桜色の君
「ごめん、別れよう」
高校の校舎裏でそう言った俺に、彼女は顔色をなくしていた。
なんとなく見ていられなくて、目を逸らす。
俺だって、本当ならこんなことは言いたくなかった。でも、仕方ない。
「沙羅、成績下がったんだろ? このままだと、同じ大学行けないじゃん。側で支えてやれれば、って思ってたけど……俺のことばっか見ちゃうみたいだからさ。それなら、一回距離置いた方がいいよ」
彼女の唇が震える。引き止めたいのだろう。でも、自分のためを想って言っているとわかっているから、できない。沙羅らしい。
そういうところが好きだけれど、と俺は微笑んだ。
「受験が終わってさ、同じ大学に合格したら、また俺のこと好きになってよ。そうしたら、もう一度恋人になろう。大丈夫、俺達なら、何度だってやり直せるよ。お互い頑張ろう」
エールを送って、彼女に背を向ける。
振り返らない。振り返っちゃいけない。きっと彼女は泣いている。顔を見たら、抱き締めたくなる。
だから、次に会うまでは。
+++
「沙羅ー! どうしたの?」
校舎裏に立ち尽くす沙羅を見つけて、一人の女子生徒が声をかける。
振り返った沙羅は、真っ青な顔で震えていた。
「ちょちょちょ! マジどしたん!?」
「佳代ぉ……」
親友の名を呼んで、緊張の糸が切れたように、沙羅は涙をぼろぼろと零しだした。
「怖かったぁ……!」
「なになに、何があった?」
「野崎! アイツ、マジキモイ!!」
「えっ! あのストーカー野郎、今日来てたの!?」
「来てたの! 誰もいない時狙って、無理やりここまで連れて来られて、突然『別れよう』って言われて……」
「はあ!?」
「別れるも何も、まず付き合ってないんだけど! マジキモイ! マジ無理! ゲロ吐きそうほんと死んでほしい!!」
「よしよし、怖かったね~もう大丈夫だよ、今日はずっと一緒にいようね」
佳代は沙羅を抱き締めて、宥めるように背を叩いた。
「でも、別れようってことは、もう付きまとわないってことでしょ? そこだけは良かったじゃん。勝手にフッた側になった気でいるのはガチムカツクけど」
「それがさ、アイツ何故かあたしの受験校知ってたの! 同じ大学行く気でいるの!」
「はっ!? なにそれ、なんで!?」
「わかんない~キモイ~もうあたし志望校変える~」
「だって沙羅、あの大学行きたがってたじゃん。いいの?」
「いい! もう佳代と同じ大学行く!」
「えぇ? あたしが行くの、東京だよ? 家から通えないよ?」
「佳代とルームシェアする!」
「おいおい。まーいいけどさー」
苦笑しながら、佳代は沙羅とこつりと額を合わせた。
「じゃ、一緒に暮らそっか。沙羅のことは、あたしが守ったげる」
「うん! 守られてあげる!」
「こーらー」
じゃれあいながら笑う沙羅の頬は、桜色に染まっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。もし気に入っていただけましたら、画面下部の☆を押して、評価いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします。




