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目覚め



「その上でもう一度尋ねますが、本当に彼を殺さずに、あまつさえ士養機関である此処に入れさせるのですか?」


「それはーー」

 

 ーージリリリリリン、ジリリリリリン。

 

 男ーー源之正(みなもとこれまさ)が何か言おうとりた瞬間、部屋の伝令器が鳴り響いた。

 

「私だ……そうか、わかった。今から行く」

 

「どうされました?」

 

「彼が、八色迅(やくさじん)が目覚めたらしい。私は彼の所へ向かうが君はどうする?」

 

「…-もちろんお供しますが」

 

「では、行こうか。話の続きはまた後で」

 

 その言葉に女ーー名波桜(ななみさくら)は渋々と同意し、之正の後を追った。

 

 

 ずきずきとする頭の痛みによって俺は目を覚ました。

 

「ぐ……ここは何処だ」

 

 重い頭を動かし辺りを見回すがまったく見覚えのない場所のようだ。

 広めの部屋の中心にぽつんと置かれたベッドに寝かせられているようだが、病院にしては部屋の使い方が非効率に思える。

 また床や壁、天井に至るまで統一感のある、墨のようなもので描かれた不思議な模様もこの部屋の異様さを醸し出している。

 

 そうしてしばらく戸惑いながらも周囲の様子を観察していた俺の耳に扉をノックする音が聞こえる。

 

「……どうぞ」

 

 現状が全くわかっていないため誰かいるというのは好都合だ、と平静を保つように返答をした。

 ……ノック音がするまでそこに扉があるのさえ気づかない程壁に溶けこんでいたため少しぎょっとさせられたが。

 

 スッとほとんど音も無く扉がーー引き戸だったようだーー開くと三十代ほどで優男風の、それでいて仕事はできそうな印象を与える容貌をした男が部屋に入ってくる。ついで、男の後ろからは男よりやや若そうな、秘書風の美女が入ってくる。

 女のほうはじっとこちらを観察するように見ている。美女に見つめられるのは良いが、危険物を警戒するような目で見るのは勘弁して欲しい。

 

「混乱しているだろうが、まずは自己紹介でもしようか。私は源之正、この場所の長をやっている。館長でも校長でも神主でも好きなように呼ぶといい。それからこちらが」

 

「名波桜です」

 

 ぺこりと軽くお辞儀はしてくれたが、名前以外に何か言うつもりなさそうだ。

 源之正と名乗った方が促すような仕草をしたため、こちらも自己紹介をした方がいいのだろう。

 

「八色迅です。ええと……池垂町(ちすいちょう)の出身で、?!」

 

 自分の出身を話そうすると治まろうとしていた頭痛が再燃する。

 それとともに自分がここに運ばれて来る前のことを唐突に思い出す。

 

「っ……そうだ。町がアヤカシに襲われて! 町は、父と母は無事ですか!」

 

 何故今まで忘れていたのか、一度思い出すとあの時の絶望感まで蘇ってくる。

 

「あなたは……」

 

「こほん。はっきり言うと君の家族は重症を負っている、が助かる目処は立っているため安心してくれていい」

 

 女性の方ーー名波(ななみ)さんが何か言いかけるのを遮った(みなもと)さんの説明に思わず顔が歪む。

 

「今から会いに行くことはできますか?」

 

「残念だが、助かるとは言ったものの予断を許さない状況でね。しばらくは医療関係者以外が接触するのは望ましくない」

 

 確かに俺が会いに行ったことで治療が邪魔されるのは避けたい。

 今しばらくは両親が無事助かることを祈るしかない。

 

 そうと決まればまずは自分の現状を確かめるのが先だろう。

 

「まず、町のことを詳しく教えてくれませんか」

 

 俺がそう言うと源さんは一から話してくれ、俺の質問にも一つ一つ答えていってくれた。

 

 簡単にまとめると、襲撃したアヤカシは特定の場所にとどまらない性質のもので、中でも狡猾なアヤカシだったためサムライの警戒網を潜り抜けていたらしい。町が山間部で小さな所だったのも理由の一つなのだろう、サムライは強力だが数は多いとは言えないのだ。

 また、アヤカシは討伐されるも町は半分ほど焼失してしまったらしい。幸いなことにーーそして奇跡的に、とも源さんは言ったーー死者は出なかったらしい。そのことを聞いて素直にほっとした。ただ、一番被害を受けたのが俺の一家だったというのは己の不幸を心から恨んだが。

 

「……なるほど、ありがとうございました。説明してくれたこともそうですが、あなた方サムライが町を救ってくださったんですよね」

 

「まあ最終的には、そうだね」

 

 歯切れの悪い言い方だが、アヤカシの襲撃を許してしまったことについて言っているのだろう。

 

「ええと、それじゃあ次々と申し訳ないんですがこの場所についても聞いていいですか?」

 

「ああ、そうだな。我々にとってはそちらの話がとても重要になってくるだろう」

 

 そう意味深な言い方で源さんは話し始めた。



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