午の刻 教会裏手森の中腹
所変わって教会裏の森の中腹にて。
「小屋にしては、頑丈な造りだな。」
「長い間人が住んでいたからな。」
「ふーん。」
咳いた人狼に答えた聖職者の言葉に、問い掛けた本人は興味無さげに返す。
「貴殿はここに住むといい。教会にもほど近く、周りに住む人もいない。快適な環境であることは保証しよう。」
「ご丁寧にどーも。」
素っ気なく返して、ジャックは小屋の中を見回した。
先程言及した通り、「小屋」と言うには居住環境が整っている気がする。多少埃を被ってはいるが、木製の棚も机も椅子も寝台もあり、いつの間に用意したのか、清潔な布団と毛布が備え付けられている。小屋というよりは、ログハウスと言った方が正しい様相だ。
「日の出頃には教会にくるように。私はそれよりも前にいるから、来てくれるだけで大丈夫だ。何か質問は?」
「この状況自体甚だ疑問だが。」
「そうか。では、明日からよろしく頼む。」
微笑みを崩さずに宣う神官に、人狼は再び舌を打った。
神官が立ち去った小屋の中、ジャックは特に何をするでもなく佇んでいた。
彼にはひとつ、懸念があるのだ。
(…ガランはどうしているだろうか。)
妻・ガランとは、クリスと相対したあの夜以降、顔を合わせていない。自分がいなくても強かに生きていきそうな彼女ではあるが、流石に何の連絡もないとなると、要らぬ心配を…否、詮索をするやもしれない。
例えば、人に拐かされたとか…。
「…ふっ。」
そこまで考えて、人狼は自嘲的に笑った。
まさにこの状況の通りではないか。魔族の長がきいて呆れる。
それよりも懸念すべきは、要らぬ詮索をしたガランが、人へ反撃を打ってでないか、ということだ。人に対し憎悪の念の深い彼女のことだ、何をしでかすか分かったものではない。
(…しかし、今戻れば…。)
ガランたち魔族、全員がクリス達の考えに共鳴するならばまだ良い。しかし、人が魔族に敵対心を抱くように、魔族もまた人と敵対している。正面衝突を起こすのがおちだ。無闇に争いを起こすべきではない。
(…いつか乗り込んできそうだな、あいつ。)
ジャックは1人遠い目をした。
強かで聡明な彼女だが、中々どうして執念深い。自分が戻らないとなれば、居場所を探し出すくらいはしそうだ。
(…その時は、その時だ。)
今は、自らの成すべきことを成すしかないようだ。