38.新たなる火種。
不定期投稿なります。
フロスト王国建国より2年、建国時の混乱は落ち着き国として回り始めていた。
そんなある日、教会よりアウルーラ世界各国へとある宣言が通達された。
『フロスト王国は邪教徒により支配されている。』
その宣言文は、人族至上主義である教国は元より、各国の首脳陣に衝撃を与えた。
唯一神と崇められていたクレスタが邪神を認めたのだ。
それにより、魔王に続き、邪神討伐へと世界が動き出した。
とある城の一室。
「バカなんですか!!!!」
フロスト王国会議室にて、怒声が飛ぶ!
おなじみペリティアである。
15歳となり、魅力が格段に上がった麗しき乙女からの声に、そこに集まる面々が委縮する。
会議室には親衛隊、騎士隊、国軍将官、執政官など、フロスト王国の主だった幹部、そしてライズ達が集まっていた。
そんな中、ライズはペリティアを宥めるよう声を掛ける。
「まあまあ、今更の事だろ。」
「ですがライズ様!他の国が揃いも揃って踊らされている事に気付かないとは……。」
(それも今更なんだが……。)
ペリティアは諜報員を各国に派遣している。
教国が教会設立とともに、各国へ行っていた事でもある。
ライズより情報戦の有用さをトコトン教え込まれ、2番煎じとはなるが、その土俵にフロスト王国も乗った。
ただ教会の様に教会を建てるような無駄な事はせず、商人として潜入させた。
余談ではあるが商品は薬……、賞味期限のあるポーションでは無く、ポーションとグリセリンに似た粘りのある液体を混ぜ合わせた物、要は軟膏で有る。
擦り傷、切り傷特効とはなっているが、実は内服薬として内蔵修復効果が高い事は知られていない。
薬草の2倍、ポーションの5分の1の価格、ポーションの劣化版と認知されている為、教会の目を反らしてはいるが、長期保存が利く簡易回復薬として、冒険者、兵士、騎士等、戦闘に関わる者、市井の民の常備薬として重宝されつつある。
そこへフロスト王国、国営商人とは知らずに各国は飛びつき、すんなりと商会の設営まで保障された。
製造工程はライズの誓約魔術により、秘密とし商人達の口からは漏れる事は無いだろう。
外聞上、薬草から出来た軟膏と言いう事になっている。
売れ行きが可笑しな事に成りそうな為、制限などを設けながら価格調整を行い、程々の売り上げに見せてはいるが、世界各国へ送り出し店舗数も、もう直ぐ200を超え、巨大なネットワークを構築する勢いでいる。
既にフロスト王国はペリティアの手により、クレセント王国時代10年分の外貨獲得に成功している。
その上、各店舗にその国の些細な事から国営に関わる情報まで集まり、その情報は10店舗ごとに1軒あるハブ店舗に集約され、そこから毎日ペリティアの元へ届けられる。
単純に『諜報と言えば薬売り』とライズが口走ったのが事の発端になっただけなのだが、薬草の生産に成功し国の一大事業として、ここまで昇華させたのはペリティアの手腕に他ならない。
ミライも調子に乗り、ペリティアにガマの油の口上を教えていたのも、成功の秘訣かも知れない。
後で、高田さんの口上も教え込む予定のようだ……。
と言う事で話は戻る。
「では開戦は必至か……。」
「そうなる事が目に見えています。」
ペリティアはそう答えた後、嘆息し視線を下に落とす。
一国を支える者達が教会に踊らされるほど、馬鹿では無いと期待していたのだろう。
だが勇者と言う力を手に居れた事で、その力を使う矛先を探していたと言った所だろう。
魔族は強い……、だが使ってみたい……、そこに現れた新興国家。
教会が提示した大義名分。
「これに喰い付くのは、当たり前か……。」
アウルーラでは明確な国境が存在しない。
大抵は王都、帝都、皇都等の中心都市を造り、その周りを開拓するための町、村などが点在し、その町や村を領主となる貴族が治める事である程度の境界としている。
フロスト王国は貴族制度を廃止しているが、かわりに代官が町、村を運営させている。
そして王都より、四方に街道が伸びており他国へとつながっていた。
途中、ライズ達が通ってきた森林地帯の様な空白地帯なども存在し、防衛線を構築しようにも街道を迂回されれば、すんなりと王都に辿り着く。
いわばザルである。
四方に軍を裂く事に成ると、普通に考えれば王都防衛も儘ならない。
そして誰が決めたのかは知らないが、この世界の戦争にルールがあり、戦闘前に戦場と言う名の盤を決め、軍と言う名の駒をぶつけ合う。
そしてある程度の時間が経過、軍の消耗、指揮する者の制圧で勝敗が決し、その後領土の切り取りなどの話し合いが行われ終了となる。
ぶっちゃけ、ぬるい!
のだが前線に立たされる者は酷としか言いようがない。
前世ファスト・フロスト時代はその最前線に単騎で立ち、敵前線を崩壊させ密集形体で居る敵兵の頭を踏み台にしながら、一直線に指揮官を叩いていた。
故にファスト・フロストの立った戦場では単騎駆けの影響か、戦闘時間が短く驚くほど死傷者が少ない。
そんな事を思い出していたライズの耳にペリティアの呟きが聞こえてきた。
「戦場が集約されれば楽なんですけど……。」
「んっ?何か案が有るのか?」
「あると言えばありますが……、ライス様|達≪・≫に負担を強いる事に成ります。」
ペリティアは申し訳なさそうに答える。
「まあ、聞いてから考えるか。」
そうして会議室のテーブル上に地図を広げ、戦略会議へとシフトする。
地図はライズにお手製のフロスト王国が所在する大陸の縮尺図、マップスキルを書き出した物である。
そこに色分けされたチェスに似た駒を並べ、ペリティアが説明していく。
口頭で無く、映像として記憶する事により、戦略上の意思統一を計ると言う意図もある。
ペリティアはフロスト王国を指し、口を開く。
「フロスト王国は大陸中央部に位置し、四方……いえ八方と言いますか、全方位を他国に囲まれております。」
「まさに四面楚歌だな……。」
聞いた事の無い言葉にペリティアが喰い付く。
「しめんそか?」
「窮地に立っていると言う事だが……。気にしないで続けてくれ。」
ライズは軽い説明をし、戦略会議進行を促す。
「そうですか……。では続けさせていただきます。」
ライズの言葉が気になるようだが、優先順位を考え話を続ける。
「まず現状の確認をします。自国に面しているのは、この大陸最大の領土を持つプロトニク帝国、教国の犬オリオル王国、過去の勇者が建てたマサシ皇国、そして連合十三国の2つ、バルトリン王国とハクダク王国です。」
(知識の戻った今だから思うが、国名ヤバいな……。)
「注意する国は3つ、プロトニク帝国、オリオル王国、バルトリン王国です。マサシ皇国は遊興を国是としている為足並みは遅く、ハクダク王国は大河を挟んでいる為、船団を準備するのに時間がかかると踏んでいますので、今回は省かせていただきます。」
(マサシ皇国は流石に日本人の作った国、ハクダク王国は対岸の火事って事か……。)
「大国二つは教国との根も深い為、確実に攻め込んできます。隣のバルトリン王国は親戚筋ではあるのですが、フロスト王国建国と共に国交断絶となりました。民間レベルでの交易はあるようですが……。」
「隣国であるバルトリン王国が真っ先に動きそうだな。」
「そうです。2年前より軍拡が行われております。」
「あっはっはっはっ!すでに狙われてたのか。」
「笑い事ではありません!」
「分かっていてそれを放置していたんだろ?」
「ええ、ですが手を拱いた訳ではございません。少数の諜報員を放っています。私は自国の立て直しを優先、国力の増大を計っていました。以前と比べ人口、生産力が増加し、ライズ様達のお陰で民の基礎能力が向上した上、国軍に至っては戦術の理解力も上がり、小国の侵略など負ける要素は皆無です。」
「それで、相手は軍拡を行う事で民は軍に徴兵され、生産力が低下、民の不安をあおり、治安の悪化となる訳だ。」
「そうですね。諜報員に流民の誘導は命じてはいましたが……。」
ペリティアは、バルトリン王国に対し、既に調略を巡らせていた。
それは息をするようごく自然な事の様に言ってのける。
「それは手を打っていると言う事だよな?」
「いいえ、自国の人口増加政策として、流民の受け入れを促しただけですわ。結果、そうなっただけです。」
ペリティアは意図せず隣国の国力を低下させていた。
他の国にも、その政策の影響が出ているだろう。
「それからオリオル王国ですが、ここは間違いなく最大の敵となります。」
「教国の影響か?」
「教国……、いえ教会の番犬ですね。魔族との戦争も先陣を切って動いています。勇者数も最大でしょう。」
「調略でどうこうって訳には行かないか。」
「ある程度の切り取りは出来ますが、微々たるものだと思います。」
「そうか……、で残るはプロトニク帝国か。」
「帝国軍本隊が動く事は無いと思いますが、貴族軍が威力偵察程度で動いて来るとは思います。それでも脅威には変わりませんが……。」
「どういう事だ?」
「帝国とは建国早々真っ先に国交を結びました。教国とつながりのある帝国ですが一応、外交上は友好関係にありますので、表立って裏切るような行動は、他国に対しても外交上の損となります。ですので教信的な貴族による暴走と言った体を取ってくると思います。」
「戦況次第で侵略の可能性もあるよな?」
「そうですが、フロスト王国最大の砦が帝国国境にあります。ここを抑えて置けば帝国も無理はしないと思います。」
「外交上、間に挟まれたから、互いにいい顔しなければいけない訳か。」
まだ教国、他周辺国もあるがペリティアによる簡単な状況説明がなされた。
取りあえずの対処として3か国!
ライズは眉間にしわをよせ、目の前に置かれる地図を眺める。
その横から、透き通る声でペリティアが話し出した。
「それではこれより、作戦を伝えます。」