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第16話 Amnesia(3)

ゼェーット!

(マズい。マズいマズいマズい!)


焦りがあった。それ以上の恐怖も。


(一体どこの組織が嗅ぎ付けたっていうの?


隠蔽は完璧だったはずなのに!)


それは、戒麗にとって完全なる想定外だった。


(後をつけられてる!早く逃げないと…)


路地を曲がり、とある店の裏口に回り込むと、地下への階段を下りる。


「アニマちゃん!」


「ひょえっ!?」


扉を叩き開けて言う。


アニマは素っ頓狂な声を上げて本を落とす。


「急いで!」


「へ、え?」


「いいから早く!ここを出る準備をして!」


「い、いやそうじゃなくて…」


アニマは目を円くして言った。


「『アニマ』って、オレの事ですか…?」


「…!」


失態!


そう、アニマはまだ、自身が『アニマ』であることを知らぬ。


「何で、オレの名前知ってるんですか…?」


「あ、ええと…」


PULLLLLLLLLL!


「!!」


天眼通からの着信である。


「あ、電話出るから、ちょっと待って!」


「え…あ、はい」


『ラッキー』と『こんな時に』の中間の気分で、電話に出る。


「何、今忙しいんだけど!?」


『どうしたの?』


「いや、こっちはいいよ、早く本題!」


『え、うん。


あの、アニマって子の家族を見つけたよ。いつ会わせる?』


眼を瞠った。


「…今!」


『え?今って、今会わせるの?』


「そう!今からそっちに行く!用意しといて!」


『ず、随分急だなあ!まあいいんだけど、どうしたの?』


「私たちの事が、どこかの組織のバレた!」


『あちゃ~…分かった、調べてみる。


そっちも急いで!』


通話が終わる。


「…で、あの…話の続きなんですけど…」


「家族に会ってみたいと思わない?」


「えっ?」


「知り合いが見つけてくれたの。これから会いに行く。


名前は、そっちで聞いたのよ」


「か、家族…オレの、家族…」


本をポケットにねじ込み、立ち上がる。


「じゅ、準備はできました!早く、早く行きましょう!」


「よしよし。じゃ、急いで!」




「アジトの入口らしきものを見つけた」


地下へ続く階段の入口には、既に追っ手が待機している。


「こちらも確認した…他に出入口がないか調べる」


その時、他の仲間は、建物の周囲を回って抜け目なく調査していた。


「この建物にはない。地下を行く道があるのだろう。


正面から突入して、追い立てろ」


「よし」


数名が階段を駆け下り、扉を蹴破る。


「…やはり、もう逃げているか」


「もう一室あるな。開けるぞ。


ここは…寝室か」


打ちっぱなしの部屋に、薄っぺらな布団が2つ並べてある。


そのうち1枚を蹴ってどかすと、『蓋』のようなものが見つかった。


「ここだ。俺が先行する」


蓋をどかし、現れた穴に飛び降りる。


後を追って数名が突入、先行する者に問う。


「暗いな…お前の能力でどこまで把握出来た?」


「いくつか枝分かれしているが、まっすぐ進め。


前方80m先、2人だ」


この者は、精神波を放射することで空間を把握する魔法を持っていた。


「この地下道…わざわざ作ったとは思えん。


元からあったのを、利用したようだな」


「そんな事はいい。追うぞ」


「ああ」


全員同時に手裏剣を取り出すと、音も立てずに疾駆した。




「…もう来たのか」


「ど、どうしたんですか?


こんな地下道を移動したり…まるで誰かから逃げてるみたいです」


「あのね、あなたは特別な力があるでしょ?


それを誰かに狙われたら危ないじゃない!


…って警察の人に言われたの」


「だ、だったらどうして警察の人が守ってくれないんですか!?」


言葉に詰まる。


(ぐ…ごもっともな事を…!)


「戒麗刑事!逃げるのは得策ではないぞ!」


背後の追っ手が叫ぶ。


「け、刑事?」


「うぐっ…」


もういい加減に誤魔化しきれぬ。


「そ、そうよ!警察の人は私!」


「ええ?何で隠して…」


「え~っと、だから、任務的な、アレがあるの!


家族に会いたいんでしょ!?つべこべ言わずに逃げる!」


「は、はいっ!」


素直なお返事である。


もっとも、どちらにしても捕まったらおしまいなのだから、それも当然ではある。


「クソ、早いっ!どっかでまかないと…!」


「あっ、戒麗さん危ない!」


逃げながら、アニマは戒麗の背中側に回った。


「何を!?」


アニマの肩口に、手裏剣が突き刺さった!


「うぐぅっ!!」


「バカッ…何やってんの!?」


倒れ込むアニマに肩を貸し、再び走る。


「い、いや…怪我するなら、傷がすぐ治るオレの方がいいかと…」


「思い切り良すぎよ!それに…その傷!


すぐ治るったって、2秒や3秒で治るわけじゃあないんでしょう!?」


傷口はもぞもぞ動き、手裏剣を排出したが、まだ血を噴き出させている。


脳の一部が封印されて再生の制御が効かないため、再生力自体を落とすことで制御しているのだ。


つまり記憶が戻らぬ限り、再生は不完全のまま。


「うう…確かに、不死身ってほどじゃなさそうですね。


痛い…ううッ!」


(クソッ、記憶を取り戻す前に死なれたら困るぞ)


壁面のハシゴに、黄色いビニール紐が括り付けてあるのを発見すると、紐を解き、アニマを登らせる。


「く、す、すみません…迷惑おかけして」


「いいから早く登って!追いつかれる!」


この上は偽装マンホールになっている。


もちろん、偽装とはいえ蓋は本物と変わらぬ重さ。


「うう、くうううう…!」


その重さ、約40㎏。


「もういいわ、私が開ける!」


「でも、そんな暇ないですよぉ…う、うう、ふううううんッ!」


一瞬、全身の筋肉が隆起し、次に蓋が高く跳ね上げられた!


「わお」


「え、えへへへ!やったあ!」


腕力の制御も、リミッターがかけられている。


ほんの一瞬のみの解放しかできないだろう。


「あ、いててて…」


「痛いのは分かるけど、急いで!」


何とか這い出して、ぶり返してきた痛みをこらえつつ、必死で逃げる。


「うわっ、何だぁ!?」


突然マンホールが吹っ飛んだので、通行人はそりゃあ驚く。


ちょっとした騒ぎになるが、これがむしろ幸いした。


「…まさか街中に逃げるとはな…」


「どうする?犠牲はいくら出しても…」


「やめておけ。奴のそばには『目標』がいる。


この場でやり合えば、公安の上層部は『目標』にも目を付けるだろう。


それは避けたい」


「ああ。後は『あの人』に任せよう」


男たちはマンホールを登らず、静かに退散した。


その頃2人は、街中を走り抜けている。


「へぁ、ああ…と、ところで、どこに逃げるつもりですか?」


「とりあえず駅!電車に乗る!」


駅はすぐ近くにある。


もう大丈夫かと胸をなでおろした矢先。


「待て、コラァ!」


すわ追っ手かと振り向く2人が見たのは、怒り狂った男!


「テメェらにマンホールの蓋ぶつけられた者だよ!


こっちは危うく死にかけたんだぞ!」


「…そりゃご愁傷様!」


安堵しつつ向き直り、とっとと走り去る戒麗。


「す、すみませんでしたぁ!」


謝罪しつつも全く足を緩める気のないアニマ。


「ふっざけんじゃねえぞコラァ!」


更に怒って追いかけてくる男。


この3名の奇妙なマラソンは20分ほど続いたが、そのうち駅にたどり着く。


「ねぇ、あのオッサンまだ追いかけてくる?」


「ああ、えっと、はい!」


「ちょ、もう話付けた方が早いでしょ!一旦止まろう!」


「は、はい!」


2人は急停止して振り向く。


「あのさぁオッサン!私たちどうみても華奢な女2人よ!


しかもこの子は怪我してる!どうやってあんなもん持ち上げるのよ!」


「は、はぁ!?だってお前らマンホールから…」


戒麗は相手を呑むような勢いで、


「はぁ!?マンホールから出てきたら皆怪しいわけ!?


だったら作業員は皆容疑者じゃない!」


「そ、それは無茶ですよぉ…」


男はその勢いに押されてか、少し後退しつつ、


「な、何だと?」


と語気を弱める。


「アンタのほうが怪しいじゃない、女2人を追いかけ回して!」


「む、むむ…」


戒麗が迫り、男が下がる。


勝負あったか。


否、それどころではない。見よ!


「お、俺にも確かに悪い所はあったが…」


そう言う男の右袖から、刃物が覗いているではないか!


そしていつの間にか、後退するのをやめていた。


「ねえなんとか言いなさいよ!ねえほら!」


戒麗たちは気づかない様子だ。


「ぐぐぐ…しかし…」


2人の距離が詰まる。


刃を指で挟み、袖から一気に引き抜こうとする…


「あら、どうしたの?」


「「「!!」」」


驚き、声の方を見る。


白い髪に赤い眼、アニマがそっくり小さくなったような顔。


「ここに私の家族がいるって聞いたのだけれど…」


「あ、あなた天眼通の見つけたって言う、この子の家族!?


どうしてここに?」


「自分で迎えに行ってあげたら喜ぶって、その人がね。


で、これは何事?」


男と眼が合う。


その1秒足らずに、2人はお互いの全てを理解した。


「…チッ、今日は引き下がってやる!」


「そうしてもらえると助かるわ。


せっかくのご対面ですもの」


アニムスが、ふてぶてしくアニマを見る。


「あ、ええと、あなたが…?」


「記憶喪失とは聞いていたけれど。


実際目の当たりにすると中々ショッキングね」


対してアニマは、あまりにも混乱していた。


「あなたは、ええと、オレの…いもう」


「姉よ。当然ながらね」


更に混乱する。


「え、あ、そうなんですか!は~、なるほど…」


「…これは重傷ね。まあいいわ。その辺の話は、戻ってからにしましょう」


「そうね。2駅だから、すぐつくわ。慌てず、ゆっくり話しましょ」


こうして、とりあえずの苦境は脱した。




先ほど男はというと…


『どうでした?』


「いや、仕掛けなかった。街中でやるには、少し骨が折れそうだ」


『頭領がそこまでおっしゃるとは…。


分かりました、帰還します』


「おう」


通話を終了し、懐を探った。


「…あの女」


取り出したのは、黒い能面だ。


被ると同時に服がはらりと脱げて、忍者装束が露わになる。


(最初は放っておくつもりだったが…記憶喪失と聞いて少し欲が出たか。


それでも、俺自ら出れば殺れると思ったが…あの女、只者ではない)


霊拳会から盗んだ資料で知ってはいたが、事実のようだ。


(『アルビノの女』は2人…姉妹だったとは。


ともかく、片方が記憶喪失で力を発揮できないうちに、始末せにゃあな…)


封魔忍軍頭領は、風となって消えた。


〈つづく〉


どうしようもない名鑑No.67【封魔忍軍の忍者】

とにかく金が儲かる話に片っ端から首を突っ込んでいく方針の

封魔忍軍は、元々アマツガルドの傭兵組織だった。

世界各地に特殊なコネをいくつか持っている事に目を付けた

『運営』に声を掛けられ、『同盟』入りした経緯を持つ。

そんな組織に属する忍者たちは、上から下まで金に目が無い

守銭奴が揃っている。

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