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移ろいゆく時代の中で、人は古くから恐れてきた物の怪の存在を忘れた。
それは、実害がなかったからである。
それというのも、人類は住み分けする事ができていたのだ。
黄昏時に現れる、常世の世界と、こちらの世界を。
だが、人類は再び気が付いたのだ。
この世が我々のものだけではなかったのだと言うことを。
episode.1
バイクに乗った男が、海岸線をあくびしながら走っている。
彼の名前は、久利生善。
久利生は、後ろに縛った少し長めの茶髪で、デニムジャケットを羽織っていた。
「テメェ!!俺と付き合うって言ってんじゃねぇか!?」
「凛は俺の友達だろ!?こいつは俺んもんだ」
なんだ・・・・、痴話喧嘩か??
久利生は足早に通り過ぎようとするが、運悪く、信号が点滅を始めた。
「あのねぇ、私は、誰とも付き合おうなんて思ってないの!そもそも、バイクが好きで、一緒に旅してくれる友達が欲しかっただけで・・・」
「はぁ??じゃあ、なんで出会い系アプリなんて」
女は少し口ごもる。
確かに、出会い系アプリで出会ったなら、男が期待するのも無理はないだろう、と久利生は思った。。
どうやら、少し興味が湧いたようだ。
「出会い系ってか、マッチングアプリってやつでしょ??たまたま、友達が趣味が合う人をこれで見つけたって教えてくれたから使っただけなの!!」
「紛らわしいことすんなよ!」
「そうだよ。てか、俺お前にナンパされたようなもんだろ?」
「ナンパって、おんなじ場所で一晩寝たら付いてきただけでしょ?」
「この・・・・・」、と男が女に詰め寄ったところで、ふと久利生と目があった。
「テメェ、何見てんだよ?」
「は?」
気がつくと、信号はとっくに青になっていた。
「いや・・・、すいません」
どうやら、面白がって見すぎたようだ。
久利生はぺこりと頭を下げると、バイクのアクセルを捻った。
すると・・・・、
「ああ!!!君かぁ!!」
「え?」
「君でしょ。ほら!やっと迎えにきてくれたんだ!!」
女はメットをかぶるとバイクに跨った。
「じゃ!私は彼と行くから」と、言い残すと、女はアクセルを捻り、バイクを発進させた。
呆気にとられていると、男たちがこちらを睨んでいるのが目に入った。
「・・・じゃあ、どうも」
久利生は再びアクセルを捻り、女を追って走ることにした。
残念だが、それしか選択肢はなかったからだ。