表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

1-3 隊長は自分だけ

 いつまでも呆然とはしていられない。

 ジェフは砦の中に戻った。

 司令官が逃げてしまった今、副司令官を頼るしかない。

 しかし、状況はジェフの想像を超えて悪化していた。


 「魔獣が出たぞ!」

 「数は1000体もいるらしい!」

 「こっちに向かっているぞ!」

 「おい、どうすんだ! 隊長連中は全員逃げだしたぞ!」

 「司令官も副司令官もいないぞ!」

 「も、もうだめだ!」

 「全員、逃げろ!」

 「もうここに留まる必要はない!」


 統率者を失った今、クオン砦の内部は不確定な情報が飛び交い混乱していた。

 何が本当かすらわからない。

 兵士たちは次々と持ち場を離れて逃げ出した。

 

 「おい、待てお前ら! とりあえず全員落ち着け!」

 「司令官も副司令官も逃げ出したんですよ!」

 「第1突撃隊には撤退命令が出されました!」

 「ジェフ隊長も早く逃げてください!」


 冷静な行動を呼びかけるジェフの言葉を聞く者は誰もいなかった。

 まるで沈む船から逃げ出すように、兵士たちは砦から飛び出していった。

 このままでは、周辺住民の避難誘導もままならない。

 ここで自分たちが混乱していては、大きな被害が出てしまう。

 そう考えたジェフは、まず副司令官がいることを確認するために副司令官の部屋へと向かった。

 

 「副司令官! ジェフです。いらっしゃいますか?」

 「すみません、副司令官はただ今いらっしゃいません」 


 ドアを叩くと、副司令官ではない者が出てきた。副司令官の秘書だ。

 

 「副司令官はどちらに?」

 「王都に魔獣出現の報告をしに向かうとおっしゃって、先ほど出ていかれました」

 「そうか……」

 

 副司令官も逃げたか……ジェフは悟った。

 副司令官もいないのなら仕方ない。魔獣の現在の状況について確認をして、他の隊長たちと協力して残った兵士たちを指揮しなければ。

 ジェフは再び監視塔を登った。

 幸い監視塔の兵士はまだ残っていた。


 「魔獣の状況は?」

 「先ほどから変化ありません。森の周辺をうろついています」

 「数は1000に増えていないか?」

 「いいえ。150体に増えました」


 どこで情報が変わったのか……ジェフは頭を抱えた。

 とにかく、まだ何とかなる状況なのは確かなようだ。

 

 「わかった……引き続き監視を続けてくれ」

 「了解」


 ジェフは監視塔を降りた。砦の中を走り回り、隊長格または副隊長格の人物を探す。

 しかし、誰も見当たらない。砦に残ったのは、どうすればいいのかわからずうろたえる数少ない兵士たちだけだった。


 「おい、お前たちの隊長や副隊長はどこにいる?」

 「分かりません。我々も探しているのですが……」

 「そうか……私も引き続き探してみる。もし1時間たっても見つからなかったら、砦に残っている兵士を可能な限り中庭に集めてくれないか?」

 「了解しました」


 どの兵士に聞いても、隊長や副隊長の居場所が分からない。

 ジェフは捜索する時間を決めて、残った兵士を集めることにした。

 左手にはめた腕時計を見る。『成金殿下』が普及させた『オーバーテクノロジー』の1つだ。ねじ巻きの必要がない『電池式』時計で、小型ながら正確な時刻を知ることができる優れものだ。

 腕時計を見ながら、時間の限りジェフは他の隊長を探すことにした。

 そして1時間後…… 

 結局、隊長・副隊長は誰も見つからなかった。

 クオン砦に残っている隊長はジェフだけだった。

 

 「まずいことになったな……」


 デマに惑わされたのか、第3警備隊の兵士たちも半分近くが逃げ出していた。副隊長が残っていたのは幸いであったが。

 中庭に集めた砦に残った兵士たちを前にして、ジェフは珍しくため息をついた。そしてすぐに、頬を叩いて気合を入れる。


 「よし!」


 この周辺の住民は、まだ魔獣の出現を知らない。魔獣の群れはいつ動き出すかわからない。一刻も早く、住民を安全な場所へ避難させなければならない。

 それができるのは、ここクオン砦に残った自分たち兵士だけだ。


 「勇敢なる兵士諸君! 私は第3警備隊隊長・ジェフである!」

 

 残った兵士はジェフまで入れてわずかに48名。

 司令官も副司令官もおらず、隊長は1人しかいない。

 そんな数少ない兵士たちを前にして、ジェフは司令官の見よう見まねで演説を行う。

 

 「現在、西の森にクモ型の魔獣が出現した。数はおよそ150体。現在のところ、大きな動きはないが、油断は禁物である。そして司令官と副司令官は、この事実を連絡するために、王都へ向かわれた」


 魔獣の出現、司令官・副司令官の逃走。

 驚愕の事実に、兵士たちがざわめきだす。

 ジェフは「しかし!」と声を張り上げ、話を続ける。


 「今ならまだ、間に合う。我々だけで周辺住民を安全な場所へ避難させ、領主であるヤトーマ伯爵を通じて魔獣の出現を……ラグナロクの発生を国中に知らせるのだ!」


 なれない演説を終えたジェフは、兵士たちに細かい指示を出した。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ