episode.3
episode.3
トラックに轢かれ、次の瞬間、彼の目に映ったのは恐怖に震える彼女の顔だった。
彼は彼女がいきていることに安心した。
不思議と体に痛みはない。
一瞬、激痛が走ったが、気のせいだったのだろうと、芥川は地面に手をついた。
その手をみて、彼は叫び声をあげた。
手が真っ黒に変色していたからである。
「血・・・じゃない?」
濡れていないのだ。
乾いているのに、身体中が黒く変色している。
「バケモノ・・・」
彼女が掠れ声でつぶやく。
トラックを見ると、そのガラスには、黒い肌で、筋骨隆々のばけものが映っていた。
「なっ!!」
驚き、後ろに後ずさると、ガラスの化け物も同じ動きをした。
まさか、そんなはずはないと思いながら、手は頭に向かった。
そこにはあってはならない、ツノが生えていた。
「なんだ、これは・・・・」
「来ないで!!!」
彼女が泣きながら逃げようとする。
「お、俺は」
「こい!」
トラックの運転手が彼女をトラックのなかに入れる。
アクセルを吹かせながら、トラックは芥川の横を、
80キロを越えようかという速度で通り過ぎていった。
「待ってくれ、俺は」
気がつくと、芥川は走り出していた。
その速度は、スピード違反間違いなしであろうトラックの速度を超える速さだった。
芥川はトラックを飛びこし、その前に立った。
「化け物め」
トラックの運転手はさらにアクセルを踏んだ。
芥川は雄叫びをあげながら、トラックに平手を当てる。
すると、トラックはピタリとも動かなくなった。
「嘘だろ・・・」
「美宏を返せぇ!!」
芥川の腕が窓を突き破り、トラックの運転手に突き刺さった。
「きゃああああああ」
「待てえ!!!!」
掴むつもりで伸ばしたその手は、彼女の胸を貫いた。
その腕を引き抜くと、彼は震えながら叫んだ。
血に染まったその腕は、月に照らされて怪しく光っていた。