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決断



 (みなもと)さんは真剣な顔をつくると一度言葉を切る。

 それにしてもこの部屋の壁はどれ程厚いのか、誰も話していないと異様に静かだ。そもそもここは何の為の部屋なんだろう。

 両親の安否を確認できて心が緩んだのかどうでも良さそうなことを考えてしまったが、まだ大事な話は続いているのだ。そう思ってもう一度集中して源さんの声に耳を傾ける。


「さて此処のことを説明する前に、まず一番始めに君に話さなければいけないことがある」


 源さんはかしこまった様子でそう話をきり出した。


「というのも、君が倒れている間治療のために身体の精密検査をさせてもらった」


 源さんはすまなそうに言うが、状況を考えればそれは必要なことだったように思える。


「治療のためならむしろお礼を言いたいくらいですが……」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 だが源さんは許可を取らなかったことに申し訳なさを感じていたのだろう、俺が問題ないことを告げると肩の荷がおりたかのように表情を和らげた。


「それで、これはその検査でわかったことなんだがーー」


 一転して真剣な顔を見せる源さんに俺は思わず喉をならす。そして案の定彼の口から飛び出た言葉の内容は衝撃的なことだった。


「君の血にはアヤカシの力が流れている、つまり君にはサムライの素質があることが判明した」


 呆然とする俺をよそに彼は流れるように詳細を紡ぐ。


「それも君の血に流れる力の強さ、濃さを表す血統深度は我々の中でもトップクラスのものだ」


「で、ですが。父も母も、俺の家系はサムライの血統なんて……」


 ようやくなんとか絞り出した俺の言葉に、彼はその質問も予想していたかのように即答する。


「ああ、そう思ってこちらも色々調べたがどうやら君はとある鬼種(きしゅ)血統の傍系の傍系のそのまた……いくつも傍系を挟んだ末の血統だった。そして君は先祖返りかのように大元の血を濃く発現したようだ」


「そんなことが……」


 あまりのことに思考が停止してしまいそうな俺に、源さんは一つの重大な選択肢を突きつける。


「そこで君には一つ決めなければならないことがある」


 正直これ以上まだ何があるんだという疲れた気持ちだったが、これだけは聞かなければいけないと直感が告げていた。


 俺の心が整うのを待つかのように一拍あけてから、源さんは切り出した。


「ーーすなわちサムライになるか、ならないかだ」


 その言葉聞いた俺はそれが自分の人生を左右するものだと理解し、しかしすぐに自分の中で答えが出た。


 正直あの時のことはなぜかはっきりと思い出せないが、アヤカシに抱いた怒りと何もできない無力感、絶望感だけは確かに覚えている。


 それゆえに答えは一つに決まっていた。


「なります。サムライに」


「……それは、よく考えた上での決断か?」


 俺があまりに早く答えたものだからか、源さんは厳しい目でそう問うてくる。

 だが俺の中でその選択が揺らぐことはない。


 何故ならーー。


「はい。俺は、サムライになってアヤカシから人々を護りたい。もう二度と、俺の町のような被害を生み出さない為に」


「そうか……そう言ってくれるか」


 源さんはふっと体にはいっていた力を緩めると穏やかに笑う。


「君の町への襲撃を事前に止められなかったように、サムライは全知でもなければ全能でもない。特に人手不足は深刻な問題だ。君がその身に宿る力を十全に振るえるようになってくれればサムライの、ひいては人々の助けになることだろう」


 そうして、俺のサムライとしての日々が始まったのだった。





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