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06.凄絶!神十徳ナイフ。


 兎の解体が終わってから、小一時間立っただろうか……。


 もう間もなく目的の場所に着く。


 徐々に積雪が少なくなっており、ライズが雪上に頭部をのぞかせていた。


 「もう、そろそろだな。」


 「兄ちゃ!温泉!」


 「混浴ですね。ライズ様!」


 ライズからも湯気が見えている。


 やはり日本人にとっての温泉はロマンそのものである。


 前世で温泉に入る機会の無かったライズは、ひそかに胸を躍らせていた。

 

 近付いて行くほど、湯気?の熱気、地熱に当てられ、積雪量が少なくなっていく、もうアイテムストレージへの収納が必要なくなっていた。


 濛々と立ち込める湯気……。


 いささか煙いような気もするが、その立ち込める湯気の中心点に近づいて行く……。

  

 そしてついに到着。


 そこは地面に穴が開いており、その中に赤々と燃え上がる溶岩が姿をのぞかせていた。


 「なあ、これって詰みか……。」


 ライズはその景色に絶望の色をのぞかせ、二人に尋ねる。


 「ライズ様、ここ温泉は真っ赤に煮えたぎってるのですね。」


 「温泉っ!温泉っ!」


 ネロ一人だけ、テンションが高い……、温泉を知らないのだろう……。


 現実逃避しそうな精神を屈服させ、意を決しライズがネロに説明する。


 「ネロ、あれは溶岩って言うんだよ。入ったが最後、骨も残らず消し炭に成ってしまう。」


 「そうなの~?」


 「ライズ様、やはり私の目が悪くなった訳じゃ無かったんですね……。」


 「アウラの見間違いじゃない。間違いなく溶岩だ!ラーバだ!ちきしょ~!」 


 絶叫するライズ!落ち込むアウラ……。良く分かっていないネロと、各々がしばらくその状況に浸っていた。


 よく考えれば当たり前である。


 遠くからはっきりと見えていた湯気が、単なる湯気の訳が無い。


 風も吹いていたのだから湯気なんか、きれいさっぱり消え去ってしまうだろう。


 ふと、濛々と上がる湯気を見てライズは思う。


 (あれ?この状況って危険じゃないか?)


 もし雪崩が起き、溶岩地帯を巻き込むような事があれば……。


 水蒸気爆発である。


 他に水蒸気の抜け道でもあればいいが、パッと見煙の上がっている所はここしかない。


 下手したら山の形が変わるほどの爆発が起きる。


 この湯気はその前兆なのだとここに来て気付いた。


 ライズは二人を呼び、更なる移動を告げる。


 「二人とも!ここは危険だ、もしかしたら噴火が起こる!急いで移動するぞ!」


 「え~!精霊達は何とも言って無いですよ!」


 「え~!温泉は?」


 「アウラ!雪崩とかは精霊の所為なのか?」


 「そんな訳ないじゃないですか。気温と雪のバランスとか……、色々ですよ。積雪量とか風量とか水分量とか、多少、精霊が影響を与えた事はありますが、雪崩に直接関与することは無いですよ。」 


 「なら危険だ!精霊の管理下にないんだからな!精霊が関与してる方がまだ安全だ。」


 「ネロ、まだ肉食べてない……。」  


 「すまん、ネロ!温泉も肉も後回しだ。ネロは良い子だから我慢できるだろ。」


 「うん!ネロ、我慢する!」


 「よしいい子だ!」


 ライズはそう言い、ネロの頭をなでる。


 ネロはくすぐったそうにはにかみ頭を下げる。


 「私も我慢します!」


 アウラが便乗しようと胸を張り、我慢を主張するが……。


 「何を?」


 「えっ!いや……、だから……。温泉と……、肉を……。」


 「ネロは子供だぞ?アウラは何と張り合ってるんだ?」


 「えっ!私は0歳ですよ!主張して駄目ですか……。」


 「えっ!だって、身体は大人じゃん!」


 「精霊種舐めないで下さい!身体は大人、頭脳は幼児!その名は精霊種アウラです!」


 「何、言いきったって、ドヤ顔決めてるんだ!それにあの神にしてこの精霊ってのが良く分かったよ……。でもまあ、受肉したのはさっきだから認めてやるか。」


 「でしょ!でしょ!でしたら、頭撫でて下さい。」  


 「はい、はい。」


 もう面倒なので、指先でアウラの頭を撫でてやる。


 アウラも恍惚とした表情を浮かべ身をくねらせる。 


 (う~ん……。ダメな子判定はまだ早いが……、要注意だな……。それよりも……。)


 ライズは頭を切り替え、現状打破の方針を考える。


 この頭の切り替えがライズの賢者たる所以なのだが……、現段階で取れる方針は一つしかない。


 兎に角、逃げるの一手なのだ。


 自然災害に魔術で対抗する……、無謀も良い所、神に喧嘩を売るのと同意……。


 「んっ!神って幼女神だよな……。」


 そう思うと、ライズの心に余裕が生まれる。


 そして徐に、メニューから運営(幼女神シンラ)へメールを送る。


 内容はこうだ……。


 


 To:幼女神


    雪山で火山噴火しそうです。


    ライズより  

  



 間髪入れず着信音が鳴る。


 ピロロ~ン!


 返信速っ!



   

 To:ライズ


    あと3年は戦える。


    幼女神より



    

 (うん!意味分からんが……。多分、3年は大丈夫そうだな。)


 「どうしました、ライズ様?」    


 「兄ちゃ、変な顔。」


 二人には、ライズが幼女神とメールのやり取りをした事が分からない様だ。


 確かにメニューウインドウが、可視化されることは無い。 


 傍から見れば、虚空を見つめ変顔していると取られても可笑しくないだろう。 


 「今、幼女神にメール送ったところだ。」


 「それで、どうでなりましたか?」


 「3年は大丈夫らしいが……。早いとこ拠点の移動が望ましいと言った所か。」


 3年後まで大丈夫と言っても、この場所が危険地帯であることは変わりなく、何より獲物が少ない上、有毒ガスを噴出させてる可能性もある。


 地球でも温泉付近の生態系は異常なのだ、植物は枯れ果て、生物の鼓動が感じられない。


 まさに地獄谷と言って過言ではないだろう。

 

 ライズのマップにも、溶岩地帯に近づくにつれ、生き物が表示されなくなっている。


 魔獣から襲われる心配が無いと言っても、それ以上の危険がすぐ隣に潜む事となる。


 「それで、どうします?」


 「そうだな……、噴火の規模とか分かればいいんだが、早いとこと言っても直ぐと言う訳でも無いし……。ここが火山地帯だと言う事を考えれば、近くに温泉が湧き出ている可能性もある。」


 ライズもまた、温泉の魅力を捨てきれずにいた。


 「そう言えば、ライズ様のマップで泉脈探せないのですか?」

 

 「幾らなんでもそこまで万能じゃないだろ………………、出来た……。」


 ふとアウラの言葉で物は試しと3Dマップで検索を掛けると、温泉が噴き出る場所を見つける事が出来た。


 ライズは目を丸くし、驚愕の表情を作る。


 「これで温泉へ、行けますね。」


 「やった~!温泉だぁ~!」


 3人はさっきまでの憂鬱な表情では無く、恍惚とした表情に変わっている。


 そして、誰の指示も無いまま、温泉へ向け歩き出した。


 


 



 それから、泉脈を辿り小一時間歩く。


 子供の足、雪の壁などもあり、思ったよりも進まないのだが……、そこは上位種、獣人、精霊と身体能力が比較的高い種族の集まり、火山地帯より5キロ位離れたと処まで来ていた。


 そしてついに温泉の吹き出し口に到着する。


 そこは火山の熱により、温泉が周期的に地面から吹き上げられていた、間欠泉である。


 温泉は上部から下方に流れ小川を形成し、周りを見渡せば鬱蒼と木々が立ち並んでいる。

 

 「凄いな。」


 「間欠泉と言う奴ですね。」


 「これが温泉?」


 「まあ、温泉に違いないが……。湯船が無い!」


 折角温泉を発見したのだが、残念な事に手付かずの自然のままなのだ。


 空は厚い雲に覆われ、雪が降っている天気、ただでさえ薄暗いのに、転生直後より暗くなっている。


 そろそろ、日が落ちる頃なのだろう。


 「これから、拠点作成か……。」


 「ライズ様!まずは湯船の作成でお願いします。」


 「温泉~!」


 「気持ちはわかるが、良いのかそれで……。と言うか、全部俺が作るんだよな?」


 「私はこんな体ですし、ネロさんは多分作れません。と言うか、知識が有りません。ですので、ライズ様に一任と言う事になります。賢者の力見せて下さい!」


 「任せろと言いたい所だが、魔術、余り得意じゃないぞ!精々強化魔術位だし、体外への放出はする事が出来ない。」


 「え~、そうなんですか?こう土魔術で、ぶわっ!と作れるんじゃないですか?」


 「そんなの無理に決まってるだろ!俺は賢者と言う名の知恵者でしかない。戦闘ではむしろ肉体派だったんだからな!」


 「それなら、簡単です。穴を掘って下さい!」


 「はっ?木の切り出しからだろ?」


 「それでもいいです。でも湯船作るには穴を掘らないと駄目ですよ。」


 (それもそうだな。)  


 ライズは結局アウラ案を採用し、穴を掘り始める。


 穴を掘る道具は神十徳ナイフ……、何故かスコップが付いている。


 どこをどうツッコンでいいか分からないが、神十徳ナイフからスコップが出て来た……。


 他にもツルハシ、クワ、ナタ、カマ、ハンマー、ノコギリ、カギヅメ、中華鍋……。


 正に神十徳ナイフ……。


 それを使い、穴を掘る。


 意味不明神十徳スコップは少しの力で掘り進めることが出来る神仕様、神の補正様様なのだ。


 穴を掘り、神十徳ハンマーで周りを固める。


 程無くして湯船となる穴が完成した。


 そこに温泉を引き込み、雪で温度調整……、完璧!


 後は排水処理用の穴を作り完成である。


 掘り出した土で隣に、拠点作成するための基礎を作る。


 このペースで行けば、程無く小屋も作れるだろう。


 お湯が溜まる時間を利用し、木の切り出しを行なう。


 これもまた神十徳ノコギリ……、数回撫でるだけで木が倒れる、切り口も滑らか、兎に角凄い!


 ライズは釘、金具と言うものを持っていない、となれば建てるのはログハウス。


 切り出した木を今度は加工する、使うのは神十徳ナタ。


 軽く木材に振り下す……、スパッ!


 あら不思議、年輪が綺麗に見える……どうやら切れすぎる様だ。


 と言う事で、ライズは神十徳ナイフに戻し、豆腐を切る様に木材を加工して行く。


 序でに囲炉裏も作る。


 (暖を取るのに必要だろう。)


 加工も終わり、組み上げる所で温泉がまった。


 アウラとネロ、二人には兎肉の調理と温泉の溜り具合の報告をして貰っていた。


 「ライズ様!神十徳ナイフ凄いです!」


 そう言い放つアウラは現在1/1モード、ほぼ人間形態150cm前後の身長、ライトブルーセミロングのストレート。


 巫女服はしっかりと色付けされ、しっかりと体型が隠されている。


 ちっちゃな裸のおねーさん状態を知るライズは、アウラが裸で無い事に安堵する。


 流石に省魔力モードでは、料理するのに支障が出た様だ。


 料理と言っても何もない状況では、ぶつ切りにした兎肉をお湯で煮込んだだけ……。


 「兄ちゃ、温泉溜まった!」


 片やネロは温泉が楽しみなのか、元気な声でライズを呼ぶ。


 「後は小屋建てれば大体だな。先に風呂入ってていいぞ。アウラ!ネロを入れてやってくれ。」


 「え~!兄ちゃと一緒が良い!」


 「そうですよ、ライズ様!夫婦のスキンシップはとても大切です。」

 

 「それはそれで大切なんだろうけど……、風呂上がりに外で待機も、嫌だろ?だから混浴は先送り!」


 すると申し合わせたかのように、二人は口を尖らせブーイングを始める。


 「「ぶーーーー!」」


 「そんな顔しても変わんないぞ、また今度な。」    

 

 二人をなだめ、ライズは作業を再開する。


 後は組み上げるだけなので割と簡単、肉体に強化魔術を掛け軽々と木材を持ち上げる。


 (やっぱり身体の能力が上がってるのか。)

 

 流石ハイヒューマンの身体と言った所だろう。


 (魔力効率も良いみたいだ。魔力を練らなくともすんなり身体を通って行く。)


 後で要検証と思いながら、レゴブロックを組む感覚でログハウスが出来上がる。


 すぐ横で最初は渋々と言った具合でいたアウラとネロ二人が温泉に浸かり、恍惚とした表情に変わっていた。 

 

 (温泉が丸見えなのも問題だな……。目隠しも作らないと……。) 


 大体の作業が終わるころ、温泉に浸かり顔を赤くした二人が出て来た。


 「ライズ様!とってもいいお風呂でしたよ!見て下さいこの肌!プリッ!プリッ!スベスベです!」


 「幼児の肌はプリッ!プリッ!スベスベだろ!」


 「そこは何気にスキンシップに持ち込むところですよ!ライズ様のムッツリ!」 


 「兄ちゃのムッツリ!」


 「アウラ……。ネロが変な言葉覚えて行くから、口に気を付けろ!」


 そして、大まかな温泉付き仮拠点が完成し、3人はやっと落ち着いて食事をするのであった。


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