入学式と冒険者達
アミル視点です。
劣等生みたいにするつもりが何故かダメ人間になってきた...章のタイトル変えるかもしれません。
前世の記憶を思い出すといつも入学式や卒業式の時期になると桜が関連してくる。馴染んだ者達とのお別れと新たな出会いへの期待が込められているように思える桜。だが大人になるに連れてその桜の意味が変わってきて綺麗だとは思えても同じような別れの悲しみや出会いへの期待は儚くも消えてしまう。多分乙女ゲームの主人公は今頃新たに貴族以外の生徒たちを受け入れることにした学院を前に緊張と期待で思い溢れているんだろう。同じようにもう一人の奨学生も似たような気持ちで新たに友達を見つけるのかもしれない。他の貴族たちは恐らくは彼女たちを見下しているか無視するかのどちらかの態度じゃないかと思う。
実際にその反応や態度を確認することは今できない。何故なら今冒険者である編入生達全員が入学式を揃ってサボったから。
そう、王都の冒険者ギルドで酒を飲むために面倒くさく堅っ苦しい入学式をサボった。
「ったくよぉ、お前らそれでよく学院に編入出来たな。これが貴族のボンボン達が通う学院の生徒には見えんよ。」
ジロールは呆れながらもニヤついた顔で俺たちに心が籠ってない説教を下していた。
「だってあんな堅苦しい雰囲気なんかイヤだ!あとお兄ちゃん、いい加減に私にもちゃんとしたお酒を飲~ま~し~て~!」
こちらの世界では飲酒に対する年齢制限の法は存在していない。よって飲酒の責任は本人、あるいは保護者にある。エメラルダにはシスコンな兄がいるため、ほぼ酒を飲んだことはない。せいぜい果実水で割ったお酒、それも指で舐めた程度のものしか飲んでいない。当のお兄さんは少し酔っているのか無表情を貫き通して手元のブランディ―を飲んでいる。
「しかし珍しい組み合わせだな~こりゃ。あんたらどんちゃん騒ぎの時以外ほぼ組んでいるパーティーと一緒だから当然と言っちゃあ当然だけどな。新たなる学院の人生が君たちを引き合わせた運命、ってか?」
「冷やかすんじゃねぇよ、ジロール。せっかくあの堅っ苦しい場所から逃げ出してきて酒飲んでんだから。とは言っても客が俺たちしかいないから話し相手がいなくて寂しいんか?」
「バカ言え、今何時だと思ってんだ。全員クエストやら依頼やら稼ぎに行ってるに決まってるだろ。あんたらのとこのパーティー以外の大半はアルタイル迷宮の調査が進んで上の方の階が立ち入り自由になったから稼いでるんだよ。お、暇そうな奴がもう一人来たぜ。」
ジロールの見ている方向を見るとちょうどギルドに入ってきたアンリがいる。ネルソン兄妹と同じ“エル・ニーニョ”のパーティーの彼女は二人が学院に通う最中は大抵暇している。
「あら~エメルちゃんにティオ、そしてアミルもエリシアちゃんもいるじゃないの~。こんな朝早くから学院の方をほっぽって飲んだくれてどうしたの~?私も混ぜてよ。ジロール、私にも一杯!」
「アンリ~お兄ちゃんがお酒飲ましてくれないよ~」
「アンリさん、おはようございます。いつも妹がすいません。」
「あなたはまだ育ち盛りだからお酒はだーめ。ティオ、あなたもお兄さんだからもう少ししっかりしなさいよ。リーダーがあなた達の事を心配していたわよ?」
そう言いながら皆が座っているテーブルからワインの入ったボトルから直接飲み始めた。いつもの事だがぎりぎり胸がはち切れそうな露出度の高い服を着ていてよくポロリがないと思う。だが、アンリは一見露出度が高い飲んだくれのお姉さんに見えるが物凄い面倒見のいいところがある。
一方隣に座っている魔女っ娘は対照的にローブや魔女帽子などの暑苦しい服装は全くぶれない。まるで服装を殻にしているヤドカリみたいに閉鎖的で無口な一面がある。着やせしているのではないのかという噂もギルド内で流行ったがそれはロリッ娘と言われて暴発した事により誰も面と向かって話さない。
「それよりお前ら、朝っぱらからこんなにも飲んだくれてるとダメ人間まっしぐらだぞ?よくそれだけ飲んで酔っ払わないな。」
飲んでいた酒から目を離すとジロールの言うことに納得する。ティオは完全に目が死んでいて目の前にはビールの空瓶が一ダース程転がっている。アンリは出来上がってからギルドに来たのか、先ほどのワインを飲み干してエリシアにもたれかかっている。逆にエリシアは先ほどまでは度数の高い酒をちびちび飲んでいたがエリシアの豊満な胸が押し付けられて不愉快なのか、ショット単位ではなくグラス毎に飲み干している。自分も見ればテーブルに足をのせて酒の瓶を手に背もたれにもたれかかっている。
「酔えませんよ、ジロールさん。」
「...ん」
ティオの言う事にエリシアが同意する。アンリも飲んだくれているようには見えるが、ジロールの指摘で目だけは死んでいるように見える。エメルも急にはしゃぐのを止めて兄のティオに背中を預けるように席に座る。前にローザと一緒に来た時アンリは妥当な事を言った、ここにいる皆は訳ありだと。アンリの飲んだくれたふり、ティオの頼りなさと妹を大事にする思い(はっきり言ってシスコン)、エメルのハイテンションな性格、エリシアの服装と言葉の少なさ。それぞれにここにいる訳があり俺と同じように何かしら話したくない思い過去もあるのだろう。
「ジロールさ~ん!あ、丁度良く皆さんもここにいらしてたんですね。」
どんよりとした空気をのほほんとぶち壊したのはジロールの同僚であるギルド職員のフィリシアだった。ジロールと同郷の女性で同じ妖獣族でもある。当然ながらケモミミです。エリシアもケモミミの魅力を理解しているのかフィリシアの耳をじっと見ている。ただもう一人そのケモミミの魅力の理解者はその魅力に負けていてその耳を弄んでいる。アンリだ。
ドカン!
言うまでもなく、美女が美女らしからぬ格好で地面に伏せている。
「実のところギルドマスターに学院の方から先ほど連絡があったみたいなんですよ。」
何事もなかったかのようにフィリシアの発した言葉が酒で鈍っている思考回路をめぐるのに時間がかかる。
「お兄ちゃん、今日は用事があった。」
「そうだね、エメル。」
「...お代」
「じゃまたな、ジロール」
当然ながらも一番酔っ払っていないエメルが最初に反応し、行方を晦ます方針みたいだ。エリシアと続いて俺もギルドを後にするべく、平常心を装ってお代を残す。
「実はあなた達編入生達が碌に入学式に出頭しないでどこで何をしているのか知りたいそうですよ?一応学院で忙しくなる前にギルドの依頼を頼んでいます、と伝えておきましたが、実のところ酔っ払っているだけと仰ったらどういう処罰が下ったのか教えてくださいね?」
嵌められた。王都に下りればどのみち入学式で忙しい学院側は所在を掴めないだろうとの事でギルドで飲む事にしたのが逆に仇になったみたいだ。そして全員が脅迫されているとはいえギルドでは重要な役割を果たしているギルド職員の一人であるフィリシアには頭が上がらない。皆が座りなおしたところを確認し、フィリシアはお願いという脅迫の説明をする。
「実は丁度皆さんに即席パーティーでもこなせるような依頼が山ほどたまっていまして、出来ればそれを全部片づけて欲しいのです。勿論報酬はちゃんと支払いますし、学院には私たちが説明しておきますから、皆さんは働き者だと。報酬からは勿論今までの酒代は引きますが。」
笑ってない笑顔でフィリシアはお願い(脅迫)する。
「あらら~、あなた達大事な学院行事をサボった付けが回ってきたみたいね。」
アンリは愉快気に言う。
「アンリさん?確かあなたは酒場で先日暴れまわった勘定、そして毎度の酒代は払っていませんよね?」
可愛らしく首を傾げるフィリシアだが今の俺達にはそれが悪魔的に見えてしまう。
笑顔だったアンリが凍り、そしてゆっくりとテーブルの席に座る。同時に依頼が乗っている紙束がテーブルの上に乗っけられる。それはギルド内では悪名高い依頼の山だ。
「下水スライムの討伐...マジかよ。」
上の依頼を手に取ると嫌な詳細ばかり乗っている依頼だった。
「あはは...」
エメルも笑顔が完全に引き攣っている。兄のティオの方は完全に諦めているみたいだ。
「ゴブリンの巣の壊滅:複数あり...これはあんまり酷くなさ...ゲっ...騎獣のロットファングもいるの~?あの、匂い全然落ちないのよ~」
アンリも少しばかり希望を持ったがその希望はすぐさま打ち砕かれた。
目の前にある依頼を数枚とって目を通すと似たような依頼が多い。妖獣族は鼻が良く効くので匂いの強い依頼は大抵避けるし、ゴブリンとかその他の魔獣とかの巣も地道な作業が多いし素材も目ぼしいものがないので避けられることが多い。そこで、皆に少しでもやる気が出るような条件を我が麗しきギルド職員があざと可愛く言う。
「一番稼いだ人には~私が~...極上のお酒を数本用意して酒場のつけをチャラにします!!」
...
「「「「「乗った!!」」」」」
お酒を飲むのはちゃんと法を守りましょう!アメリカだと二十一歳が飲酒年齢なんですよね。でも州毎に保護者の許可があれば公共の場で飲めるんですよ。