幕間:奇跡など待つな
更新がかなり遅れてしましましたが、一話投稿です。
かなり作業が遅れておりますが何とかやって行きたいと思いますので今後も宜しくします!!
袁紹の陣を出た劉備一団は黙々と自陣を目指していたが、その中心に居る夜姫は・・・・沈黙していた。
それは先程・・・・袁紹の陣内で自分が取った言動である。
『どうして・・・・あんな言葉を言ったの?しかも、フランス語なんて少し齧った程度なのに』
心中で夜姫は自問自答したが、考えれば考えるほど・・・・答えは見つからなかった。
何せ先ほど自分が袁術の問い掛けた奇跡に対する答えは・・・・フランス語だった。
意味は「奇跡など信じるな。そこに居ろ」という類である。
とはいえ・・・・・・・・・
『確かに・・・・奇跡なんて信じても無意味だったわ』
小さく夜姫は息を吐いて自嘲した。
その時に首から提げた鈍い色の代物が微かに揺れたが、それに誰も気付かなかったのは・・・・良かったと言うべきか?
少なくとも夜姫が首から提げている物は余り人に見られて良い代物ではない。
別に高価な代物という訳ではなく、ただ・・・・・・・・
「夜姫様、御気分が優れませんか?」
ここで典医が夜姫に声を掛けたので夜姫はハッとする。
「え?あ、その・・・・すいません」
「先ほどの事を気にしているのなら大丈夫ですよ」
「ですが・・・・私、人前で煙草なんて吸って・・・・しかも、袁術様には無礼な態度を」
「夜姫様、そう御自分を責められては御体に障ります。何より袁術様に対する態度は無礼と私は思いませんよ」
「俺もだ。夜姫様、あんたは間違っていねぇよ」
「確かに・・・・今でも我等を何かと蔑む袁術殿に夜姫様は我等に代わって罰を与えて下さりました。その点は気に病む事などありません」
典医の言葉に張飛と関羽も同意したが、諸葛亮と劉備は・・・・まだ口を開いていない。
『やっぱり・・・・怒っているわね・・・・・・・・』
夜姫の頭の中には信賞必罰をモットーにしている2人の歴史が浮かんできた。
どちらも功績を称え、恩義には報いるが失敗や罪に関しては必ず罰を与える。
そこを考えると怒っていると夜姫が考えても無理はない。
しかし、ここで劉備は夜姫に声を掛けた。
「夜姫様・・・・先程の言葉ですが・・・・・・・・」
「あの言葉---フランス語で言った台詞・・・・ですか?」
直ぐに劉備の知りたい言葉を悟り夜姫は確認の為に問い掛けた。
「フランス語・・・・言語だったのですか?貴女様が袁術様の問いで言った言葉は」
「えぇ・・・・あの、意味も教えましょうか?」
「いえ、それは遠慮します。失礼ながら・・・・あの様子から察して余り良い意味では・・・・思い出したくない内容だったのではと思うので」
「・・・・・・・・」
劉備の勘の鋭さに夜姫は無言で正解と教えた。
「夜姫様、私は先程の貴女様が取った言動・・・・怒ってなどおりません。寧ろ男として嬉しかったです」
ただ・・・・・・・・
「多少の戸惑いは隠せませんが・・・・それでも私が貴女様を護る事には変わりありません」
「劉備様・・・・・・・・」
夜姫は劉備の言葉に何と言えば良いのか判らず言葉に詰まるが、それを劉備は自ら喋る事で「何も言わないで良いです」と伝えた。
「私は貴女様を護ると決めたのです。それを覆す事は恐らくないでしょう。仮に・・・・覆す事があれば私は自分で自分を殺すでしょう」
侠人の間で交わした約束は死んでも守らなくてはならない掟がある。
「その掟を破れば自死するのが決まりですからね」
「そんな・・・・・・・・」
「厳しいと思われるでしょうが、掟とは総じて・・・・厳しくてはなりません」
そして厳しい掟は上も忠実に守らなくてはならない。
「上が掟を守らなければ下が守る事はありませんからね」
劉備の言葉に夜姫は尤もと頷ける反面で自死という言葉に・・・・改めて自分が居た世界とは違い、直ぐ隣に死が居るという殺伐とした世界なんだと再認識した。
しかし・・・・・・・・
『私は・・・・この臭いを・・・・戦の臭いを・・・・知っている・・・・嗅ぎ慣れている・・・・』
先ほど脳裏に走った見知らぬ戦場がそうだ。
あの戦場は何処であっただろうか?
嗚呼、そうだ・・・・思い出した。
「・・・・高く付いた勝利、だったわね」
敵の損害も大きかったが、比例して味方の損害も大きかったのは単に城を攻めたからではない。
味方によって・・・・味方は死んだのだ。
自分ではない愚かな指揮官が肉と酒を片手に美女を侍らせて命じた事により・・・・・・・・
「・・・・劉備様、煙草を吸っても宜しいでしょうか?」
夜姫は胸がムカムカするのを我慢できず劉備に問うた。
「煙草・・・・ああ、先程の嗜好品ですか。構いませんよ」
劉備の言葉に夜姫は胸のムカつきが幾分か和らぐのを感じながら・・・・先程の独り言を聞かなかった振りをする優しさにも感謝しつつ煙草を銜えようとした。
しかし・・・・誰かが走り寄って来る音を耳にし音のする方角に視線を向ける。
ただし劉備達が前に出た事もあり・・・・相手が良い相手ではないと直ぐに察した。
「や、夜姫さまっ!夜姫様っ!お、お待ち・・・・御待ち下さい!!」
走りながら叫ばれた声を聞いて夜姫は相手が誰なのか直ぐに判り、直ぐにでも義勇軍の陣へ帰りたくなった。
何せ走って来る相手は自分が敬愛する劉備を詰った相手だし・・・・あの腐れ豚野郎にそっくりな空気を持っているのだからな。
「・・・・劉備様、このまま行けませんか?」
夜姫は銜えていた煙草を仕舞い護るように今も立つ劉備に話し掛けた。
「行くとは・・・・我が陣へ、ですか?」
「はい。まだ音からして遠いですし・・・・あの方とは、話したくありませんし劉備様も相手にしたくないのでは?」
「確かに好ましい相手ではありませんが、私の立場から言わせれば無下に出来ません。それに陣へ帰っても・・・・あの方の性格からして押し入って来ます」
「そうでしょうが・・・・貴方様の陣は即ち貴方様が総大将の城です。その城に入るには堅牢な城門や城壁があります」
つまり・・・・そう簡単には入れない。
「恐らく一旦は諦める事でしょうが、あの方の性格からして直ぐに舞い戻るでしょう」
今度は自身の手兵を連れて来るだろうが・・・・・・・・
「そこを他の連合軍の大将等に見られたらどうでしょうか?明らかに・・・・私を狙った”抜け駆け”と映る筈です」
こうなると向こうは連合軍の中で非常に危うい立場に陥るのは必至だ。
「ですが連合軍は私のような小娘の眼で見ても非常に危うい関係で成り立った烏合の衆です。そこに私が来たから更に危うさは増したと見ております」
だから・・・・こういうのはどうだ?
「私を餌に・・・・袁術様を利用しては?」
「夜姫様・・・・・・・・」
劉備は思いもよらぬ夜姫の言葉に瞠目し、また夜姫ではない「誰か」の存在を垣間見た。
先程も夜姫ではない誰かが・・・・夜姫の身体を借りて言動を行ったが、それと同じ気が劉備は感じたのだが他の者も同じだったらしい。
しかし・・・・こうも劉備は思った。
『確かに・・・・袁術様を味方にすれば心強い』
袁術自身は大した器の持ち主ではないが、それでも家臣には割と恵まれているというのが劉備の見方であり筆頭は孫堅だった。
孫堅は呉という群雄の集合体で出来た国を治める統治者で海軍も所持しており、本人の武力も侮れない面がある。
そして袁紹と同じく自分に分け隔たれなく接し、癇癪持ちで何かと名家を鼻に掛ける袁術の手綱を上手く掴んで正しい方へ導こうとしていた。
自分自身が袁術の家臣である面もあり呉という国を治めている立場もあるだろうが、それでも生来の性格もあると劉備は見ていたから・・・・その孫堅も味方になれば今の状況は劇的に変化するのは間違いない。
ただし「餌」と自分で称した夜姫を利用する。
それが劉備には到底・・・・容認できなかった。
「夜姫様、ご自身を餌などと言うのは止めて下さい。そんな発言を・・・・この劉備は聞きたくありません」
「ですが劉備様・・・・・・・・」
「この話は聞かなかった事にしますから以後・・・・御話にならないで下さい。さぁ、帰りましょう」
劉備は尚も食い下がろうとする夜姫に強く言い聞かせると手を掴んで歩き出した。
もちろん夜姫が転ばないように気遣い、そして典医が傍に居れるようにする。
その周囲を関羽や張飛、諸葛亮が固めて自陣へと帰る道を歩むが・・・・・・・・
「や、夜姫様!御待ち下さい!御待ち下されぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
背後から聞こえる悲鳴に近くなった叫び声は・・・・段々と近くなってきていた。