36.5 閑話 久遠未来の場合
何ここ?
そこは知らない場所だった。
私の記憶では、電車に乗っていた筈なのに……。
周りには、同じように周りを見回している者達……、皆が皆混乱の最中なのが分かる。
その様子を見ると私の頭は、冷静さを取り戻した。
すると正面に一人の女性が姿を現す。
金髪碧眼、白いレースのヴェールをかぶり、白を基調とした司祭服……。
神秘的な雰囲気を醸し出してはいるのだが……、ゆったりとしたその服からでも分かるそのスタイル……、正直嫉妬する。
チビの短髪メガネな私は劣等感に包まれるも……。
私の危機センサーがビンビンになる。
こういうパターンで登場する美女……。
まさか……。
『異世界転移』
妄想癖のある私はそれが実際に起こった事を理解した。
案の定、目の前の美女からは『勇者召喚』したと告知される。
そしてここは異世界……、帰るには魔王討伐が必須……。
パターン的に帰れないの一択……、だが私は諦めきれない……。
日本には残してきた物がある!
しかし、この世界での安全は確保しないと……、死んでしまっては元も子もない。
もう、テンプレ持ってこ~~い!
と言う事で、お決まりの祝福及びステータス確認が始まる。
一人一人、前に出て水晶玉の様な物に触れ、カードっぽい物を手渡される。
ああ、ここで私の秘めたる力が……。
あったよ!!!!
『強奪』!!!!
あれ!これって皆に公開されてるじゃん!
まずいわ!
そそくさと、後ろに下がり私は人ごみに紛れる。
ふぅ~~。
これで一安心……、んな訳あるか~~~~!
ステータスに浮かれた私は、皆の情報が投影されていた事を見落としていた。
私も公開されるのは当たり前……。
強奪なんて、警戒対象スキルの第一候補に挙がる。
周りを見渡すと皆は自身のステータス確認に夢中の様だ。
ステータス値が低いからかしら?
割と注目されてない?
まあ、警戒されたと思って行動はして置きましょう。
私は慎重で冷静な女……、こんな意味不明な世界、石橋を叩いて渡らないくらいが丁度いい……。
さてお目当てのスキルはあるかしら?
私は他人のステータスをチェックする。
警戒すべきは看破系、精神感応系……。
これさえ押さえとけば何とかなるかな……。
何てったって『強奪』だもの!
最強スキルの一角よ!
次々と公開されるステータス……。
あれ?見た事ある様な……。
無能力者って……、ご愁傷さま……。
ぶっちゃけ、どういった設定かも分からない世界での、そのディスアドバンテージは痛すぎる……。
そして私のチェックに入ったのは10人……。
皆、知らない男だ!
まずは鑑定持ちからね……。
あのヒャッハーの男……、頭沸いてそうなので心が痛まない……、よし!獲ろう!
その男の後を尾行する。
一人になるのを見計らうも、中々チャンスが訪れない。
初日……、2日目……、3日目!やっと一人になった。
私は迷わずタックルで急襲、引き倒す事に成功!そのまま後ろから首筋に腕を絡め締め上げる。
こんな美少女に抱き着かれて意識を失うのだ、相手は本望だろう。
見よう見まねでやった割にはあっさりと落ちた。
余程いい所に入ったのだろう。
周りを確認、これ見られると警戒レベルが上がってしまう、ここは慎重にっと……。
初めてのスキル行使……。
胸が高鳴るのを抑え、静かに相手の頭を掴む……、何故そうしたのかは分からない、何故だかそう言う使用法なのだと思った。
祝福を受けた者の恩恵なのだろう。
『鑑定』ゲットだぜ!
他にも成長補正が有ったが、私も持ってるし……。
私の襲撃は続く、次は魅了持ち!
男達は性懲りも無く序列付けしている。
私達女性陣はそれに危機感を感じ、集団行動をとるようになった……。
私は知り合いも居なく、あぶれる羽目に……。
まあ、いいわ!
知り合いがいないと言う事は、強奪しても心が痛まないと言う事、かえって好都合ね……。
そうして私は近寄ってきた男達を強奪して回る。
10人目の強奪をした時を境にスキルだけで無く、ステータス値の強奪も出来るようになった。
それと共に触れなくてもとれる技能も覚える。
その後は男女関係なくステータス値をちょっとずつ頂いて行く。
だってそうでしょう。
私がいきなり強くなったら、目立つでしょ……。
ただでさえ見た目脆弱な文系少女何だし……。
そうこうして数カ月が過ぎると、私は序列トップランクと同等の力を付けていた。
各々も力をつけ、各国へ派遣されていく。
中には直接戦場へ赴く者も……、それでいいのか?
私にも教会から依頼が来る……、断固拒否!
やはり協会が疑わしい……、書庫閲覧の許可を貰い引きこもった。
数カ月籠もっていると司書官にブッチされる……。
まあそろそろ潮時、お陰で大体の知識を得る事が出来たけど……、教会にとって都合の良い事ばかり……。
久々に教会内を見たが随分人数が減っていた。
残っているのは私みたいな問題児と優等生……。
流石に今までのつけが回って来たのか教会からの依頼が来るも……、拒否できない。
私は渋々依頼を受ける、内容は近場の魔物狩り……。
それぐらいなら……。
私の秘めたる力を介抱する時!
今までレベル上げなんてしていなかったのだが、私のステータス値は勇者の中でもトップクラス。
その殆どは強奪スキルによるもの、レベル1では有り得ないステータス値となっていた。
私の聖剣はクレイモアと呼ばれる大剣、私の身長より大きいかしら……。
私は聖剣を横薙ぎに振るうとあっさり魔物はミンチに……、うぇ~~グロ!
因みにスキルも使えた……、ちまちま魔物からスキルとステータス値を奪う。
これでレベルアップと誤魔化せる。
私は書庫にて情報収集、近場の魔物討伐を繰り返し、数年が過ぎた。
何人かの勇者が消息を絶った……、大凡死亡したのだろう……だって戦争中だもの!!
それよりも書庫では有力な情報が無い……。
そう結論付けた矢先、聖女より呼び出される。
クレセント王国へ派遣された、勇者及び教会関係者との連絡が途絶えたらしい……。
そしてその場には私以外の男が3人……。
確かこいつらは脳筋スキル3人組、通称3馬鹿だ……。
確か名前は……忘れた。
むしろ覚えていなかったかも……。
嫌な予感がする。
その予感は当たる……、3馬鹿と共にクレセント王国の調査だそうだ……。
正直、面倒臭い!!
だけども……、調査だけなら……。
私はそう了解したのだが……、予期せぬ仕事3馬鹿のお守もあるとは……。
そしてそこで、私は人生を変える出会いをする。