夜姫の前に座り瓶子を差し出してきた。
狼---フェンリルが唸り声を上げて曹操を威嚇する。
「フェンリル・・・・・」
夜姫はフェンリルを宥めようとするがフェンリルは尚も唸り続けた。
それ以上近付けば許さないという雰囲気を醸し出し牙と爪を前に出し更に牽制する。
「これは怖い。この狼・・・フェンリルは私を警戒しています」
曹操は怖がった振りをしているが、視線は射抜くようにフェンリルを睨み据えている。
高が狼ごときが邪魔をするなという目線だがフェンリルは怯みもしなかった。
寧ろもはや我慢の限界と言える状態だ。
「フェンリル。止めなさい」
夜姫がまた宥める声を出すが駄目だった。
とは言え夜姫自身・・・フェンリルの行動には助かっていた。
今もまた曹操の声が聞こえて来て恐怖していたのだ。
酌などされようものならどうなるか分からない。
それを阻止するようにフェンリルが唸るから助かる。
しかし、表向きは宥めるのだ。
「・・・孟徳。今回は止めておけ。天の姫も些か顔が赤いし護衛のフェンリルもそなたが酒臭いと顔を顰めているのだ」
聞き慣れない・・・しかし、力強い男の声が聞こえた。
「あの、どなたでしょうか?」
夜姫は誰なのか分からず訊ねた。
「これは失礼しました。私の名は夏候惇。曹猛徳の部下にして従兄弟です。以後お見知り置きを」
『夏候惇と言えば隻眼の将にして曹操の右腕だった男ね・・・・・・・・』
夏候惇・・・字は元譲と言い曹操が挙兵した時から従い続けた武将である。
14歳の時に師を侮辱され殺したと言われる荒い気性の持ち主であるが、常に学問の師などを同行させるなど勉強熱心で金があれば人々に分け与えるなど慎ましい性格の持ち主でもあると夜姫は大学で調べた事を思い出した。
「私は織星夜姫です。夏候惇様の事は天の国で知っておりました。お会いできて光栄です」
「私を知っていたとは嬉しい限りです。眼が見えずに大変お辛いとは思いますが、どうか気をシッカリと持って下さい。それからくどいようですが我が主にして従兄弟である曹猛徳が大変失礼な真似を致しました」
そちらのフェンリルにも、と夏候惇は頭を下げた。
「我が主が貴殿の姫君に失礼な事をしてすまなかった。許せ」
フェンリルは夏候惇の様子を見て牙と爪を戻す事で誠意を示した。
夏候惇はそれを見てから未だに諦めようとしない曹操を強引に連れて元の位置へ戻る。
それを見てからフェンリルは夜姫の膝に顔を乗せた。
「フェンリル。駄目でしょ?人に対してあんな事をしたら」
夜姫は軽くフェンリルを怒ったが内心では助かったと礼を述べた。
フェンリルの方は夜姫の膝に顔を沈めながら尻尾を振り勝ち誇ったように曹操を見やる。
俺の勝ちとばかりにニヤリと犬歯を見せて笑ったのは気のせいか?
しかし、それを見た曹操は怒りの視線を向けるがフェンリルは何ともない様子で欠伸をした。
それからも宴は続き帰る頃にはもう夜中近くとなっていた。