プロローグ
かつて人間とアヤカシの戦いは人間にとって極めて苦しい状況が続いていた。
始めは人間も抗っていたが、死者がその数を減らすことはなく、その反面アヤカシの勢力は衰えを知らず、むしろその数を次第に増やしていきさえした。
やがて人間はアヤカシに見つからぬように隠れ住み、寝る時さえ心安らぐこともないまま、息を殺して暮らすようになった。
だがそれでも人間は考えることをやめず、アヤカシに対抗するためのある一つの方策を講じた。
それは、アヤカシの力を人間の身体に取り込むというものだった。
人間は狡猾に作戦を練り、多くの犠牲を伴って、そうして遂にとある強大なアヤカシを討ち取った。
そして討ち取ったアヤカシの血肉を浴び、飲み、喰らった人間はそのアヤカシの強大な力を身体に取り込むことに成功した。
以降その英雄によって多くのアヤカシが消滅し、次第に人間が安全に暮らしていくことができる領域が拡大していった。
しかし英雄も不老不死になったわけではなく、アヤカシを討伐し人間の生活領域を解放する役目はその子孫へと受け継がれていった。
その血脈は現在まで繋がり、今でも人間の平穏のためにアヤカシと戦っい続けている。
そんな彼ら彼女らを、人々は畏敬の念をもってこう呼ぶのだ。
即ちーー。
ーーサムライ、と。
*
どこからか冷たい声が響いてくる。
『チカラが欲しいか』
チカラが欲しい。
生き残る為のチカラが。
『ならばお前の欲望を叫べ』
チカラが欲しい。
護る為のチカラが。
『もっとだ。もっと我に欲望を捧げよ』
チカラが欲しい。
なによりも、あの怪物を殺すためのチカラが。
『それで良い。欲望こそが我ら鬼の本懐』
身体にチカラが満ち溢れる。
とても良い気分だ。これなら彼奴も楽にひねれるだろう。
あれ、彼奴って誰だ。
『欲の為にチカラを振るい、しまいには欲したモノを自らで壊す。それこそが、鬼の性』
その時のことを俺はよく覚えていない。
ただ、辺り一面に炎が広がる地獄のような光景と。
何故か心が締め付けられる誰かの苦しそうな声と。
それから、生まれてから最も聞いてきた声で発せられる、おぞましい笑い声だけが脳裏に焼き付いている。
○八色 迅
血統:鬼種S級
真言:不明
転生刀:未所持
鬼の力を取り込んだ英雄の子孫の中でも特に色濃い血を発現した。その血統等級は測定不能のため、新たな枠を設けた上で暫定的にその枠に分類された。サムライ固有の真言は未だ発現していない。