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第2話 入学試験

――イオルコス王国――


 コリンティアコス海に面したこの国は周辺諸国と比較すると人口も資源も少ない小国である。しかしながらイオルコス王国を独立国家たらしめるのは魔導士団によるものが大きい。イオルコス王国は他国に先駆けて魔導士育成に力を注ぎ、国家防衛に大規模動員しているのである。

 今やイオルコス魔導士団は最強の名を欲しいままにしているが、この魔導士団を最強たらしめているのは育成組織の充実に他ならない。

 それがこのイオルコス魔導士官学校である。


「ここが試験会場か・・・」


 さすが王国が運営しているだけあって会場は豪華だ。コロッセオのような円形の闘技場になっている。

 試験官は五人いて、その誰もが魔導士の憧れである上級魔導士だ。

 魔道士にも序列があり、魔道士課程の学生は魔導候補生、卒業すれば魔道士になれる。魔道士の中で実績を上げることが出来れば中級魔道士となる。その中でも王国で特別に認められた者が上級魔導士となるのだ。上級魔導士より上の階級となると、大魔導師しかいない。大魔導師は魔導士を束ねる長であり、王国防衛を司る国王の右腕だ。

 試験官の一人が受験生に向けて試験についての説明をはじめた。


「これより、魔導士課程入学試験をはじめる。今回は筆記試験は行わず、戦闘による適正評価を行うことにした。適正が無いとこちらが判断すれば直ぐに地元に帰ってもらう」


 周りの面々の顔つきがすぐさま強張った。魔導士といえば王国中の憧れの職業だ。誰しもがなりたい職業であるのだから、それもそうだ。

 しかし、昨日勉強した魔導書が筆記試験がないために役に立たずに悔しがるユーリを見れたのは良かった。


「まぁ、どうせ俺は無理だし、棄権しようかな」


 そうだ。どうせ魔力適正もFランクだし、早く帰ってゆっくりしたい。夢くらいゆっくりさせてほしいものだと思っていると、


「またそういうこと言うんだから! 一緒に頑張りましょうよぉ!」


 ティファはやっぱり可愛い。ムスッとした顔で俺に説教をたれる。 


「町の代表で試験受けるんだから、棄権なんかしちゃ町に帰れなくなっちゃうけどいいのぉ?」


 ユーリが呆れた口調で非常にまずい事実を告げる。


「いや、そんなことするわけないじゃないか・・・・・・! みんなで頑張ろう!」


 試験官がこちらをキッと睨み、遮るようにして説明を続ける。


「それでは、試験であるが、こちらで選んだ組み合わせで闘ってもらう。闘いぶりを見て我々が適正を判断する。どんな闘い方でも構わないが、魔導士適正を見ているということは忘れないでほしい」


「あと追加だが、死者を出すことは許さないので、危ないときは我々が介入する。以上」


 俺の能力って風が吹く程度だぞ。何をどう戦えっていうんだ。そんな風に心の中で悪態を付きながら順番を待つ。

 ティファの試験はすぐ始まった。彼女は魔力適正も高く、あっというまに相手をなぎ倒してしまった。


「強いな〜。あいつ一人で世界救えそうだな」

「何言ってるの。ティファは上級魔導士クラスの魔力適正よ。そこらへんの連中なら相手じゃないわよ。」


 ティファは基本の魔術なら大半は行使可能だ。だが、氷の魔術に至っては一級品だ。目の前でも相手が氷漬けになろうとしている。


「パゴス・・・・・・フェレイトゥロ!」


 ティファが呪文を唱えると相手の周囲に分厚い氷の壁が立ち上がった。

 壁が閃光を放ったその瞬間、相手は氷漬けになってしまった。


「そこまで! おみごとだ。君は合格だ」

「ありがとうございます」


 試験官に丁寧におじぎをし、振り返り際に俺と目が合う。その際にニコッと微笑む仕草は本当に可愛いものだ。夢なら覚めないで欲しいと改めて思う。

 次はユーリの出番だ。ユーリはどういう魔術なのかを昨日聞いていなかったので、横目で観察していると、対戦相手がいきなり地面に突っ伏した。


「かかったわね。私の催眠を舐めないでほしいわ!」


 なんとも勝ち気なユーリらしいセリフである。彼女も当然合格を告げられていた。


「あとは・・・・・・俺か〜」


 戦闘なんてこれまで経験したこともないし、現実でも喧嘩したこともない。それに加えて魔力適正も最低らしい俺が合格するわけもない。


「適当にやって帰るか・・・・・・」


「ディオス! 頑張ってね! 応援してるよっ」

「ちゃんとやりなさいよ。見ててあげるから」


 ティファもユーリも応援してくれるらしい。やれやれ、どうしたものか・・・・・・


「お前が相手か。なんか弱そうだなァ」


 目の前に現れたのはなんとも敵役といった風貌だ。確実に俺よりは強いのだろう。


「お手柔らかに頼むよ。痛いの嫌だし」


「何言ってんだお前ェ? お前は今日俺が殺してやるよ」


 こいつは試験官が言っていたことを聞いていないのか?頼む試験官、こいつを追い出してくれと念じながら試験官を見るが、試験官は意に介せずといった状態だ。ギリギリにならないと動かないということだろう。


「さぁ・・・・・・始めようぜぇ!」


 言うなり相手は飛びかかってきた。すぐさま後ろに避けるが、一歩遅かった。腹にめがけてパンチが飛んでくる。


「ぐはぁ!?」


 咄嗟に腕でガードしたが、想定した以上に痛む。ただ殴られたのではない痛みが全身を駆け巡る。


「痛えだろ? ただのパンチじゃないぜ。くらえばくらうほどお前は死に近づくんだよぉ!」


 おそらく魔術か何かだろう。しかし俺にはろくに使える魔術が無い。ひとまず避けるしかない。何か方策を考えるしかない。


「クソッ 丁度いい感じに負けようと思ったが、相手がああだと無事じゃ済まないぞ」


「ずっと避けるだけじぁ、俺には勝てねえぞぉ!!」


ドコオッ!!


 気付いた時には宙を待っていた。目線の先にティファ達がいる。二人が何か叫んでいるが、全くわからない。空と地面が反転している。

 おそらく頭をやられたらしい。意識が遠のいていくのがわかる。これで負けは確定だろうが、これで現実世界に引き戻されるのか。

 その刹那、忘れていた記憶をうっすら思い出した。


「前にも殴られた記憶がある・・・・・・」


 誰かに殴られたような、黒い人影を思い出した。そして傍らには小さな少女の姿があった。少女は俺に何かを叫んでいる。しかし、それ以上は何も思い出せない。

 その時、脳内に直接語りかけるような“声”が聞こえた。


「・・・・・・お前に授けよう・・・・・・」


 声が聞こえる。


「・・・・・・さぁ、新たな人生を歩むが良い。そして見つけ出すのだ」


 そっと目を開ける。真っ白な景色にぼんやりと人影があった。


「一体誰なんだ・・・・・・」


「いずれわかる。お前はこの世界で為さねばならないことがある」


 まったく何が何だかわからない。耳鳴りがする中、質問を続ける。


「どういうことだ! これは夢ではないのか!?」


「これもまた現実だ。お前はあの時死んだのだ」


「こっちの世界に来る前に誰かに殴られたような気がするんだ! あれはどういうことだ!」


「まだ知る必要はない。お前はその“権能”を使い、使命を果たせ」


 眩い閃光が全身を覆った。その刹那、地面に叩きつけられた。さっきの現象は一瞬のことだったらしい。


「まだ死なねえのか。しぶてぇ野郎だ!」


 そうだ。たしかコイツに頭を攻撃されて・・・・・・ あれ? 痛くない。まったく痛みがなかった。それに、全身に力を感じる。


「オラァ!」


 敵の攻撃が襲いかかる。しかし、これまでより相手の攻撃が遅く見える。まるでスローモーションのようだ。


「なに!? どういうことだ!!」


 相手は今の俺の動きが理解できないらしい。再び攻撃を繰り出してきたが、それを受け流して相手のみぞおちにパンチを繰り出す。


「ウッッッ!!!」


 相手が3mほど吹っ飛んだ。明らかに強くなっている。試験官も先ほどまでとは様子が違うこちらを驚いたように見つめる。

 そして使える筈もない魔術を自然と口にだす。


「・・・・・・ブロンティ・トゥ・セオゥ・・・・・・」


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