僕の告白と彼女の告白
「好きです。付き合ってください」
その日、僕はかねてより想いを寄せていた彼女に告白をした。
その瞬間、ただでさえ大きな瞳が更に大きくなる。整った顔に驚きを浮かべた後、彼女は――
「ごめんなさい」
たった一言。されど、僕の胸を抉る言葉を落とす。
「私、あなたが思うような人じゃないと思うの。私、皆が思うように清楚でも清らかでもなんでもないから」
だが何故か、両手で顔を覆って走り去ってしまった。
振られてしまった。衝撃と、やはりな、という気持ちが両方共にせめぎ合って襲ってくる。
彼女は大学でも評判の女性だ。美しくも可愛らしい美貌。分け隔てなく優しく、穏やかで。彼女が言ったように誰もが口を揃えて彼女を清楚だと言う。僕もそう思うし、僕のような平凡な男が釣り合うような相手ではない。
だが、どういうことだろうか。自分はそんな人間ではない、だなんて。
もしかして……実はとても淫らだとか? 普通に考えればそう思ってしまう。僕が若いからではない。
だが、僕の知る限り、彼女に恋人はいない。では、特定の相手を持たず、複数人と遊んでいるとか?
僕はとても気になってしまった。泣いて立ち去った理由も。僕はそれとなく、彼女の周囲に探りを入れることにした。
Aさんの場合。
「え? あの子に彼氏? ないない。私、中学から一緒だけど、いた時なんて知らないよ。告白してくる奴は沢山いたけど、みーんな、玉砕してったわ。……あっ、まさかアンタも――」
Bさんの場合。
「悪い噂なんてないよ。すごいよねー。美人で頭も良くて、スタイルも良い上に社長令嬢! 妬みとかもありそうだけど、優しくて人付き合いも上手いから、あんまそーゆーのもないしさ。ホント、羨ましー」
Cさんの場合。
「絵に描いたような美女だよな。欠点なんてないぐらい。あ、でも……。……いや、実は派手に遊んでるって噂が昔あった気がして。ありえないと思うんだけど……。なんでだっけ? 彼女と中学が同じだった奴から聞いたような、聞いてないような……」
と、いうわけでAさんにもう一度聞いてみる。
「え? 遊んでるって噂? ……そういえばあったかも。でも、その時はまだクラスも違うし、仲良くもなかったから、あんまりよく知らない。あ、でも確か――」
「ーー男の裸を平然と見ていた?」
僕は思わず聞き返してしまった。
Aさんから、同じ中学に通っていたというDさんを紹介され、僕はDさんから詳しい話を聞いてみた。
「そうそう。下校中に不審者がいてね。全裸で徘徊してたのよ。女子は皆、悲鳴を上げて顔を隠したんだけど、彼女だけ平然としてた。なんてことないように見ていたのよ。それで、誰かがあの子は男の裸を見慣れている=遊んでいるに違いないって言ったの」
とんだ言いがかりだが……。確かに引っかかりもする。彼女は一人っ子で、男兄弟の裸を見慣れているというわけでもないだろうし。
Eさんの場合。
「親が過保護らしーよ。ま、大切な一人娘だもんねぇ。お父さんはあの有名企業の社長さんだから、お嬢様だし。あ、でもそこの一族ってなんか変な噂があったよーな……」
Fさんの場合。
「噂? 彼女の実家の一族の? そういえば、私のお姉ちゃんが昔、彼女の親戚と付き合ってて。その時に聞いたんだけど――」
あれから三日が経った。僕はもう一度、彼女を人気のないところに呼び出させてもらった。
「君は綺麗だよ。清らかで、」
「そんなことない!!」
彼女は両手で顔を覆って叫んだ。
「裸の父親に抱き締められて。毎日毎日、父親の父親を見せつけられている私が、そんな……っ!」
涙を溢し、膝から崩れ落ちる彼女の肩に僕は手を置く。
「僕はそれでも、君は綺麗で、清らかで、穢れてなんてないって言うよ。君は変態でも淫乱でもない。君ほど素敵な女性はいないと思う」
恐る恐る、といったように彼女が顔を上げる。
「本当に……?」
「うん」
僕はしっかり目を合わせる。僕の本気を、僕の本当の想いを知ってもらいたいから。
「僕は君のことも、君の家族のことも、例えなにがあったって尊重する。だからどうか、僕にもう一度、チャンスをください」
頭を下げる。想いを込めて。少しでも、彼女に届いてくれたら――
「…………ありがとう」
消え入りそうな小さな声が聞こえた。
「そんなことを言ってくれる人、初めて。……私も本当はずっとあなたが好きだったの。こんな私で良ければ、付き合ってください」
その瞬間、僕は顔を上げて、思わず彼女を強く抱き締めてしまった。うーん、反省。
にしても――
「本当に裸族って、いるんだなぁ」