空虚の世界
「どうしてエリは...中心を目指しているの...?」
そう問う少年。そして答える少女。
「この世界の真理は、中心にある。でもそれだけじゃない。私の...大切な人が、待っているはずだから...」
そして少女は思い出す。いつからこう思うようになったのだろう、と。
そして、少女は過去を辿り始めた。
「ここは....どこ?」
目を開けると、そこには薄く霧が立ち込める世界が広がっていた。
知らない景色を目の当たりにし様々な疑問が、頭に溜まっていく。
まるで堆積する泥のように。
それに比例して、私の不安も大きくなっていった。
「誰かー...誰かいませんかー...」
混乱する頭をよそに、口は反射的に助けを求める。
辺りを見回すと、先程の助けが届いたのか、謎の人物が近寄ってくる。
???「あ...あの...大丈夫ですか?」
近づいてきた人物は、身長は150cm程の男の子で、若く見えた。
???「あ...あの...大丈夫...ですか...? もしかして...怪我してるとか...?」
私からの返答がないのが気にかかったのか、彼は再び声をかけてくれた。
「いや怪我は...ない。大丈夫」
その答えを聞いて安心したのか、彼は息を漏らす。
「ね。質問していい?」
???「...?....いいよ?」
「それなら......君って、名前なんて言うの?」
彼は意外な質問に少し驚きながら答える。
???「僕?僕の名前は...ユウリ。」
彼は、おどおどしながらも答える。
「ユウリ...ね。ユウリって呼んでもいいかな?」
ユウリ「う...うん」
少しの沈黙の後、私は軽い質問を投げかける。
「ね。ユウリ、この世界に来たのいつ?」
すると、彼は目を閉じ、考え込んでから答えた。
ユウリ「んと...多分...3年前くらいかな」
「3年前!?」
驚いた。こんなに小さな少年が3年もこの世界にいたというのだ。
ユウリ「ほら...これ見て」
そう言うと彼は時計のようなものを出してきた。枠は金色で、少し錆びている部分もあったが、とても神秘的に見えた。
そして真ん中にあるメーターには「107224536」と書かれていた。
ユウリ「分かりづらいけど...これって僕がこの世界に来てからの秒数なの。」
そう言うと、彼は続けて説明する。
ユウリ「1年って31536000秒だから...ざっと3.4年かな。」
その桁の数字の暗算をその速度でできるとは...私よりも遥かに賢いようだ。
ユウリ「あの...あなたの名前も...聞かせて欲しいな。」
「私?私は.....えーと。」
頭には記憶がある。だがモヤがかかったように思い出せない。少し頭痛がする。
ユウリ「..............」
だがここで教えないと相手が困ると思い、嘘でも答えることにした。
「私の名前は...エリ。」
ユウリ「エリ...いい名前だね。......エリちゃん、って呼んでもいいかな...?」
エリ「いいよ。」
そう言うと彼は恥ずかしそうに言う。
ユウリ「え......エリ...ちゃん?」
言い終わると、さらに恥ずかしそうに俯く。
私は彼を見てすこし口角が上がってしまったが、すぐに真剣な顔に戻す。
エリ「あのね。私、気づいたらここにいたの。だから、この世界について教えてくれないかな」
ユウリは少し沈黙した後ゆっくりと話し始めた。
ユウリ「この世界は...『空虚の世界』と言われているんだ。」
エリ「空虚の世界...?」
ユウリ「そう。そして...この世界。とても大きくて、果てが見つかってないんだ。僕たちが.....今いるところも、世界の中心から40,000,000km離れている。それで___」
そして急に、彼はとても恥ずかしそうにした。
エリ「ど...どうしたの?」
ユウリ「え...えとね.......それで........この世界の人たちって....その.....せ....生殖器が.....ないんだ。」
彼は精一杯振り絞って言う。
ユリ「つ....つまり...この世界では人が生まれることはないって事ね。」
ユウリ「そ...そう!...そういうこと...」
彼は少し明るく答えた。
そして彼はコホンと咳き込み、改まって話し始めた。
ユウリ「そして、この世界には、『創造神』がいる。」
真剣な雰囲気に、思わず息を飲む。
ユウリ「名前は........エル。」
その名前を聞いた刹那、私の頭の中の南京錠が、解かれていくように"思い出す"。
エル.....エルは...!!エルは...............!!!
冷や汗が止まらず、過呼吸になる。
頭痛が酷くなり、吐き気もしてくる。
苦しい...苦しい......
そして立ちくらみがし、その場に倒れ込む。
そして意識を失った。
目を開けると、そこにはユウリがいて、私の顔を心配そうに覗きこんでいた。
頭は...柔らかいものに体重を預けている。
こんなに幼い少年に覗かれているということは、膝枕をされているのだろう。
ユウリ「大丈夫....エリちゃん....?」
ユウリが心配そうに伺ってくる。
ユウリ「大丈夫...じゃないよね。リメンバーシックの症状結構苦しいし...」
エリ「心配かけちゃってごめんね。もうなんともないから平気だよ。」
多分返事をしないと、彼は心配でいっぱいになっていただろう。
そうするとユウリは話し始めた。
ユウリ「いや...これに関しては...僕が悪いんだ。この世界の特徴を教えてなかったから。」
申し訳なさそうだった顔から一変し、彼は真剣な顔になり、話を続けた。
「この世界はね、原因不明の......リメンバーシックっていう病気があるんだ。この病気はこの空虚の世界にいる全員......が持っている病気で、何か大切なものや人物を思い出そうとすると酷い頭痛...や吐き気に襲われるんだ。そして酷い場合は......意識を失う。そして、この症状がでると、1人の人物を忘れてしまうんだ。」
色々な情報が頭に入ってきて、処理がしきれない。
だが不明な点があった。
エリ「ね。ユウリ。」
ユウリ「...?」
エリ「私にリメンバーシックの症状が出たのに、なんで誰も忘れていないの?」
私の質問に対する回答は、案外単純だった。
ユウリ「うーん...まだ僕しか知ってる人いないから...忘れなかったとか?」
彼は首を傾げながら言う。
ユウリ「さ、そろそろ行こうか。」
エリ「どこに行くの?」
膝枕をやめて、彼は足音を鳴らしながら私の先を行く。
ユウリ「図書館だよ。」
と...図書館...?
ユウリ「エリちゃんも...この世界に来たばかりなら、1回くらい行ってみよ...?」
エリ「う...うん...」
そうして私はこの世界について知るため、図書館を目指した。
そして私は新天地へと歩を進めた。
彼の離れゆく背中を眺めながら。
Jupitedです。
読んでいただき、ありがとうございました。
まだまだ至らない所がありますが、これからもよろしくお願いします。