先輩
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源さんに連れられて部屋を出た俺はそこからまた別の部屋へと案内された。
扉が開き部屋に入るとそこは屋外だった。
「あれ? ここは外、ですか?」
「いや、ここは訓練用の部屋の一つでこの風景は擬似的に作り上げられたものだよ、後輩くん」
源さんに尋ねたつもりが、唐突に響いた別の声で答えられる。
その方向を見るとそちらには俺と同年代くらいの女性がいた。その格好は何となく制服だとわかる雰囲気の服を纏っており、腰に佩いた刀を除けば学生らしいと言えそうだ。
茶髪を後ろで括った、整った顔立ちのその女性は興味深そうな目でこちらを見ながら話しかけてくる。
「姫野リサです。この学校の生徒で君の先輩ってことになるかな」
そう言って差し出して来た手を半ば反射的に握り返し、こちらも自分の名前を名乗る。
「八色迅です」
その様子を見て源さんは、「これからのことは彼女に任せているから」と言い部屋を出て行ってしまった。
彼が出て行くのを見送ると早速とばかりに姫野さんは俺を質問責めにする。
年齢や趣味といったものから、この場所に来た経緯についても聞かれた。最も経緯の方についてはおそらく源さんから聞いていたのだろうが、俺と打ち解けるために色々と質問したのだろう。
「それじゃあ、そろそろ本題に入ろっか。君はサムライのことほとんど知らないって聞いてるから、まずは基本的なことを最初から話すね」
しばらくお互いのことを話せて満足したのか、ようやく本題に入ってくれるようだ。
サムライになると決めたが、正直言って本当に何も知らないので先輩のその申し出非常にありがたい。
「サムライがアヤカシの力を取り込んでいて、アヤカシと戦っているっていうのはまあ大体その通りだから詳しい歴史については今日は省くね」
一般的にはその程度しか知られてないし当然俺もその程度の知識しか持ち合わせていない。先輩は今日はそこは掘り下げず別のことを話してくれるらしい。
「具体的にはどんな力を使ってどう戦うのかをまず教えようと思うの。そのためにこの訓練室に連れてきてもらったんだ」
そう言って部屋の中央をちらりと向く先輩を見て俺も改めてこの部屋を見回す。
それにしてもこれほどリアルな風景が部屋の中に作りだされたものだとは、今更ながらどうやら俺はとんでもない世界に足を踏み入れてしまったらしい。
そんな益体のないことが頭に浮かんだが、今はそれよりも先輩の話に集中せねばいけない。
「百聞は一見に如かずってね。今から少し戦うから、八色くんは後ろで見てて」
そう言って壁際の装置を何やら操作し終えた先輩は部屋奥に向かって歩いていく。
『ーー対アヤカシ下等種の群れを想定。戦闘訓練を開始します』
流れてくる機械音声と共に、部屋の中心部の地面から異形の群れが出現する。
あれがアヤカシであることは見たことはなくとも直感でわかる。そんな禍々しさを纏っている。
そんな存在へと先輩はなんの躊躇もなく刀を抜きながら向かっていった。