人に飼われたドラゴン
とある王国ではドラゴンは鉄の首輪を嵌められ、冷たい鎖につながれておりました。ドラゴンは小山のように大きく、岩のような肌の持ち主です。
ドラゴンはいつも暗くて寒い洞窟に閉じ込められ、年に一度だけ魔物たちを討伐するためだけに外に出されました。
昔はドラゴンがたくさんいて、悪さをしていたそうですが、ご先祖様たちの手によって退治されたそうです。
王国の王子はドラゴンが可哀そうだと思いました。12歳の誕生日に王子はドラゴンとお話しすることができたのです。そこでドラゴンの気持ちを聞いてみることにしました。
ですがドラゴンが語る言葉は、王子を驚かせたのです。
「君は私のことを可哀そうと思っているようだけど、それは違うよ。私にとって人間に飼われることは、君たちが思っているほど素晴らしいことだと思っているんだ。かつてはたくさんの仲間はいたけどね、ドラゴンにとって家族の概念はないんだ。君の先祖たちに仲間は殺されたけど、憎しみより羨んだね。私たちドラゴンは何千年もの寿命を持つけど、なかなか死ねないんだ。だから私たちを殺してくれた人間たちには感謝しているのだよ」
ドラゴンの言葉に王子は目を丸くしました。自分が家族を殺されたら絶対に腹を立てるだろうし、自由を奪われたらそれを取り戻そうと考えると思った。
なのにドラゴンは復讐に興味がないという。とても信じられなかった。
「でもドラゴンは強いのでしょう? 人間はドラゴンより弱いし長生きじゃない。どうしてドラゴンは人間に負けたのですか?」
王子は素朴な疑問をぶつけました。するとドラゴンは物思いをするようにうつむきました。
「簡単だよ。人間たちは何度も戦いを挑んでは負けたんだ。そのたびに自分たちの間違いを訂正していくのだよ。私たちの弱点を調べ上げ、世代を重ねていったんだ。最初は一匹だったけど、何百年もかけて私一人だけを残して殺していったのさ。人間たちは私たちの肉と皮、骨や血を大いに活用してくれたよ」
王国の王様が着る鎧などはドラゴンの骨で作られています。革製の鎧でも素材がドラゴンなので鉄の槍を突き刺しても貫けません。肉はひとかけらでも口にすれば丸一日は腹が持ち、血は魔法を使うための大事な触媒となるのです。
「仲間の体をおもちゃにされたのに、腹が立たないのですか?」
「なぜ立てる必要があるのかな? ただ腐って大地と同化するよりも、とても有意義だと思うがね」
ドラゴンは軽快に笑いました。王子はそれを聞いてますます混乱しました。
ドラゴンの頭がまったく理解できません。仲間が殺され、自分は自由を奪われてもドラゴンは悲しむそぶりを見せないのです。
「王子よ。人間の強さは成長の早さと繁殖力だ。数限りある命だからこそ、人は次の世代に思いを託す。ドラゴンでは思い浮かばない発想なのだよ。そして人間とドラゴンの発想は相反するものだ。私はこの場で首を落とされ、その身を道具に使われても文句を言う気はないよ。でも今の王国は最後の一匹である私を殺すことができないのだ。たぶん王国が滅んでも私は死なないかもしれない。君の世代で私のとどめを刺してくれることを祈っているよ」
そう言ってドラゴンは再び眠りにつきました。王子はドラゴンの言葉がさっぱりわかりません。
帰って父親である王様にも報告しましたが、似たようなものだったと答えました。ですがドラゴンの気持ちはわかるようになったといい、お前も成長すれば理解できると言いました。その一方でドラゴンを殺してはならない。自分たちはドラゴンの生活圏を滅ぼした罪人なのだ、その罪を忘れないためにもドラゴンは国が亡びるまで守らねばならないと伝えました。
王子はドラゴンの考えがわかりませんでした。これは人間の考えにどっぷり漬かっているため、ドラゴンの思考が余計異質なものに感じられたのです。
王様の言葉もあまりよく理解できませんでした。これはまだ王子が子供だからです。
王子は大人になってもドラゴンを殺したいと思いませんでした。むしろ可哀そうな気持ちが強くなり、自分の子供たちには決してドラゴンを殺してはならないと口を酸っぱくして言いました。父親の気持ちがわかるようになったのです。
ドラゴンは自分が解放される日は遠いと嘆きながらも、まどろみの中で過ごしています。
人間とドラゴンでは思考回路が違うよね。