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短編集ー文芸系

桜色の君

掲載日:2026/08/07

「ごめん、別れよう」


 高校の校舎裏でそう言った俺に、彼女は顔色をなくしていた。

 なんとなく見ていられなくて、目を逸らす。

 俺だって、本当ならこんなことは言いたくなかった。でも、仕方ない。


「沙羅、成績下がったんだろ? このままだと、同じ大学行けないじゃん。側で支えてやれれば、って思ってたけど……俺のことばっか見ちゃうみたいだからさ。それなら、一回距離置いた方がいいよ」


 彼女の唇が震える。引き止めたいのだろう。でも、自分のためを想って言っているとわかっているから、できない。沙羅らしい。

 そういうところが好きだけれど、と俺は微笑んだ。


「受験が終わってさ、同じ大学に合格したら、また俺のこと好きになってよ。そうしたら、もう一度恋人になろう。大丈夫、俺達なら、何度だってやり直せるよ。お互い頑張ろう」


 エールを送って、彼女に背を向ける。

 振り返らない。振り返っちゃいけない。きっと彼女は泣いている。顔を見たら、抱き締めたくなる。

 だから、次に会うまでは。



 +++



「沙羅ー! どうしたの?」


 校舎裏に立ち尽くす沙羅を見つけて、一人の女子生徒が声をかける。

 振り返った沙羅は、真っ青な顔で震えていた。


「ちょちょちょ! マジどしたん!?」

「佳代ぉ……」


 親友の名を呼んで、緊張の糸が切れたように、沙羅は涙をぼろぼろと零しだした。


「怖かったぁ……!」

「なになに、何があった?」

「野崎! アイツ、マジキモイ!!」

「えっ! あのストーカー野郎、今日来てたの!?」

「来てたの! 誰もいない時狙って、無理やりここまで連れて来られて、突然『別れよう』って言われて……」

「はあ!?」

「別れるも何も、まず付き合ってないんだけど! マジキモイ! マジ無理! ゲロ吐きそうほんと死んでほしい!!」

「よしよし、怖かったね~もう大丈夫だよ、今日はずっと一緒にいようね」


 佳代は沙羅を抱き締めて、宥めるように背を叩いた。


「でも、別れようってことは、もう付きまとわないってことでしょ? そこだけは良かったじゃん。勝手にフッた側になった気でいるのはガチムカツクけど」

「それがさ、アイツ何故かあたしの受験校知ってたの! 同じ大学行く気でいるの!」

「はっ!? なにそれ、なんで!?」

「わかんない~キモイ~もうあたし志望校変える~」

「だって沙羅、あの大学行きたがってたじゃん。いいの?」

「いい! もう佳代と同じ大学行く!」

「えぇ? あたしが行くの、東京だよ? 家から通えないよ?」

「佳代とルームシェアする!」

「おいおい。まーいいけどさー」


 苦笑しながら、佳代は沙羅とこつりと額を合わせた。


「じゃ、一緒に暮らそっか。沙羅のことは、あたしが守ったげる」

「うん! 守られてあげる!」

「こーらー」


 じゃれあいながら笑う沙羅の頬は、桜色に染まっていた。

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