従者と王女
主人公二人の登場です!前から書いてみたかった話なのでよろしくお願いします!
主人公が二人いるので視点はあちらこちらになりますが、できるだけ混乱のないように書きます。素人ですのでご容赦ください。
序章が終わるまで一日一回次話投稿しますので読んでいただければ光栄です。
近況報告はたまにここでさせていただきます。
*2020/8/8 読みやすく修正しました。セオファニアの口調も少し変えています。
「試合開始直後に最初の一撃を繰り出したのは‘白’の槍使いだああああ!!」
晴天の下でものすごい歓声が実況に答えるように響き渡る。観客席は日陰になるよう設計されている闘技場だが試合場は正午に差し掛かった太陽が眩しかった。
全身に身体強化魔法をかけたのを確認し、前に目を向けると数歩離れていた‘白’の仮面を付けている槍使いは地面を蹴って手持ちの木槍を頭部狙いで突いてきた。後方に回避しながら訓練用の剣と盾を確認した。右手には木剣の片手剣を持ち、左腕にやや小型の盾を装備している。左から迫る胴への攻撃は盾で真上に跳ね上げながら闘技場の観客席に目をやった。
闘技場の観客席を埋めているのは始業式の前に学生寮に移り住んでいる貴族の子息たちだ。彼らは中等部時代から王都学院に通っている上級クラスの子爵や公爵、所謂男爵家と同等以上の身分を持つお坊ちゃまやお嬢様たちである。学院自身は王都付近に浮かぶ浮島の上に建設されていて事前に学生寮に住むには家専用の飛空艇を所有している、もしくはその様な家柄の取り巻きや付き添いでなければ定期便を使うしかない。
始業式当日に寮に引っ越す下級クラスの貧乏貴族とかは入学式前から格差つけられ、上級クラスは中等部から仲良くしている貴族たちの不可侵領域みたいなものだった。
そういう状況であるからこそ、今までに上級クラスには他国の留学生はいたものの、高等部への編入生、ましてや貴族ではない生徒たちが上級クラスにいる事は無かった。だが今年は王家の勅命により数名の生徒が上級クラスに編入する事になり、注目を浴びていた。言わずとも悪い意味で。その編入生の一人として学院の上級クラスの高等部に編入したのは魔法の素質と鍛錬がずば抜けている平民の女子だった。そのほかに数人は冒険者として名を馳せたA級冒険者の数名。
そしてもう一人の例外は今木槍が顔面に突き刺されそうな俺です。
咄嗟に避けた槍は頭があった空間を歪な音を立てながら切り裂いていた。
「てっめえ俺の槍捌きを回避するだけの実力はあるようだな!口だけ野郎なら叩き甲斐がねーもんな!!」
槍男、またの名シュヴェルト・ツヴァイ・クフェリンは手慣れた素振りで胴体と頭を狙い三段突きを放ってきた。
「手に持ってる木剣はお飾りか?!えっ!?どうなんだよ、つけあがり野郎!」
「ヴァルトレギナ様に蔓延る虫なんかさっさとやっつけてくださいまし!」
「盾なんか持ち出してお飾りじゃないか!滑稽だな!」
「白仮面さ~ん、やる気のないやつなんか闘技場からたたき出しちゃって~!!」
さっきから回避してるだけだからだろうか槍男も観客いいように言われてる...物凄く見下されてる
シュヴェルトは名門軍閥家クフェリン伯爵家の跡取り息子であり現王国軍元帥の甥でもある。軍関係でありながらの爵位はクフェリン家の長年にわたる功績の数々を意味している。そして勿論その跡取りとして軍略知識や武術も当然叩き込まれている。それほど鍛えられるような環境で育っている伯爵お坊ちゃまと試合するのは期待こそはしていたがわざわざ目立つようなことになったのはいい迷惑だ。
「オラァ!!ちょこまかと逃げ回るだけじゃなくその盾もいい加減使ったらどうだ?!」
シュヴェルトは大胆に踏み込みながら槍で横薙ぎを放ってきた。
観客席で特等席に凛と座っている一人の女性を見つけ、視線を向けた。日陰での中でも輝いて見える淡い白銀の長髪はポニーテールにしていて深紅の目は鋭く俺を見据えていた。視線が合うと、不機嫌そうに開いていた扇子を閉じ、口を動かした。言ってることは恐らく、“この茶番劇は終わらせろ”だ。彼女には知れているのだろう、目の前にいるシュヴェルトは技術的に同等でも踏んだ場数と経験の差で実力的に俺に釣り合わないことを...
「へいへいわかりましたよ~。お望み通りこの茶番はとっとと終わらせますよ、お嬢様」
小手に近い大きさの盾を構え、木槍を弾いた。身体強化魔法は試合上の暗黙のルールで二人共かけてはいるが、鍛えた魔法と身体能力の差でシュヴェルトの武器の方が逆に弾かれた。弾かれた槍をを盾で素早く地面に叩き込み、踏みつけた。
「っ!!てめえ、足をどきやがれ!それでもヴァルトレギナ家の騎士と言えるのか?!」
「あいつ試合なのに相手の武器踏んでるぜ?」
「反則じゃないの、あれ?」
...外野うるさいな~
「あのなぁ、あんたが最初入学式前の舞踏会で突っかかってきたんだろうが。お嬢様の婚約者の取り巻きとして立場わきまえていないんじゃないかな~。おかげで学院の貴族様の屈指に入る実力者と手合わせできるから試合おっけー!って賛成したんだけど...これは完全に茶番だね」
試合の発端は上級クラスが入学式前に行なうパーティーだった。家族を早く失くしていた俺は事情あってヴァルトレギナ公爵家の寄子になり、公爵家のロザリンド令嬢の付き添いの一人として顔を出していた。上級クラスへの編入生であると同時に平民からヴァルトレギナ家の寄子に成り上がりと言われて絡まれてたところ、その場を収めるために出席していた第一王女殿下が試合で面倒事を解決するように勧めた。
ただ王女殿下が試合相手をクフェリン家の跡取り息子に指名した。彼が実力者というのは一環なのだろうが、わざとロザリンドの婚約者で実の双子の弟、セオドア・アインツ・ファウストの取り巻きを指名したのは意味ありげに見えた。
そして今観客席の中でお嬢様と同じく特等席に座っているのが入学式前の試合のきっかけである張本人が座っていた。この国の王女であり王位継承権第二位である黒髪黒目、まさしくアイドル的な容姿を持つセオファニア王女殿下だ。
――—―—
一瞬アミルというロザリンド公爵令嬢の付き添いに睨まれた気がしました。防戦一方だった彼はクフェリン家の跡取りの槍を弾いて踏みつけた後攻勢に転じた。まるでさっきまで回避しか能がない在り様が嘘だったかのように体を乱暴に振り回し、その回転力を使って盾と剣をクフェリン家の跡取り息子に隙を与えず叩き込んでいる。清廉された形とは程遠く、派手で野蛮な振る舞いでシュベルトを圧倒しています。
「黒い仮面を付けている生徒、確かアミルでしたわね?大人しくやられてばかりかと思いましたが、まるで狂戦士のような野蛮な戦い方ね。舞踏会ではおとなしいかと思いましたが、化けの皮をはがせば野蛮な鬼みたいですね」
「殿下、お言葉ですが野蛮な形でありながらクフェリン家の跡取り息子を追い詰めてるのは事実です。やはり目をつけておいて損はないと思いますが?」
進言したのは乳姉妹であり、私の側近の一人、ナタルリシア・ドライ・カーナムです。彼女は私が王位継承権を持つ王女としての側近と育てられ、心をも分かち合える数少ない友達でもあります。その上カーナム伯爵家は王国の近衛騎士団員を何人も輩出しており、ナタルも学園の中で屈指に入る剣術の使い手で頼りなる護衛ですわ。
「ナタル、やはり貴女もそう思いましたか。彼の事はローザが頑なに表舞台に連れてこなかったからどういう者なのか興味がわいたのは確かね。いずれローザは愚弟とご結婚する予定なのですから、今のうちに王家が抜き取る用意をしましょう」
「殿下、冗談はやめてください。彼には王宮のいざこざなど不似合いですし、彼を王宮に丸め込めむような事は父上も、そして勿論この私もお望みではありません」
そう言ったのは一緒に特等席に座っているヴァルトレギナ公爵令嬢のロザリンドでした。王族専用の特等席に座っている彼女は現に第二王子で第一王位継承権を持つ私の双子の弟、セオドア・アインツ・ファウストの婚約者で次期王妃の予定であるから私と共に特等席に座ることが許されています。
彼女とも弟の婚約者との事で長い付き合いであり、少なからずとも彼女が愚直なまでに正直で短気であるのは彼女の優しさ故であることは把握しています。その上で彼女が何故アミルという男を手放したがらないかは恋心からではないというのは確信していたが、未だにわからないままですわ。
...なんとなく彼女に猫耳とぶわっとなった尻尾が見えるような雰囲気を出しているのも彼女の魅力の一つだということは胸の内に秘めていますけどね~。
「...珍しいわね、ローザが歯切れの悪い事を言うなんて。優秀な者は集め育て、国のため王家のためにと主張してきた貴女が、ねぇナタル?」
そう、彼女は少なからず婚約者の第二王子を好いていた、それも彼の周りに細心の注意を施して彼が信頼できる側近を自ら面倒を見て王子のため、国のためと役立つようにと。いずれ国王となる婚約者のために身を動かしてきた彼女が見れば見るほど武の極みを持つアミルを王宮、そして弟の第二王子の側近としておくのを躊躇うのは不思議ですわ。ローザの第二王子に対して少なからずとも思いを寄せていることも傍から見て当然なのだから恋心で彼を独占したいということでもなさそうですし。
ただ、愚弟とローザの関係、そしてあのアミルという者がローザにとって何なのか探るいい機会でしたのに、使うにはまだ断片的な情報しかありません。もしアミルという者が今後の学院での|出来事{{イベント}}を掻き乱すような者なら然るべき処置を執らなければなりませんし。‛|台本{{シナリオ}}’通りに事を進めなければ色々な計画、この国の未来に影響がでますからね。
「それは...私にも全てを知っているわけではありませんが、父上が彼と初めて会った日から一度も彼の過去について口を開いたことがないのですが、貴族社会や王宮のいざこざからはなるべく遠ざけろと言われています。直接聞いたこともあるのですが、アミルはただ質問をかわすだけでした。ただ...もし彼の実力に興味があるなら冒険者ギルドで登録している“|喜怒鬼刃人{{きどきとうじん}}”と呼ばれる冒険者の事を調べる方がいいと思います。このような茶番では分かりづらいと思いますし」
「そう...ナタル?」
「かしこまりました、殿下。エイブにお任せしても宜しいでしょうか?」
「任せるわ」
ナタルは物分かりが良くて非常に助かります。彼女とエイブ、アブラハム・フィア・イスカリオテは二人して私が信頼を置いている側近であり、親友と言える人たちですわ。
如何やらローザもアミルの過去には興味を持っているようですが家の影響であまり詮索できないから遠回しこちらに情報を提供しているのでしょう。
ワアアアア!!っと歓声が闘技場内に響き渡たりました。勝利判定を下されたのは黒仮面事、アミルでした。彼の前には急所を突かれたのでしょうか、せき込みながら立ち上がろうとしているクフェリンがいます。
「試合も終わったようですし、話の続きは後日にしましょうか。ではロザリンド様、近日中お茶でもいかがでしょうか?編入してくる冒険者の一人が気の利く者でして良い茶葉を献上してきたのよ。あ、もちろんもアミルご一緒に」
やや業務的な口調になりながら聞く。
「それは...ご一緒させていただきます。入学式前なら明後日はあいていますが?」
「ではそうしましょう、お楽しみにしていてください。そう言えば愚弟はどうしているのかしら?この場にいてもおかしくないのに...ローザは何かご存じで?」
「いえ、パーティー以来会ってはいないのでなぜこの場にいないのかは...」
彼女は心配そうに観客席にさっと目を通してからそう言った。
「仕方がありませんね、私から彼をお茶にお誘いしますわ。この試合やいざこざは私にも少なからず責任がありますから」
「...わざわざすいません」
「いえいえ、王家の一員としていずれ義姉妹となるお方とその婚約者の仲を取り繕うのは当然です」
「では、明後日のお茶を楽しみにしております」
そう言い残し、ローザは特等席の外で待っていたアミルと一緒に去っていきました。
...まだ愚弟と貴女が別れるのはまだ早いのよ、まだヒロインの生徒にも会っていないのですし。けれどこの状況は上手く使えば二人の間には亀裂が生まれ、そして動き方次第ではローザをあまり悪い目には合わせずに私の側近として置いておけます。それほどの頭脳や才覚を持っているのだし、ましてやアミルという者がおまけでつくかもしれないなら特に。その為に今のうちに手駒を増やしておかないと。
バッドエンドだけは避けないといけないわ、この乙女ゲームの世界の。
少し(実は結構....)伏線があるのですいません。誤字脱字あったらすみません。
少々長めになりましたが二人の視点両方から書きたかったので、すいません。