竜と鬼
和と洋が混在した、それでいてどこか趣きのある部屋で男と女が会話をしている。
「彼への対処は本当にこれでよかったのでしょうか」
透明感のある若く美しい女が懐疑的な様子で質問を投げかける。
「それはどういう意味でかな? 名波君」
「もちろん、八色迅を殺さずにこの社に入れたことについて、です。むしろ私より源殿のほうが彼の危険性はーーつまり、鬼種の血統の危険性はご存知のはずです」
「……そも、アヤカシの力が危険でないことなどないだろう? 彼に限ったことでもなく」
自分の問いにのらりくらりと答えることのない男に対し、女は少しきつめに言葉を放つ。
「とぼけないでください! 我々サムライは先祖から強大なアヤカシの血を受け継いでいますが、皆が同じ性質の血なわけではありません。今更言うまでもありませんが!」
「まあ、そう怒らないでくれ。一つずつ確認していっているだけだよ。当たり前に思っていることであろうと一度は言葉にした方が整理しやすいものだ」
女の様子に肩をすくめると、男は言い聞かせるような口調で語り始めた。
「かつて我々の祖先はアヤカシの血肉を喰らい、その力を自らのものとした。そんな英雄と呼ばれる人物が何人かいたということだけでも驚きだが、それもそれぞれが別々のアヤカシを喰らっているというから先祖様方の偉大さがわかる。そんな先祖様方は人類の逆境を覆すために大物を狙ったわけで、アヤカシの大物とはすなわち"竜"と"鬼"だ。故に、彼らの血を受け継いだ我々サムライも竜の血統と鬼の血統に分かれる」
男の説明に女はそれくらいわかっている、とばかりに頷く。
「はい。そしてそもそもアヤカシの力の暴走のしやすさはどちらにも言えることではありますが、それでもやはり鬼の血統は不安定な爆弾とでもいうべきものでしょう」
「確かに私も鬼種の血統を持っているが故に、その不安定さは身を持って知っているとも。不安定な爆弾とはまさにその通りで爆発のトリガーもわからなければ、もう爆発しなくなったのかどうかすらわからない。私も今この瞬間に暴走するやもしれない」
女はいつも泰然とした様子の彼が暴走する姿がイメージできなかったが、それは内心に留めて早く話を先に進めるようにつとめた。
「そうです。そして八色迅の血統の深度は前代未聞の測定不能です」
「……ああ、私よりも濃いことだけは確かめたけどね」
彼自身の口からもう一度それを聞くことで女はより一層その希少性を確認するとともに危機感を募らせた。
「あなたの時でさえ、既存のA級の枠に収まらなかったためにA+級が作られたことは衝撃的だったのでしょう? それを上回る、それもプラスが増えるでもなくX級ーー未知・規格外とまで言われているのですよ。その上でもう一度尋ねますが、本当に彼を殺さずに、あまつさえ士養機関の此処に入れさせるのですか?」
「それはーー」
○源 之正
血統:鬼種A+級
真言:瀑布
転生刀:膝切り丸
鬼種血統の名門源家に名を連ねる。クレナイのヤシロの長。外見年齢は三十歳ほど。
○名波 桜
血統:竜種A級
真言:朔の月
転生刀:未所持
竜種血統の中でも高い濃度の血を受け継いでいる。士養機関の中でも鬼種派のクレナイのヤシロに所属している理由は不明。