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1-4 こちらVフォース

 「まずは周辺住民を避難させる……一旦ガタニの街に避難させてくれ」

 

 ガタニの街は、ここから遠く離れている。魔獣が動き出しても、しばらく時間は稼げるはずだ。


 「ヤトーマ伯爵とガタニの街に通信を送れ。魔獣の群れの規模を伝えるのと、避難勧告も忘れるな」


 魔獣の食欲と破壊衝動は底なしだと言われている。最悪の場合、ヤトーマ伯爵領の住民全員を避難させなければならない。


 「教会への連絡はどうしますか?」

 「教会へも連絡してくれ……ただし、神聖魔法の生贄の徴収は行わないとくぎを刺しておいてくれ」


 兵士の質問に対しジェフは少し悩んで、神聖魔法の生贄は出さないと決めた。

 それは伝説の神聖魔法ではなく、『成金殿下』の設立した『Vフォース』に希望を託すことを意味していた。


 「よろしいんですか? 神聖魔法は魔獣に対する唯一の対抗手段ですよ?」

 「構わない。『成金殿下』が犠牲を出さない方法を見出したと通達がきている」

 「しかし……」

 「責任は私がとる。お前は聖職者たちを避難誘導してくれ」

 「了解」


 ジェフの指示を受けた47名の兵士たちは、周辺の村や街に、そして砦の中の通信室に向かって駆けだした。

 兵士たちが散らばったのを確認して、ジェフも動き出す。

 まずは三度監視塔に戻り、魔獣の群れの状況を確認する。

 数に変化なし。

 目立った動きはないが、さっきまで密集していたクモ型魔獣の群れは徐々に広がりつつあった。もしかしたら、こちらに向かってくるかもしれない。

 ジェフは監視塔の階段を降り、司令官の部屋へと向かった。

 主を失った部屋に黙って押し入り、ある物を探す。

 通達では、確か金色の細長い箱のような物だと書いてあった。


 「これか……?」


 資料棚の奥に乱雑に置いてあった物を見つけ、ジェフは手に取った。

 思っていたよりも小さいそれは、確かに金色の細長い箱だった。真ん中には赤いボタン、上下には無数の小さな穴が開いており、銀色の細い棒がくっついている。

 

 「これがVフォースへ直通の通信機か……これも『成金殿下』の『オーバーテクノロジー』なのか……?」


 半年前、王国軍全軍に対し、『魔獣出現時の対応について専門機関Vフォースに対応を一任する』という通達が出された。併せて、全ての司令官は魔獣出現の際に関係各所及びVフォースへの迅速な連絡が義務付けられた。

 そして万が一管轄地域に魔獣が出現した際に、一刻も早くVフォースへ連絡するために、王国主要都市や軍事基地に配布されたのが、この専用通信機『Vライン』である。

 

 「まさか私が、緊急事態用通信機を使うことになろうとは……」


 ジェフは恐る恐る、手にしたVラインの赤いボタンを押す。

 すると突如、Vラインから今まで聞いたことのない不思議な音楽が流れはじめた。


 「うわっ!」 


 驚いたジェフはVラインを床に落としそうになる。

 何が起きたのかわからずにいると、音楽な鳴りやみ、Vラインから若い女の声が聞こえてきた。


 『回線をつなぎました。発信器番号を確認……こちらVフォース緊急通信室です。そちらはクオン砦ですか?』

 

 意外なことに、通信士は若い女だった。ジェフはVフォースも軍事組織である以上、通信士は男の兵士だと思っていたのだが、違った。


 「女……なのか……?」

 『女が通信士をやってはいけないと?』

 「いや、そういうわけじゃないが……」

 『それは置いておいて……緊急事態ですね。魔獣が出現しましたか?』

 「ああ……そうだ。ヤトーマ伯爵領クオン砦近くの森に、クモ型の魔獣が出現した。数は150体。まだ目立った動きはない」


 Vフォースの通信士に、ジェフは魔獣について細かく説明する。


 『了解しました。被害は発生していませんか?』

 「被害はまだ発生していないが、いつ動き出すかはわからない。現在、兵士たちが周辺の村や街に避難を呼び掛けに向かっている」

 『分かりました。他に気になる点はありますか?』

 「気になる点というわけではないのだが……」


 クオン砦の司令官以下、副司令官、隊長格を含むほとんどの兵士が逃走した事実を伝えようとして、ジェフは迷った。自分は1部隊の隊長だ。司令官ではない。それなのにこんな不名誉なことを簡単に別の部署の人間に話して良いものか……?


 『どうしました?』

 「……いや、別用で現在、砦の司令官と副司令官をはじめほとんどの兵士が不在なのだ。住民の避難誘導は可能だが、魔獣との戦いで戦力にはならない」


 結局、ジェフは現在の状態をぼかして伝えることにした。


 『ご安心ください。魔獣の群れは、私たちVフォースが責任を持って討伐いたします』

 「……本当にできるのか?」


 正直なことを言えば、ジェフもVフォースが伝説の神聖魔法を上回る攻撃手段を持っているのか、疑問に思っていた。

 『成金殿下』は本当に、神聖魔法に変わる方法を見つけられたのか?

 本当は権力争いを有利に進めるための方便ではないのか?


 『私たちが保有するオーバーテクノロジーを信用してくださいとしか言えませんが……私たちはこの日のために10年間、準備を推し進めてきました』

 「そうか……そうだな……悪かった、君たちを信じよう」

 『ありがとうございます。Vフォース主力部隊到着まで1時間かかります。念のため、砦に残っていらっしゃるみなさんも、関係各所への連絡が終了次第、早めに避難してください』

 「わかった……よろしく頼む」


 通信は切れた。

 Vフォースの戦力がいかなるものかは分からない。確実性もない。

 だが、彼らは10年も前から準備を進めてきた。

 『成金殿下の道楽』と蔑まれようとも、彼らが10年間準備を進めていたことは、誰もが知っている。多くの国民は馬鹿にしているようだが、ジェフには頑張っている彼らをバカにすることができなかった。

 だから、彼らを信じることにした。

 きっと『成金殿下』の財力と『オーバーテクノロジー』を活かした大戦力なのだろう。1時間で到着するということは、もしかしてこの近辺にいるのだろうか?

 とにかく、これで助かった。あとは専門の部署に任せて、撤退しよう。

 ジェフが楽観的に構えていたその時だった。

司令官の部屋に、1人の兵士が息を切らして飛び込んできた。


 「大変です隊長! 魔獣の群れが動き出しました! こちらに迫ってきています!」

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