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呪いと優しさ

またも伏線ギッシリ...すいません。

どう描くかは物凄い悩みました。


アミル視点です。少々残酷な描写があります。


二話ぐらい先に説明回も入れます。



*2020/8/8 読みやすく修正しました。

試合が終わりロザリンドを部屋にエスコートしたら疲れがドッと出てきたから部屋で休むことにした。お嬢様は何やら心配事があったようだが、ここ最近の出来事を思い出せば無理もない。


試合は結局シュヴェルトと相手することになったが、パーティーで突っかかってきたのは他でもないロザリンドのバカ婚約者、セオドア・アインツ・ファウストだった。昔から裏方や護衛の任務を任されてきながら先日のパーティーでは王女殿下の半分強制的なお誘いにより上級クラスの編入生の内のA級冒険者二人と俺が参加していた。


注目を浴びる中、ロザリンドの婚約者は何故か積極的に見つけ出し勝手に罵り始めた、主に俺を。突っかかってきた理由はおおよその事ロザリンドに何かを聞いて誤解したのか、単に編入生として気に入らなく、婚約者の取り巻きだから格好の標的だからなのか...


婚約者の取り巻きが男性とのことも気に入られていない可能性も大いにある。ロザリンドとそのバカ婚約者に初めて会った日以来、ロザリンドに頻繁に裏方や護衛の任務を任されて表舞台にあまり出されていないことがその理屈に余計当てはまる。ただ、今後同じ上級クラスの生徒としてバカ婚約者もその側近や取り巻きと関わらないことにするのは難し...くはないかもしれない...


その類の考え事でしばらくは起きているのかと思ったが、パーティーとその後の試合の疲れがたまっているせいなのか、夢の世界に意識を引きずり込まれた。


―――


夢では匂いを実感できるのはまれだという。だが今は確実に鉄と腐乱の匂いがする。夢の世界と理解しても反吐が出るような匂いが嫌というほどまとわりついて離れない。夢の中での視線が辺りを見回すと匂いの元がはっきりする。戦争という醜い有様が残した匂いだ。あたりに無残にまで散らばっている死体の数々は焼きただれたものや戦闘で引き裂かれたもの、その全てはツンと鉄臭い血の海に横たわっていた。


ただそれ以上に気を無理やり引き取られたのはその夥しい死体の数々の中でも一際目立っているのは魔術により腐らされた死体だった。


日が経って腐ったよな死体ではなく、体の部位が強制的に魔法で腐らされたような死体だった。中にはカビに覆われた死体もあり、かすかに胞子をまき散らしていた。鎧をまとった騎士みたいな死体もまた鎧は錆び、その下の肉体も腐りはてていた。人の死体に紛れ込んでいる得体の知れない化け物もまた腐りはてていた。人が化け物に変わりながらも腐りはてた死体も無数にある。


.....静かだ


夢だとわかっているのに背中に悪寒がが走る。空間自体に圧迫される気分で呼吸が早まる。辺りがやけに広く感じ取れるのに視野狭くなった感覚がする。夢なのに指先の震えが止まらない、冷や汗が出てしまう。


腐った死体が見ている。訴えている。絶望、怒り、虚しさ、全部を突き付けるように。


辺りから聞こえないようで心に呼び掛けられる、何故死なないといけなかったのか。


―― モウ、イヤダ


頭の中に声が響いた。凛としながらも、悲痛で、自分を呪うような声が。自分の鏡写しのような心境が感じ取れる。


―― ヒト、コロスノ、イヤダ


視点はゆっくりと下に向き、視界に入ってきたのはまるで生きた人形のような両腕だった。人の腕に虫みたいに煌びやかな白い甲冑が腕に融合しているが、人間だったことがわかる。その腕には幾何学模様が何らかの金属で張り巡らされ、今でも僅かに魔法の残滓がきらめている。


―― コンナ力、イヤダ


ただ悲痛に泣き叫ぶ声はでない、そもそも口がないから。泣きたくとも泣けない、そもそも目がないから。悲しむことも許されない、兵器である“人形”には。


―― コンナノモウイヤ、ダレカオコシテヨ


人形はまた歩き出し、死体の一つに突き立てられていた一本の刀を掴むために。まだうごめいている人の形をした化け物にとどめを刺せと命じられたままに。


―― タスケテ


この夢を見るといつも心が引き裂かれる、同情でもなくただ悲痛で理不尽な思いをした人形は人間だったから。怒りを感じる、このような人形を作り出そうと考えもしたくそどもがいるから。化け物に対抗するために人形を作り出さなければならないといけない世界は哀れだと思う。


―― あんたも、こんな事するのイヤだよね


目の前に‛俺’が現れた。ぼやけて見えるのはこれは人形の夢だからだろう。


―― こんな夢ばっかり見るのはもう嫌だよね


心に急に安堵感が溢れる。


―― 一緒に何とか目を覚まそう


急に視界全体がぼやけ、辺りはは白い霧に包まれた。


「ワタシタチヲ助ケテクレタヨウニ、他ノ皆モ助ケテアゲテ。オ願イ」


さっきまでの夢を本来見ている人形が目のまえに現れた。その人形は、彼女は全身に白い甲冑が埋め込まれていて幾何学模様が体中に金属で張り巡らされている。顔はなく、鈍い金色のお面が顔の代わりにあった。体のところどころから歪でとげとげしい部位があり、竜を無理やり人間の形として具現化したような姿だった。


そしてその人形、元は人であり、人の心を取り戻せた彼女は言った。


「オ願イ、他ノ皆モ助ケテアゲテ」


その願いを無言で承諾する。憐れみや同情からではなく、いやだから、このような人形たちが理不尽ながらも苦しんでいるから。


夢をたたき割るような音が急に響いた。


――――


目が覚めた途端に窓ガラスをキツツキのごとく連打で叩かれる音が耳に入ってきた。ベッドから起き上がり、部屋の窓を見ると何故かローザが必死に窓を叩いていた。それも何故か二階にある窓を叩いていた...


「...何やってるんですか、お嬢様...」


「頼むから...早く手伝ってくれ...限界だ...」


よく見るとローザはほぼ足場がない状態で指先だけで窓のふちに必死にしがみ付いていた。腕がプルプルし始めて可哀そうになってきたから部屋に引き上げた。


「すまん、ありがとう。あと、二人の時はお嬢様呼ばわりするなと前言っておっただろう。」

膝に手を突きながらローザはそう言う。


「...で、何で婚約者でもない男性の部屋にこんな朝早くから何をしに来たんですか?他人に見られたら変な噂が立ちますよ?」


「学期が始まったら時間がないだろうと思ってお忍びで少し王都を見回りたくなってな。貴様は一応私の護衛だからな、家の者に騒がれながら出歩くよりましだからだ」

ローザは淑女らしからぬ笑顔でそう答えた。


まるで先ほどまでの夢が幻だったかのように思えるぐらい清々しい気分にさせてくれる。表立って公爵令嬢としての振る舞いをしているが、本来は少々お転婆で朗らかな性格をローザは持っている。


「明日は王女殿下とバカ王子とのお茶会があるから今日中に冒険者ギルドで用事を済ませようと思っていたんですけどね~...」


「ついでに寄ればいいだろう、私も久しぶりに顔を出したいしな」


「いや、その容姿で出歩いたら即刻身分がばれますよ?!」

思わず隠していない白銀の髪を指してツッコミを入れる。


「あははは!私もそこまでのあほではないさ!ちゃんとフード付きのマントも持ってきておる、ほらな?」

ローザは自分のマントのフードをぴらぴらしながら言った。


よく見ればローザは髪を簡単なポニーテールに結っていて顔が見れなくなるような灰色のマントを着ていた。服装も飾り付けられて手間のかかる貴族らしい服装ではなく、働く町娘が着るような控えめの染色されたブラウスとズボン、そして革のブーツだ。ただ帯にさしている片手剣とマントにつけているエメラルドのブローチが普通の町娘ではないことを語っている。


「わかりましたよ~...一緒に行けばいいんでしょ?行きますよ...」

お嬢様強し...急に脱力感もわいてきた。


「それでよし!私は向こうを向いているから早う着替えな。」


いや、普通に出て行ってくださいよ...


「ヴァルトレギナ公爵家の令嬢がお忍びで王都を散歩し、その上に自分の家の寄子、よりによって婚約者でもない男性の部屋で二人きりだとあのバカ王子に知られたらどうするんですか...」


少々ローザのお転婆には心配どころも多いのが確かだ。ましてや第一継承権を持っている第二王子の婚約者となると次期王妃としての未来に影響を及ぼしかねない。とは言ってもヴァルトレギナ公爵が未だに激しく注意をしないのは今のうちに自由にさせておきたいからの親心かもしれない。


「ローザ?」

着替え終わっても返しの言葉がなかったので気になって呼んでみた。


「...貴様はまだセオの事が気に入らないのか?確かに最初にあったときの印象は私もひどいとは思うが、根は悪くない奴なんだ。彼も彼なりの優しさがあるし、高等部に入ってから編入生もいる事だから彼の見解を広めるのにもいい機会だと思うんだが」

心配と躊躇いが入り混じったような表情で彼女はそう言った。


「...準備できましたから早く行きましょう、今日行くところは多いでしょうし」


言えない...


言ったら頭が可笑しいと思われるだろう...


前世の記憶を持つ転生者ということ、この世界が如何やら乙女ゲームの世界だということ、そしてロザリンド・ツヴァイ・ヴァルトレギナ公爵令嬢はその乙女ゲームの悪役令嬢だということ。


そして今は亡き妹はこの世界が乙女ゲームと気が付いた転生者であり、死に際にお願いされたことを...


悪役令嬢を、ロザリンドを助けてあげて、彼女をみんなの幸せの為に犠牲にするようなエンディングは嫌だから、と。

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