アゲハ蝶
雲ひとつない無垢な青い空。私はまだ幼かった。
あなたは私が幼虫だった頃からずっと私を見つめていた。初めはその視線が怖かった。
けれどあなたは何もしてこない。バカな私は優しくされたと勘違い。やがてあなたに恋をした。
空には暗雲が漂う。私たちの雲行きも、怪しくなってきた。
しばらくして、サナギになった私は殻を破り、大きな美しい羽を広げて羽ばたいた。
あなたの視線は更に私に注がれた。あなたの視線が快感だった。
あなたは私の成長を待っていた。じっくりじっくり、時間をかけて。
私はその意味にやっと気づいた。気づかされた。だって私もあなただけを見ていたから。
地上の嵐は全てを飲み込もうとしている。運命の嵐は私の心を飲み込もうとしていた。
あなたへの愛が止まらない。それならばあなたの役に立ちましょう。
私はあなたの巣に飛び込んだ。紡いだ糸に絡まれ、何本もの足に抱かれたくて。
あなたの胸の中で果てるなら本望です。
「愛しいあなたのために私は餌となりましょう。さあ食らいなさい」
これで私は、永遠にあなただけのもの。
END.
Thank You!