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シャーリーの誕生日③

 

「誕生日パーティー?」

「あぁ、そうだ。」


 ガゼルがワタシのところに来たのはその日の夕方だった。

 前線基地の図書室で本を読んでいたら、こいつが来たのだ。


「シャーリーも君に会いたいと言っていた。もちろん参加するよな?」

「……」


 シャーリー絡みだからか、ガゼルは断れないことを確信している様子。

 その分かった風な言い方がちょっとムカつくけど、その通りなので何も言えない。


「……あの子、誕生日なんて覚えてたの? ワタシですら知らないのに」

「あぁ。知っていたみたいだぞ。母親から聞いたんじゃないか?」


 あの子が物心つく前に母親は居なくなったはずだけど……。

 そんなことを覚えてるものかしら。


「というか、だな」


 ガゼルは何かを言おうとして言葉を選んでいる。


「なによ。言いたいことがあるならさっさと言いなさい」

「あれだ……魔術師部隊とはうまくやっているか?」

「……」


 ワタシは目を逸らした。

 ガゼルは半目になって言う。


「この間、基地の全員と決闘したと聞いたが」

「仕方ないじゃない。鬱陶しかったんだもの」


 ワタシは後ろでひとくくりにした銀髪を揺らして鼻で笑う。

 悪い癖だ。そうと分かっているのに、態度は居丈高になって、


「基地で唯一の女であるワタシに欲情して『一緒に食事でもどうか』とか『彼氏はいるのか』とか聞いてくるものだから、『ワタシは自分より強い男しか相手にしないの』って言ってやったの。そしたら決闘することになって……いちいち相手するの面倒だからまとめて相手にした。それだけよ」


 ガゼルはお手上げだと言わんばかりに天を仰いだ。


「それで全員相手をしたのか……強化魔術だけで」

「魔術で怪我をさせるわけにはいかないでしょ。馬鹿なの?」

「怪我一つさせずに騎士団を制圧されるこっちの身にもなってくれ……」


 そりゃあ、あんたの鍛え方が足りないんでしょう。

 まぁローガンズの修行は拷問と同じだから、比べるのはダメだけど。

 生まれた頃から『作品』として育てられたワタシが異端なのよ。


「……はぁ」


 ガゼルは大きくため息をつき、顔を上げる。


「……なぁ義姉上(あねうえ)


 びくりと、ワタシは肩が震えてしまった。


 ──聞き慣れない言葉。

 ──罪人のワタシに相応しくない(・・・・・・)呼ばれ方。


「あなたはシャーリーの大切な人で、俺もまぁ……家族として大切にしたいと思ってる。だから言うが、そろそろ周りとも打ち解けたらどうだ。なんというか、肩の力を抜くというかだな……あなたが悪い奴じゃないのは、みんな分かってるんだ。だから……」

無理よ(・・・)


 ワタシは肘を抱いて目を逸らす。

 実家にいた奴らとは違う、温かな瞳が逆に痛かった。


「ワタシは……悪女よ。そう生まれ変わったの。今さら……」


 胸にこみ上げてくる感情を、唇を噛んで殺す。

 本当なら死ぬはずだったこの身が生きながらえたのはシャーリーのおかげ。

 そしてワタシ自身の愚かな願い。

 あの子の姉として尽くすことがワタシの生きる意味だ。


「あの子以外はどうでもいい。不満ならワタシを隊長から外しなさい」

「いや、それは……」

「それは困ります!」


 ワタシたちの横から割って入る声があった。

 見れば、魔術師部隊でも一番年下の、少年のような顔の部下が立っている。


「アーサーか。なにが困るんだ」

「か、カレン隊長は僕たちに必要なんです。外されたら困ります!」

「ほう。困るか」


 ガゼルの目が嬉しそうに緩んだ。


「ちょっと、ガゼル」

「アーサー、お前から見たカレンはどんな女だ?」

「ぼ、僕にとってカレン隊長は……」


 アーサーは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、意を決したように叫んだ。


「け、敬愛するお方です。いつか必ず、隊長より強くなってみせます」

「ハッ、無理なことはやめたほうがいいわ。後悔したくないでしょ」

「お言葉ですが……やらない後悔より、やった後悔をしたいです!」

「……」


 ワタシは思わず閉口してしまう。

 普段はなよなよしている印象なのに、こんな時だけ目力が強い。

 …………まぁ、だからって何も思わないけどね。


「安心しろ、アーサー。カレンを隊長から外すことはない」

「本当ですか」

「あぁ。それ以外に何か用か?」

「いえ……」

「では行け」

「失礼しました!」


 アーサーは小走りで去って行った。

 ほんと、物好きもいたものね。頭がどうかしてるわ。


「あんたも用は済んだでしょ。さっさと行きなさいよ」

「あぁ、いや……夕食は? 一緒に帰らないか」

「ワタシはまだ仕事があるから無理。シャーリーによろしく」

「……そうか」


 シャーリーには申し訳ないけど、ワタシだって気遣いくらい出来る。

 ガゼルとシャーリーは新婚だ。二人きりで過ごす時間も大切に決まってる。

 ワタシが行くのはもっとこう、なに、機が熟してからというか……まだその時じゃないの。


 あ、そうだ。


「ガゼル」

「なんだ」


 呼び止めると、彼は振り向いた。


「贈り物、何にするか決めたの?」

「……なぜそれを?」


 ばつが悪くなって目を逸らす。


「わ、悪い? 他の有象無象ならともかく……シャーリーの誕生日なのよ? ちゃんと選びたいけど……何がいいのか分からないのよ。だからあんたのさっさと教えなさい」

「なるほど」


 ガゼルは顎に手を当てて答えた。


「俺はペンダントにしようと思ってるが」

「ふ、ふーん……」

「ちなみにエリザベスはカトラリーセットで、ゲルダ様はハンカチだ」

「は? 別に聞いてないけど?」

参考(・・)になるかと思ってな」


 何もかも見透かされているみたいでちょっとムカつく。

 ガゼルは生温かい目で笑ってから、手を上げて去って行った。


「……誕生日、か」


 思えば、ワタシは誕生日を祝ったことも祝われたこともない。

 何をあげたら喜ぶんだろう。

 シャーリーなら、何を贈っても受け取ってくれそうだけど。


「あ、そうか。あれなら……」


 他の人とは被らず、シャーリーが大好きなものを思い出す。


 一瞬、躊躇した。


 でも他ならぬ妹のためだ。あの子の為ならなんでもできる。

 ワタシは心当たりを当たるべく、空中に魔術式を描いた。



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「呪われた女でも愛してくれますか?」
~ブサイクと虐められた伯爵令嬢が姉の身代わりに嫁がされて公爵に溺愛されるようです~

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