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それは刺殺体だった

1.前田聡


それは刺殺体だった。

名前は前田ゆうこ、

発見者は夫で大学教授の聡。

凶器などの物証は無く、

死体発見現場の室内は荒らされていなかった。

夫にはアリバイがなかった。

そのうえ、今では珍しい「亭主関白」で、妻には毎日の様に、

「お前は何もできない」

と叱っていた。

しかし、詰め切れなかった。

そのうえ、上から、夫の捜査打ち切りの命令まで出た。


新宿北署に置かれた本部。

そこで管理官牧田は、

「怨恨の線で行く」

しかし、前田の評判はよく、

なかなか容疑者が浮上しなかった。


「またまた政治的判断ってやつですかねえ」

新宿北署刑事の新藤は言った。

「ドラマの見過ぎじゃないか?

上も上なりに冷静に判断してるんだよ」

とは、今回コンビを組まされた捜一の成田。

「恨みねえ・・」

「どこで恨まれてるかわからんからな」

「私たちもそうですかねえ」

「あほ!刑事は恨まれてなんぼや!」

「そ、そうでした・・」

「害者、SNS上でも評判よかったんだよなあ」

「そうなんですよね」

「でもそこが、逆にひっかかる」

「え?」

「だって、誰にも悪く言われない人なんているのか?」

「そうですよねえ」

「そういえばお前、ひどい死体見ても動じなかったな。

初めてじゃないのか?」

「殺人は初めてですよ。」

「交通事故や自殺で見たのか?」

「精神病院で見たんですよ。」

「?」

「自分で目玉くり抜いたんです。」

「え?!」

成田は気持ち悪くなった。



2.志賀


そんな毎日だった二人に新たな情報が入った。

成田が、

「お前、裏アカって知ってるか?」

新藤、

「知ってますよ。SNSの隠しアカウントでしょ?」

「それを前田が持っていた」

「で?」

「で、じゃないだろ!結構書いてるんだよ」

「何を?」

「悪口だよ」

「誰の?」

「志賀という女の」


すぐ志賀のアリバイ調査になった。

しかしアリバイはすぐ見つかった。

コンビニ店員木田が志賀を犯行時刻に見ていたのだ。

もちろん、志賀との関係を調べたが出てこなかった。


成田の刑事の「勘」は「クロ」だった。

「どこがひっかかるんですか?」

と、新藤。

「それがわかれば『勘』とは言わん」

「そ、そうでした。で、でもサイバーと勘かあ・・」

「何か文句あっか!」

「い、いえ・・でもそういえば、丁度カメラの写らない場所なんておかしいですね」

「だろう!?」

「もう一度洗おう、志賀と木田の関係を」



3.鈴木


いくら調べても志賀と木田には関係は出てこなかった。

「害者と木田の関係はどうだろう?」

と、成田。

「もしかして木田の悪口も言っていた?」


もう一度前田の裏アカを確認した。

そこに木田が出ていた。

いや、正確に言えば、

「木田の妹だ」

と、成田。

「クレームの対象が多すぎてわからなかったんだ。

害者、ほんまもんのクレーマーですからね」

と、新藤。

「いや、親が離婚して苗字が違っていたのでわからなかったんだ」

すぐに妹をあたった。

しかしそこに意外な答えがあった。


「自殺した」

「それは!」

「前にお前、自分の目玉くり抜いた死体見たって言ってたよな」

「え!?まさか?」

「そのまさかだ!美容師だった鈴木、これが木田の妹の苗字だが、

前田の度重なるクレームで精神を病んだ」



4.宮崎


      (言葉の暴力)

前田ゆうこ ←――  前田聡

 ↓ ↓(クレーム)

志賀 鈴木――木田

     (兄弟)


捜査会議は長引いた。

「志賀と木田に繋がりがなければ、これ以上志賀を追えないぞ!」

と、牧田管理官。

「何としても彼らの繋がりを見つけるんだ!」


捜査員たちは、害者のクレームを受けた人を、ひとりずつ調べた。

その数は二桁。その中のひとりがメッセージを残していた。

残していた?そう、彼(宮崎)は、すでにこの世にいなかった。

死は病死だったが、メッセージが問題だった。


「最後に皆さんにメッセージ。


クレーマー。

クレーマーは自分のことをクレーマーだと思っていない。

だから、まさか自分自身が恨まれているなんて知らない。

しかし、クレームされた方は覚えている」


その葬式の弔問客に志賀と木田がいた。

そしてメッセージはその葬式で読まれた。

「葬式で会った可能性があるな」

と、成田。

「とにかく、木田のガサ入れ次第ですね」

と、新藤。


ガサ入れからは何も見つからなかった。

しかし、意外なところから新情報が来た。



5.ハサミ


それは、宮崎の葬儀をあげた葬儀社だった。

「凶器かもしれないハサミが見つかった」

と、成田。

「え?どこから?」

と、新藤。

「棺桶」

「?」

「遺品入れるだろ?その遺品の中から」

「どうして?」

「燃えないものがあるといけないから、葬儀社で一応、焼く前に確認するそうだ」

「そこに?」

「そうだ!ま、証拠隠滅ってやつ。今、科捜研でいろいろ調べてる」


このハサミは鈴木のものだった。

鈴木の兄、木田は、これを志賀に渡し殺人を依頼したのだった。

そして自分は志賀のアリバイ作りに協力した。

そして、死因を調べるため葬儀後も焼かれずにいた遺体の横に遺品として入れてもらったのだった。





クレーマー。

ストレス社会の中、クレーマーは多い。

しかし、適度を超えると、

カスハラで訴えられる危険や恨まれる可能性があることをよく知るべきである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろくて一気に読んでしまった!
[一言] 負の連鎖からの殺人 自分のストレスを他人へのクレームではらし追い詰める その恨みで刺され命を落とす なんとも…現代に蔓延っていることですね
[一言] とても怖いお話でしたが、素敵な推理小説でした。 短編でこの様に仕上げるのはパッション3様の力量なんですね!! 勉強になります<m(__)m>
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