最善の策
今回はユウリ視点で進みます。
ミツキちゃんは植物人間になった。
体は生きているが、脳が死んでいる。
医者からも、治ることはほとんど無いと言われた。
エリちゃんにはこんなこと伝えれなかった。
???「ユウリ...ミツキちゃんの事なんだけど...」
僕が振り返ると、その子は1言。
???「クォーモロスに頼もう。それしかない。」
エリちゃんが食べていたパンを少し吹き出しながら言った。
エリ「クォーモロスってミツキを殺そうとしたトップランカーだよね?危ないよ..」
だが、その子は落ち着いた様子で返す。
???「もちろんそう。でもクォーモロス以外頼れないんだ。あいつは多分特効薬を持ってる。」
エリ「そう...そうなんだけど...」
エリちゃんは何か言いたそうだ。
でも僕も同じ気持ちだった。不安もあるが、それ以外方法がないと思った。
そこで僕は切り出した。
ユウリ「僕がクォーモロスに頼みに行く」
そういうと2人は、とても驚いた顔で僕の顔を見つめた。するとその子は、
???「相手はトップランカーよ。あなたが抵抗したところで肉片になるのがオチよ。」
と冷たく放った。
エリちゃんはその子の意見を肯定した。
2人が止めても、僕は行かないといけないんだ。
ユウリ「僕はミツキちゃんを助けたいんだ。ミツキちゃんが助かるなら...僕の命なんてどうでもいい。」
僕の言葉を聞いて、その子は、呆れたようにため息をついたが、エリちゃんは違った。
エリ「ユウリがそこまでいうなら...」
ユウリ「ありがとう。今日の夜出発する。クォーモロスの場所はあの子に聞いた。」
???「うん。この殺戮者コンパスで確認できるようにしてる...だから行ってらっしゃい。」
殺戮者コンパスとは、ミツキちゃんが流した血をそのコンパスに吸わせることで、その傷害を与えた人物の場所の方角が8方位で表されるというものだ。
朝ごはんを勢いよく食べた僕は、そのまま外へ出て、剣の素振りを始めた。
夕方、晩御飯を食べると、すぐに殺戮者コンパスを持ってクォーモロスを探した。
案外近く北東に2km地点にいるとの事だった。
そして、15分ほど歩くと、2km地点に着いた。
その時、天から舞い降りてきたのは、クォーモロス。真の殺戮者の姿だった。
クォーモロス「おやおや。ミツキ付属の少年。殺されに来たのですか?」
クォーモロスは優しく、だが、殺意を向けて言葉を発した。
僕はその時、恐怖を覚えた。
だが、ミツキちゃんのためだと自分を囃し立てると、クォーモロスにこう返した。
ユウリ「ミツキちゃんが植物状態になったんだ。僕たちはこの世界の中心に行かなくちゃならない。だから、特効薬を..」
クォーモロス「無理です。」
奴は、僕の話を遮った。
クォーモロス「まず、ミツキを助けるのと中心に行くこと。なんの関係があるのですか?ミツキなど必要あるのですか?」
少しムッとした。だが正論であった。
僕はこのままだと、何の成果もなく終わると察し、ある提案をした。
ユウリ「なら...僕と戦って、勝ったらミツキちゃんの特効薬をください。」
クォーモロスは怪しげに口角を上げる。
クォーモロス「ほう...オモシロイ...力試しということですね...いいでしょう。その案、乗らせていただきます。」
そういうと奴は剣を抜いた。
周りの空気が一気に冷えたような気がした。
そして僕も奴に剣を構えたが、少し震えている。
クォーモロス「始めますよ。」
そういった途端、奴は風のように僕に近づいてきた。
そして剣を横降りした。
あまりの速さに、剣はその攻撃を追えない。
もう勝負は着いたと思った。
だが、僕は目の前の光景に目を疑った。
奴の剣がとてもスローなのだ。
(これがミツキの言ってた"能力"か..!)
そしてゆっくり動いていた間に、剣をかわし、奴に剣を振った。
クォーモロスは驚いた顔をしながらも、鋼鉄を仕込んだ手で受け止めた。
そして、奴は距離をとる。
クォーモロス「あなたの能力...とても厄介ですね...まぁいいでしょう。」
すると、奴はLuxvieteを放った。
10数本の小刀が、僕を目掛けて飛んでくる。
またしても、剣が、ゆっくり飛んでくる。
全て剣で振り落とした。
クォーモロス「ほう...面白い。」
そういうと奴はまたしも唱える。
クォーモロス「servitus。そろそろ死にましょう。」
すると、僕の近くに鎖が出現する。
それは僕の手足に結びつく。
それを見たクォーモロスは、剣で襲いかかってくる。
剣を振り上げた時、またスローになる。
だが、躱す手段がない。
手足は縛られ、剣は使えない。
そして、鎖も引っ張った程度では外れない。
そうしている間にも剣は近づいてくる。
僕は絶望した。この攻撃は避けられない。
そして、その剣が腹とゼロ距離になった時。
痛みが僕を襲った。
腹を尖ったもので開かれていく。肉がプチプチ...プチプチと切れていく。
血が腹から吹き出る。
だが、ずっとスローだ。痛くてたまらない。
何度も、自分が生きてるのか確認した。
(感覚ありってそういう事か...)
そして、剣が腹を斬り終わったとき、やっと時間が等倍で進むようになった。
僕の顔は鼻水と涙と血でぐしょぐしょだった。
それを見てクォーモロスは言った。
クォーモロス「感覚維持状態の擬似的な時間停止でしょう。まぁ最初の時点で分かっていましたが。」
その時、鎖が解けた。
開放された。
あんな痛みを知ってしまったら、もう自分から行くなんてできない。
ネガティブな考えが頭を埋め尽くす。
その時、僕の絶望した頭の中に、1人の女性が浮かんだ。
違う。僕はあいつを助けるためにここにいるんだろう?
なら自分なんて...死んでもいいじゃないか。
そして強く決意した。
ユウリ「クォーモロス、僕は殺るよ。君を。」
クォーモロス「はは。よく言います。」
そして僕はクォーモロスに向かって踏み込む。
少し遅いが確実にクォーモロスに近づいている。
クォーモロス「Infirmationis。私も時間が無いのです。」
やつが唱えた魔法は何も起こらなかった。
そして奴に剣を振った。
奴は交わして拳を胸に刺してきた。
僕は後方に4mほど吹き飛ぶ。
ユウリ「なんで...時間停止されないんだ」
クォーモロス「さっきやった能力の効果ですよ...もういいでしょう少年。」
するとクォーモロスは僕に近づき、あるモノを渡した。
それは黒い手袋だった。
クォーモロス「この手袋をつけていると、相手の情報が見える。つけてみてください。」
そう言うので、手袋をつけてみると、クォーモロスの上に"V"と"蓄積"と見えていた。
クォーモロス「Vはランクです。そして、蓄積は能力です。」
ユウリ「凄いですね...」
クォーモロス「あとこれもです。あなたの強さは分かりました。特効薬をあげてもいいでしょう。」
すると瓶を1つくれた。
ユウリ「ありがとうございます...!」
僕は少し感動して泣きそうになった。
さっきまで向けられた殺意が、今は感心に変わっているからだ。
クォーモロス「傷が少し深いですね...よっと。」
そういうと奴は僕をお姫様抱っこする。
クォーモロス「fuga。さぁ街に戻りましょうか。」
するとやつの背中から翼が生え、僕たちは浮き上がった。
上からの景色は、真っ赤ながらもとても魅力的に見えた。
そして僕達は天を移動した。