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百鬼夜行  作者: 布眠夢懋
6/7

episode.6

久利生は今来た道を戻っていた。


この男、自分で追い払おうとしておきながら、

心配になって戻って来たのである。


しばらく進んだところの分かれ道で、彼女が追ってくるのを確かめてから逃げようと思っていたのが、

なかなか戻ってこないのを心配したのだ。


引き返している可能性もあったのだが、バイクがなければそれでいいと考え、

久利生はバイクを走らせた。


しばらく走ると、先ほど別れた場所に着いた。


だが、妙なことに、そこにはバイクが別れた時のまま止められていたのだ。


久利生は、バックをとんでもない場所に投げ込んでしまったのかもしれないと、顔を顰めた。


もし、探すのに手間取っているのであれば、責任の一端があるような気がしたのだ。


だが、あのような苛だたしい女にもう一度会うくらいならば、見なかったことにして去ってしまいたいと久利生は思った。


そうして葛藤していた時だ。


山の中から叫び声が聞こえた。


まさか、再び襲われているのだろうか


久利生は山道にバイクごと入っていった。



雪野は女から逃げていた。


否、もはや女とは呼べないだろう。


雪野が悲鳴を上げた直後、女の体から黒い靄が溢れ、大きな1つ目の鴉になっていたからだ。


再び逃げようと走ったが、鴉の化け物はたった一度翼を羽ばたかせただけで、

雪野のすぐ後ろに迫っていた。


刹那のところで、木々の間に入り込んでかわしたが、

捕まるのも時間の問題に思えた。


どうしよう、とあたりを必死で見渡すと、洞窟というにはあまりにお粗末だったが、小さな岩窟が見えた。


雪野は微かな希望を抱いて岩窟を目指して走った。


だが、慣れない山道を全力で走ったことで彼女の足は悲鳴を上げていた。


木の根に足を取られ、地面に転がったところを追いつかれ、鴉の化け物の足に掴まれた。


「ヨウトウヲヨコセ」

「いやよ、これはお父さんが私に送ってくれたもの。きっと何か事情があって」

「ヨコセェ!」


鴉の嘴が彼女に迫った時だった。


バイクのアクセル音が響く。


「ジャマガハイッタカ」

「なに」


バイクに乗って、現れたのは心底面倒な顔をした久利生だった。


「またかよ」

「君!」


「ジャマヲスルナァ」


鴉の化け物が久利生に向かって飛ぶ。


久利生は再びアクセルを吹かせると、化け物に向かってバイクごと体当たりした。

しかし、化け物はたやすく久利生を殴り飛ばす。


吹き飛ばされた久利生は雪野のすぐそばまで転がった。


「大丈夫?」

「早く、あの刀を貸せ」


久利生に雪野はバックから取り出した妖刀を手渡そうとした。

しかし、鴉の化け物が再び叫ぶと再び飛び込んできた。

化け物の嘴が雪野に迫る。


久利生は雪野からひったくるようにして乱暴にさやから抜きとって叫んだ。


「纏い!!」


すると、赤い靄が鞘から吹き出し、久利生を包む。


それと化け物がぶつかるのはほぼ同時であった。


「グワァ」


不気味な声を発しながら鴉が吹き飛ぶ。


再び久利生は鬼を模した赤い鎧に身を包まれていた。

刀は気がつけば腰に提げられている。


「さっきはよくも殴り飛ばしてくれたなぁ」


久利生は拳を振りかぶり、向かってくる鴉に向かって拳を振り抜いた。


叫び声を上げて吹き飛ぶ鴉だったが、空に飛び上がると、空中から滑空しながら足で蹴り上げてきた。


たやすく吹き飛ばされる久利生。


木に叩きつけられ、苦痛に思わず唸る。


その時だった。


刀が振動する。


「使えってことか」


引き抜くと、鈍く光る刀身が現れる。


再び叫び声を上げて飛び込んでくる鴉に向かって雄叫びを上げながら久利生は刀をふるった。




「さっきは助けてくれてありがとう」

「別に、俺が襲われたから倒しただけだ」と、久利生は雪野に刀を渡す。


「しつこくして、ごめん。私、不安だったの。何年もあってなかったお父さんから刀が送られてきて、化け物に襲われたりして。あなたしか、希望がなくて・・・・。でも迷惑かけちゃった。関係ないのに、危険なことさせて・・・、私、もう行くね。ごめん」


雪野が頭を下げると、妖刀を受け取り、山道を戻って行く。


「・・・・バイク」と、久利生。


雪野が振り返る。


「俺のバイク、壊れたからどこにも行けなくなった。お前の貸せ」

「それって」


久利生が照れたようにきたみちを戻って行く。


その時だ。


雪野が快活に笑った。


「どんだけひねくれてんのよ。普通に心配しだからついてくって言ってくれればいいのに」

「別に心配なんて・・・もういい」


待ってよ、ごめんと言いながら、雪野がついて行く。



久利生の後ろに雪野が跨る。


「そういや、お前まだ俺の名前知りたいか?」


一瞬の間の後、雪野が笑って答える。


「うん」


久利生がアクセルを蒸した。


「善。久利生善だ」


「善・・・、そっか。よろしく、ゼンゼン」


「・・・・ゼンゼンはやめろ」


バイクは静かに走り出した。






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