episode.4
「余計なことしやがって」
久利生はラーメンを啜りながら、呟いた。
「ごめんって。だから、ラーメン奢ってるんでしょ」
女はそう言ってラーメンをすすった。
久利生はため息をつく。
「何よ、感じ悪いわね」
「当たり前だろ。俺を使いやがって。だいたいな、ラーメン奢るって、カップラーメンじゃねぇか」
道路の端で、バイクを並べ、久利生たちはカップラーメンを食べていた。
「細かいことは気にしない。それより、あんた、名前なんていうの?私は凛。雪野凛。あなたは?」
「別に、俺の名前なんてなんでもいいだろ。」
久利生は再びバイクに跨った。
じゃあな、と呟き、バイクは走り去った。
「何よ、あいつ」と、雪野は一人つぶやいた。
久利生は街道沿いを走る。
一週間前、彼は病室のような場所で目を覚ました。
そこは廃病院で、大量のベッドが並べられていたが、誰もいなかった。
全ての記憶を無くしていた久利生は、ベッドの上のプレートから、自分が久利生善という名前であることを知った。
そして、自分のベッドの下に置いてあったバックを手に取ると、逃げるようにその場所を後にしたのだった。
しばらくして、自分がもうすでになくなった施設で育ったことや、以前はアルバイトをしながら日暮らしをしていたことなどを大家に聞いたが、気持ちの整理が付かず、ふらふらと旅に出たのだ。
「気ままな旅だったのにな。いい性格の女もいたもんだ」
自動販売機のところで止まり、彼は財布を取り出そうとした。
「あれ?」
どこかで落としたのだろうか、ショルダーバックごと、どこにも見当たらなかった。
「あの女のところか・・・・」
どうやら、忘れてきたようだ。
「めんどくせぇな」
だが、全財産が入ったカードもあるわけで・・・・、
彼は再び、同じ道を走り始めた。
しばらく走ると、彼女のバイクが見えた。
だが、一緒に朝方見かけた男二人組がいた。
「もうちょっと人通りのないところでやろうと思っていたが、まぁ、いいだろう」
「なにいってんだ?」
二人のうち、一人の男から黒いモヤのようなものがでた。
「なんだ、あれ」
男は吠えると、もう一人の方の男の頭を掴んだ。
「な・・・・」
グロテスクな音を響かせ、男の体が落ちた。
「きゃあああああああ」
「刀を、妖刀をよこせ」
怪物が雪野に迫る。
「くそ!」
久利生はバイクのアクセルを蒸し、怪物に向かった。
「ぐはっ!」
怪物が吹き飛ぶ。
「おい、あれはなんだ?!」
「わかんないわよ。でも、もしかしたら」と、雪野がバックから短刀を取り出し、久利生に渡す。
「なんだよ」
「ものは試しよ。私じゃ、発動しないの」
久利生は短刀を受け取る。
だが、刀には刀身が付いていなかった。
「おい、なんもねぇじゃねぇか。こんなんでどうすんだよ」
「抜けた!!!!」と、雪野が叫ぶ。
「よくもやってくれやがったな!!」
怪物が立ち上がって、久利生を殴りつけた。
「グフっ」
肺の空気を失い、吹っ飛びながら苦しむ久利生。
「妖刀をよこせぇ」
「纏い、纏いって叫んで!!!!!」と、雪野が叫んだ。
「今はそんな場合じゃ」
「いいから!!」
久利生は迷ったが、一か八か、つぶやいた。
「・・・・・纏い」
その時だった。
刀の鞘から赤い煙が吹き出て、体を包み込んだ。
「なんだ」
その煙を払おうと両手を振るう。
煙が晴れると、久利生は赤い甲冑のようなものに身を包まれていた。
頭部は、獅子を模したような装飾がされている。
「なんだ、これは」
怪物が雄叫びをあげながら迫ってきた。
すると、突然刀身が現れた。
「はぁ!!」
怪物の体に傷がつき、そこから黒い靄が漏れる。
「なにっ!人間に、それが装備できるはずが・・・」
怪物が再び迫る。
だが、久利生にはどのように拳が迫ってくるかが、はっきりと見えていた。
刀を思いきり振るうと、怪物が真一文字に斬れ、黒い靄となって消えた。