第25話 Dungeon(2)
ダンジョンすぐ側の、冒険者用宿泊施設。
3日後のダンジョン解放に向けて冒険者たちが集うこの施設で、事件は起きた。
アニマが刺客に襲われたのだ。
そして逃げる刺客を追うアニマが発見したのは、施設そのものを丸ごと覆う光の壁!
「閉じ込められた…!?」
だが壁を作った張本人は、あっさりと見つかった。
「…酔っぱらって結界を張ったぁ!?」
翌朝ロビーに宿泊者全員が集まった中、痩せた男が申し訳なさそうにうなだれている。
「断食明けで…つい調子に乗って飲み過ぎて…マジすんませんした…」
「1か月断食してたんじゃねえの…?よく酒飲めたな…」
クリムトが、夜這いを仕掛けようとしていたのを棚に上げて苦言を呈す。
「ベカトワちゃんさぁ、困るんだよねぇこういう事されると。
なんか毎回やってない?」
「すまん…酔いが完全に覚めるまで待って…」
「いや、むしろお手柄だぜ」
アニマに視線が集まる。
「オレ、刺客に襲われたんだよね。逃げられたけど」
事情を知らぬ者たちが『いきなり何を言い出すんだ』という顔をする。
「あ、そうそう、これはマジ。俺も追っかけたもん」
「そしてその時既に結界が張られていた…」
「めちゃくちゃ探したけど、結界内のどこにも刺客は隠れてなかった。
…と、思うんだがなぁ」
アニマの目が禍々しく輝く。
「つまり!犯人は宿泊者の中にいる!」
にわかに騒めきだつ宿泊者たち。
「…まずは自己紹介といこうか」
「俺はクリムト。パラディンだよ…」
そうしてクリムトは自らの大まかなプロフィールを語った。
「名前:エドルバート・クリムト
ジョブ:パラディン
所属:『ソード・オブ・ベオウルフ』
備考:女好きのくせに口が緩いので、多分ナンパが成功した事は無いだろう。
…と」
アビゲイルがメモ帳に書き記す。
「おいおい随分と好き勝手いってくれるねお嬢ちゃん!?」
「す、す、すみません!でも先生に頼まれているので」
「『先生』だぁ?」
「ですよね、名探偵アニマ先生!」
アビゲイルの問いかけに頷くアニマは、ハンチング帽にトレンチコートという古典的探偵スタイルであった。
「まあな!ソッコー見つけて心臓を抉り出す!」
全て施設内のランドリーから盗んできた衣服である。
「あの…それ俺のなんだけど…」
背の高い男が口を挟む。
「うるっせぇよ!お前も自己紹介しろ!」
「え?お、俺か…」
名前:ゴモラ
ジョブ:なし
所属:国連ギルド
備考:国際連盟・異界調査局のれっきとした調査員。
刺客の可能性はかなり低い。
「なるほど、ホントならまあ、刺客ではないか。
裏は取れるのか?」
「ここにいる連中だって知ってるハズだし…
なんなら、本部に問い合わせてくれてもかまわんよ」
アビゲイルの方をチラリと見る。
「す、すぐ問い合わせます!」
「じゃ、次はそこのガリガリ!」
「あ、う、ウス」
名前:ベカトワ
ジョブ:ダークビショップ
所属:『ミナゴロシ・ブリゲイド』
備考:結界を作った張本人。アリバイもあり、まず刺客ではないと考えられる。
「さて、ここからはまとめて聞くからテンポ良く答えろよ!はい次!」
名前:天草心中郎
ジョブ:クルセイダー
所属:『ミナゴロシ・ブリゲイド』
備考:消去法で言えば怪しい人物の1人。
ただ、ほぼ無罪で確定しているベカトワの同僚でもある。
「お前は…昨日も会ったか」
「そうだったな」
「このバカと同じギルドなんだ?」
「うむ。酔って結界を張ったと聞いた時は、やはりやったかと思ったものだ」
名前:ウルリカ・アホカイネン
ジョブ:ヴァルキリー
所属:『ソード・オブ・ベオウルフ』
備考:消去法で言えば怪しい人物の1人。クリムトとは親しい。
「お姉さんさ、オレあんたの同僚に夜這いされかけたんだよねぇ!
どう責任取ってくれんすか~?」
「あー…それは申し訳ない。後で殺しておくよ」
「頼むわ」
「今サラッと俺の死が確定したんですけど?」
名前:ロートレク
ジョブ:サモナー
所属:『ソード・オブ・ベオウルフ』
備考:消去法で言えば怪しい人物の1人。同ギルドの人間とも面識がない。
「同じギルドなのに顔知らんとかあるの?」
「まぁ大手だからねぇ、一度も話した事無い奴とか割といるよ」
「アタシも見た事ないねぇ。
本部から派遣されてきたらしいけど、今までそんな事一度も無かったし」
アニマは、ロートレクの鉄面皮をグッと覗き込んだ。
「…………」
「…お前怪しすぎて逆に犯人じゃないな!オレには分かる!」
「……そうか」
「つーかこれで全員ね。みんな3日後のダンジョンが目的?」
皆頷く。
「もっとも、それは昨日の話だから2日後だねぇ」
「2日で解決できるのかい?」
「できるし。オレ名探偵だし!」
アビゲイルはメモを取りながら思う。
(何もかもつまらないって言う割には、随分楽しそうだなぁ…)
これが精神崩壊の症状のひとつである『一時的な幼児退行』であるとは、まだ気づいていないアビゲイルである。
ガラリと言動が変わる場合は分かりやすいが、今のアニマは『狂気』と『正気』の境目が極めて曖昧であり、それは不意に切り替わるのだ。
唯一その事に気付いているレルムも、特に興味が無いのか面倒そうに呟く。
「アホだな。付き合っていられるか」
クリムトが渋々話を進める。
「あーそれで名探偵さんよ、何か手がかりはあるのか?」
「え?あー、凶器がナイフみたいな奴だったな」
「…それだけか?」
「うん、まあ…その…助手!」
アビゲイルは突然呼ばれてメモを取り落としかける。
「は、はい!」
「この情報から導き出される事実は!」
「え、え~と…まず、アニマさんの情報は刺客たちに知れ渡っているハズです。
それでもナイフ1本で寝込みを襲えば殺せると踏んだのですね…」
「うむ、そうなるな!」
「助手が推理しだしたら探偵は何すんの…?」
アニマはお手上げというふうに肩を竦めた。
「そもそもオレ、推理小説は最初と最後しか読まないタイプなんだよね。
トリックとか図解されてもよく分かんねーし」
「じゃあなんで名探偵やろうとしてんだよ!」
時間の無駄と気づいたか、宿泊者たちが解散し始める。
「ちょ、ちょいちょい!ノリ悪いなぁお前ら!
バカでも分かる事があるぞ!お前らの中に必ず刺客がいるって事だ!
お前ら、そんな奴に背中預けられるの?」
ヴァルキリーのウルリカが手を挙げた。
「それなんだが、刺客は本当にアタシたちの中にいるのか?」
「一応、全ての部屋もトイレもバックヤードも、あと建物の外と結界の間にある僅かなスペースも調べたぜ。
結界そのものの異変に関しては…」
ベカトワが首を振る。
「俺の結界を通り抜けるなら壊すしかないな。
もちろん、今のところ壊された気配はない」
「らしいぜ。まあ絶対とは言わずとも、かなりの確率でこの中の誰かが裏切り者だ」
「ふうん?じゃあ、キミ自身のお仲間は?」
「アビゲイルは一緒に寝てた。レルムは…」
レルムは鼻を鳴らし、ありえないと断じた。
「私が刺客なら失敗せぬ」
まるで弁解になっていないが、妙な説得力がある。
「ま、まあそれはともかく。
冒険者なんて大体胡散臭い副業があるものだけど、ウチのギルドはそんな闇営業をしないでも済むだけの金が出てるハズだ」
「まあ、確かにウチは専業が多いねえ、かくいう俺もそうさ。
え~とロートレク君は?どうなの?」
「…別に他の仕事は無い。が、言ってみたところで信憑性はあるまいな」
『ソード・オブ・ベオウルフ』は、ムスペールのギルドの中でも1・2を争う大所帯であり、ブランドがある。
ギルドメンバーがつまらない事で欠けたりしないように、給料や福利厚生には人一倍気を配っているのだ。
「じゃあ、そっちは?」
天草は否定の意味で首を振る。
「『ベオウルフ』に比べれば我がギルドなど木っ端もいいところだろうな。
ギルドそのものが遵法精神に欠けているし、私も用心棒まがいの事をしている」
「で、でも!天草くんはマジやってないと思うぜ俺は!
結界張った張本人である俺が言うんだから間違いないって!」
ベカトワが庇う。
「ふうん、じゃあ国連の旦那は…」
「か、確認取れましたぁ、ホントに国連の職員だそうです。
教えてもらった電話番号も間違いなく正式なものです」
「あったりまえよ、こちとら国際公務員だっつうの!」
ゴモラが分厚い胸板を張る。
「う~ん手詰まりだなぁ…そうだ。
レルム、オレらの部屋調べたよな?証拠残ってなかったよな?」
「私というか、執事のアマノがな。どうやら何も無かったようだぞ。
アマノの調査能力については私が太鼓判を押す」
「そっか…あれ、そのアマノさん本人は?」
「さあな。トイレか何かではないか?」
ちょうどそこに老執事が帰ってくる。
「失礼いたしました皆様。御手水をお借りしておりました」
「…うむ、そうか。アニマ、そういうことだそうだ」
「なんだよ~もっと怪しい事しといてくれよ、したら疑えたのによ~」
「ご期待に沿えず申し訳ございません」
いよいよ打つ手が無くなり、他の宿泊者は自室に帰っていった。
「あ、結界は解くなよ!犯人が見つかるまではな!」
「はいは~い!」
ベカトワに念押ししておくと、残ったアビゲイルたちに向かって話を続ける。
「で、まあオレもバカなりに考えたんだが…妙な所はあるんだよな。
だってオレらがダンジョンに行くってのはつい昨日決まった事だぜ。
にもかかわらず、ちょうどダンジョンへ挑むギルドの中に刺客がいるなんてよ」
「ひょっとすると、それ自体は偶然なのかもな。
雇い主…恐らくヨトゥンは我々の動きを把握していて、ダンジョンに行くと知ってからギルド内の暗殺者に連絡したのだろう。
デカいギルドでも、末端には胡散臭い連中がうじゃうじゃいるからな」
「で、暗殺に失敗しておいて…平然と宿泊者のフリをしてここにいる訳か」
「そういう事だ。そうなると新しく気になる部分が出てくる。
…本来はどうする予定だったのだろうな?」
アビゲイルがメモ帳をペンで叩きながら頷く。
「確かに…周りは知人だらけです、逃げれば犯人が誰かすぐに分かってしまいます。
もう二度と冒険者として生きられなくなる…」
「よっぽど金を積まれたのかねぇ。
でも急な依頼だったろうに、思い切りのいいやっちゃなー」
「あるいは、複数人が共謀して…という可能性もあるがな」
可能性ばかりが広がり、推理に収集がつかなくなってきた。
「まあいい、結界がある限り誰も外出はできない。じっくり考えればよい。
…ちなみに」
レルムはアニマの耳元に寄り、小さく囁いた。
「アマノは嘘をついている」
「!!」
アニマが思わず視線を向けると、アマノは恭しく会釈してみせた。
「…お前、自分の執事をよく疑えるよな!
1年やそこらの付き合いじゃないんだろ?」
「事実として、奴は私に嘘をついている。
長い付き合いだからこそ、そこは分かる」
「今まであの執事にウソをつかれた事は?」
「ごく稀にだが、何度かあった。
いずれも職務上必要なものだったが」
「むむ…余計分かんなくなってきたァ!」
「いずれにせよ、明日までには結論を出さねばな」
「2日後にダンジョン解放か…上等だ!
オレに向かって舐めた真似をしやがったチンカス野郎は、絶対に見つけ出してむしり殺すッ!」
そして2日後。
「おかしい…さっぱり分からん…」
「もうダンジョンの入口まで来ちゃったけど、まだ悩んでるのかい?」
結局間に合わず、予定を変える訳にもいかないため結界を解かざるを得なかった。
「あの後アタシたちも探してみたけど、怪しい人物はいなかったよ。
やっぱり、キミを襲った奴はこの中にいるのかな」
「分かんない…何ひとつ分かんない…もう全員殺すしか…」
ウルリカは首を横に振り、『手遅れだ』と仲間に示した。
どうやら冗談だと思っているらしい。
「もういいや、とりあえず探索開始しよう。
、ま、後ろから刺されたらそれまでって事で!」
最初に会った時と同じギラついた鎧を着たクリムトが、宥めるように言い継ぐ。
「まあ、探索中に襲ってくる事は無いんじゃないかな!
ほら、そんな余裕ないし!」
「そんなに大変なんだ?」
「まあここは比較的楽な部類にあるけど、それでもキツイと思うよ。
入ってみれば分かるさ」
ダンジョンの入口は、まるでただの洞穴に見えた。
冒険者たちは次々と入っていく。
アニマたち4人は、最後尾で彼らの腕前を見学する事にした。
「ん~なんというか、ホントにただの洞窟って感じだな」
「まだ浅いからね。もっと奥まで行けば……っていうか!
そもそも君たちの狙いは何なのさ?
わざわざ一時的に冒険者になるくらいだ、それなりの目的があっての事だろう?」
「う~ん、あるアイテムを探しててな。最深部に行けば分かる…かも」
「マジで?奥まで行くの?
俺らなんか手前の方で雑魚狩って稼ぐのが基本だよ」
「それで金貰えるのか」
「それは……あっ、敵出たわ。ちょっと待ってて」
列の前方で紫がかった黒い煙が複数立ち上ったかと思うと、その煙と同じ色をした小鬼のようなモンスターが出現した。
「はい攻撃引き受けま~す」
クリムトが前に出て大盾を構えると、小鬼は吸い寄せられるように攻撃し始めた。
「よし、私がやろう」
天草が、長巻と呼ばれる柄の長い刀を振り上げると、刀身を神聖な輝きが包み込む。
刀身に刻まれた『厭離穢土 欣求浄土』の文字が光を放つ。
「キエエエイッ!」
猿めいた叫びと共に、横薙ぎの一撃で小鬼たちの首を刎ねた。
死体は血すら出さずに倒れ込み…結晶となった。
「なんだぁ?どうなった?」
「はい、ちょうど4体だから2体ずつ分けよう。
…まあこんな感じで、コレを持ち帰るとお金が貰えるわけ」
「どういう魔物なんだこいつらは?」
「……『オルタナティブ』『ネザービースト』」
サモナーのロートレクが呟く。
「あるいは単に『ダンジョン生物』などとも呼ばれる生命体。
魔物とははっきり区別されている…別の生き物……いや。
生き物かどうかも定かではないがな」
地面に散らばった結晶の破片を目で示す。
「斬っても殴っても血が出ず、どの種類でも死ぬと結晶になる。
…マトモな生き物とは言えん。
しかもダンジョン外ではほとんど生きられず、そこで死ぬと結晶にもならずに消滅するのだからな」
「お、おう…急にどうした、早口で」
困惑するアニマに、クリムトが補足する。
「ああ…たぶん、彼がサモナーだからじゃない?
召喚獣とダンジョン生物ってほぼ同じらしいから、詳しいんでしょ。
もっとも、召喚獣は更に『深い』所から召喚されてるみたいだけど」
「バカ、いつまでデレデレお喋りしてんの!」
そうこうしている間にも列は前に進んでおり、モンスターも増えていた。
「おっとゴメン、まぁおじさんのカッコいい所見ててよ!
ムラムラしたらいつでも相手するからね!」
クリムトが前方に走り去っていく。
「…シンプルにセクハラなんだよなぁ」
「で、あろうな」
レルムを横目で見る。
「オレお前にも言ってるからね?」
「なに?」
「いや『抱かせろ』って面と向かって言っちゃうのはどう見てもセクハラだろ!」
「ま、まぁまぁ!女性を口説く時はめちゃくちゃ言葉を選ぶレルムさんが、アニマさんには取り繕わずに喋る…
これはつまり、ありのままをさらけ出せる関係って事です!」
しかしアニマの目つきは変わらない。
「いや、素でこれならもうおしまいだよ」
「アビゲイル…貴様私に恨みでもあるのか?」
アビゲイルは当惑した。
「あ、あれ?思ってた反応と違うなぁ…もっと照れてくれるかと」
「そういやお前は拷問を『愛』って言っちゃう奴だったよな…」
「…もう黙っているがいい」
「そっちも!お喋りしてる場合じゃないよ!」
突然のウルリカの声。見れば更にモンスターが増え、アニマたちの周りまで来ていた。
「うおっ…おっさん!手前で雑魚狩りして稼ぐんじゃなかったのか!?」
クリムトは大盾で数匹まとめて岩壁に押し付けて動きを止め、丁寧に1匹ずつ剣でトドメを刺していた。
「まだまだ入口程度だよ!
悪いけど抱けない女を守る趣味はないんだ、自衛は勝手にやってくれ!」
「オレの周りこんな男ばっかかよ…クソッ!」
群がる小鬼を両手に1匹ずつ掴んで、頭部を握り潰した。
「ウッソでしょ…どういう握力してんの…?」
ウルリカが唖然として呟く。
「怪我人といえど助けるつもりはないぞ、アビゲイル」
「も、もちろんです!」
レルムが小鬼の首をへし折りながら言うと、アビゲイルは金属ワイヤーを使って絞殺しながら答えた。
「あれっ、その武器…」
「私が用意させていただきました」
執事のアマノが粛々と答えつつ、両手の拳銃を掃射し敵を穴だらけにしている。
「…なるほど、その軽装でダンジョンに入るだけはあるか」
天草が納得したように呟いて、前を指差す。
「我らは右に行く。奥に行きたいなら左へ行くがよい」
その言葉の通り、眼前の道は2つに分かれていた。
『ミナゴロシ・ブリゲイド』の2人が、右の道へと消えていく。
「あー、俺たちもここでしばらく狩るわ。
ほいほい湧いてくる割に弱いからちょうどいい稼ぎ場なんだよね」
『ソード・オブ・ベオウルフ』の面々はそこで立ち止まって、発生直後のモンスターを一撃で殺して結晶にする作業を始めた。
「なんだよ…残ったのは結局いつもの連中か」
「おっと待て待て、俺もいるぜ」
国連ギルドの調査員、ゴモラであった。
「俺は定例調査に来てるんだが、いっつも皆ここで止まっちまうから困ってたんだ。
深くまで入って調べようにも、ソロじゃ厳しくてよ~…。
アンタらと一緒なら心強いぜ」
ウキウキとした足取りでついてくる。
「よォ公務員の先生、アンタもなんか出来るのか?」
「なんかって?魔法か?そりゃ無理だな。俺魔法の才能ねぇのよ。
だから、ほれ、これよ」
背中に負った、布でくるまれた長い棒を示す。
「ずいぶん前に調査で拾ってな。これだけが俺の頼りよ」
「なんだそりゃ、武器か……あ?なんだ?ちょい待ち」
レルムが手をこまねいているのが見えたので、アニマは会話を中断して近づく。
それでも仕草をやめないので、アビゲイルがハッとする。
「わ、私もですか…?」
「いいから来い!
…アビゲイル。貴様、奴の身元の裏を取ったそうだな」
「そ、そうですよ。間違いなく、ムスペールにゴモラという調査員を送ったそうです」
「……それは本当にあの男なのか?」
アビゲイルの顔に戦慄が走る。
「あ、そうか…顔写真を見て確認した訳じゃないですもんね…」
「ん?んん?つまり…ええと?」
「つまり。奴が『国連所属のゴモラ調査員』本人であるかは分からんということだ…!」
〈つづく〉
どうしようもない名鑑No.123【ベカトワ】
過激派ギルド『ミナゴロシ・ブリゲイド』に所属する呪術師。
高い水準でバランスよく術を習得しており、攻防共に隙が無いが、
ダンジョンに入る前に数日掛けて断食や祈祷をせねばならないという
制約が課されている。
断食を終えた直後に腹いっぱい食事できる脅威の胃袋を持つ。