34.フロスト家。
ミライに勘違いで魔王とされたライズは自分の素性を話す。
「さっきから、自称、自称と言われたけど、間違いなく職業賢者だから!それに魔王って職業として無いからな!」
「そうなの?でも魔王倒せって……?」
「強いて言うなら、魔人種の王と言う事だろうけど、あそこは共和制だから、王じゃなくて元首ってなるぞ!」
「はい?」
「まあ、部族の代表の代表みたいな感じだがな。ちゃんと議会は機能してたぞ。」
「ちょ、ちょっと!何で魔族が国民主体な体制取ってるのよ!」
「あそこは法治国家だからな。魔人種は部族ごとに容姿も考え方も違う、人種人族のような単種族でないから、そう言う風にしないと纏まらないらしい。下手したら部族ごとに争う事になるし、平和的に解決するには議会が必要とも言ってたな。」
ミライは魔族が近代国家体制をとっていた事に驚きを隠せない。
「待ってよ!それじゃ、人間の方が蛮族みたいじゃない!」
「そうだと思うよ。他国を侵略して根こそぎ奪う、個人としても、倒した相手から剥ぎ取っていく野蛮な種族だね。それでいて自種族が一番優秀だと勘違いしている。そして困った時は勇者召喚、力を誇示したいんだろうな……。」
「………………。」
ミライが言葉に詰まる。
「まあ、その方が教会も国家中枢へ食い込みやすいし、君主制で居てくれた方が扱いやすいだろうな……。」
「何、教会の思惑がそう言う事なの?あなた一体……。」
「可能性の話としてな……。それとさっきから賢者って言ってるだろ、ライズ・フロスト職業賢者だ!そっちがアウラ・フロストとネロ・フロストだ。」
ライズとミライのみの会話にはなっていたが、アウラはライズの横に立ち甲斐甲斐しく、お茶酌みしている。
ネロは、少し離れた所にあるソファーで丸くなっている。
完璧な淑女としての外面ではあるが、家の中ではいつもこんな感じである。
その二人もフロスト家の者として、ミライに紹介する。
「ライズ・フロスト……。って今更自己紹介!………………それにしても聞いた事のある名ね。」
逆ナン……、と言う事も無く。
普通にミライが思案気な顔を見せる。
「……いや、見たのかしら……。」
とは言えいつまでもこうしてられないので、ライズは助船を出す。
「フロストの系譜だ……、賢者と組み合わせれば答えは出るだろ!」
「あっ!ファスト・フロスト!裏切り者の賢者ね!…………まさか!」
ミライは目を見開きライズを見る。
「それ違うぞ……。俺じゃ無いし、彼でも無い。そもそも裏切っていない筈。」
「でも教会の文献に……。」
ミライの言葉を遮りライズが話す。
「彼の偉業は休戦協定の締結、そこに宗教の介入を許さなかった。それを教会が裏切りとしただけだろ。」
「そうなの?それだと教会が嘘を広めている事になるわ。」
「全部が全部って訳じゃ無いと思うが……、99%位?」
「真っ黒じゃない!」
「でも1%は本当の事かもしれないだろ。」
「それでも可能性でしか無いのか……。もしかしてライズは教会嫌いなの?」
「嫌いだね~。人の善意を食い物にしないと、存続できない組織だよ。」
「でも教会も炊き出しとか奉仕活動しているわよ。」
何故か、教会を擁護し始めるミライ、炊き出し現場でも見たのだろう。
教会の炊き出しに群がる民……、甲斐甲斐しく世話する修道女……、世間体には良く映る。
「話にならないね。炊き出しの対象は誰なんだ?そもそも炊き出ししなければいけない原因は?」
「対象は貧民、原因は魔族でしょ。」
「違う!対象も結局は国が戦争の為に重税を課した結果だから、ただの貧民じゃない。対象は戦争難民、原因は戦争!」
「まあ、そうよね……。」
「それと魔族と言うのが間違い、あれは教会が作った侮蔑用語……。魔人種、亜人種、獣人種などを纏めて指した言葉だぞ。」
「戦争の切っ掛けって何?理由とかあるんでしょ。」
ミライは鋭い所に切り込んでくるのだが……。
「単純だよ。教会の地位向上……。それで説明がつく。」
「何でよ!」
「今回の戦争は教会が起こしたもの、教義に反してるとかって理由の筈だな。人種以外を認めないのがそもそもの原因。それ以外の種族は奴隷として物と同様に扱いたかったんだろ……。人種とは欲深い種だからな、教会は連合軍としてまとめるのも造作もなかったと思うよ。」
「はっ?そんなことして教会に得があるの?」
「教会は回復を独占している。戦争には絶対必要とするものだからな。それと勇者召喚を行い強大な武力として、勇者を各地に派遣する事で国家中枢への干渉が可能となる。」
「そうね……。」
「で、これだけだと教会が戦争を誘発させていると取る者も出て来る。そこで炊き出しなどの奉仕活動。かわいそうな人々に救いの手を……。神を信じれば救われますよ。となる訳だ。要は信者の獲得だな。元々教会運営は、物的財産よりも信者が居ればいいからな。信者=財産、寄付だったりお布施だったり勝手に集まってくる……。」
「何よそれ!完全にマッチポンプじゃない。」
「そうだ!ミライも5年教国にいて気付かなかったか?」
「そりゃ違和感だらけだったけども……、そう言う物だと思ってたわよ!情報がそれしか無かったんだからしょうがないじゃない!」
「ま、その通りなんだよな……。勇者達は洗脳されているようなもんだし。」
「えっ、洗脳?」
洗脳と聞き、ミライの顔色が青くなる。
「まあ、近い状態ってだけで正確には洗脳じゃない。教会に誘導されてるって感じだな。要は馬の前に人参ぶら下げてるのと同じ、情報操作して餌ぶら下げればそっちに行くだけだからな。」
「私もそんな感じ?」
「いや、そうでもない。情報の重要性を把握してたからだろう。教会の事疑っていたんじゃないのか?」
「まあそうね。異世界召喚パターンとして、召喚主が悪ってパターンもあり得るとは思っていたけど……。本当にそうだとはね……。」
「全てが悪って訳じゃ無いだろ。」
教会にもいろんな思想を持った者がいる、全てが悪と決めつけるのは早計だと思い、ライズはそう告げたのだが……。
ミライがそこに対し突っ込んで質問してきた。
「何%位?」
「99%位。」
「だから真っ黒だって!」
「最後の1%には希望が……。」
「教会はパンドラの箱なの!そう言う設定!?」
「そう、百八の煩悩からなる……。婆羅門っ!」
ライズが意味深な印を組み、『婆羅門』と叫ぶも……。
「えっ!何!その設定は付いていけないわ!」
ミライは付いてこれない。
(これはマイナーと言う訳でもなかったんだが……。)
すると横から声がかかる。
「ライズ様、ここは横島君とかで宜しいのでは?そう煩悩と言えば横島君みたいな?と言う設定にしてはどうでしょう?」
「それじゃ、その設定で……。」
アウラの設定をそのままミライに告げる。
「って、今その設定作ってるし!てか、もう設定って言ってるし!本当っ!あなた達何者なのよ!」
ミライのボルテージマックスなのか、顔を赤くし興奮している事が見て取れる。
ライズは冷静に答える。
「賢者と従者ではダメかな……?」
「ダメに決まってるでしょ!そもそもフロスト家って何なの!?裏切りの賢者だったりあなただったり、可笑しいわよ。」
「そうだね、否定はしないよ。教会の教義からはトコトンずれている。前者にしても、各国の王達をボコって無理やり署名させてたしな……。」
各国の王をボコって回った事を聞き、ミライが冷静さを取り戻した。
「そこに教国は入らなかったのね。」
「当たり前だろ、教国は聖女、法皇、聖王とか……肩書だけ色々居て、明確なトップが居ない。あいつ等は信託以外の事を聞かないだろうから、強いて言えば神なんだろうけど……、元々あやふやな存在なんか相手にしてられないだろ。」
「分かるは……、不思議ちゃん相手にすると疲れるもの……。」
(中二病患っているミライも、不思議ちゃんの一角に居るのだが……。)
ライズはその言葉を飲み込み、説明を続ける。
「で、フロスト家についてだが……、う~ん……、本当の事言ってもいいんだが……。」
「ライズ様……、ミライさんに覚悟があれば、表面的な物は教えても構わないかと。」
「と言う事だ……。覚悟はあるか?最悪、唯人だっけか?あいつと同じ運命をたどる……。でも、恋人と一緒ならそれも本望か……。」
先に殺した勇者の一人がそんな名前の筈、絶叫していた事からミライと、ただならぬ関係であるとライズは推測する。
「唯人って誰?」
「えっ!さっき目の前で死んだろ?」
「ああそう言えば、そんな名前だったかな……?」
「覚えて無いのかよ!絶叫してたろ!」
「したわね……。でも、ああいった登場の方が楽しいでしょ!」
どうやらミライの演出小道具の名だったらしい……。
「お前も大概だな……。」
「いや、いや、いや……。仕事も出来ない他人だし……。使えないスキルしか無かったし、『戦意向上』なんて取る気も失せるわ。」
何時までもモブの話で時間が潰れるのは勿体ない……。
「コホン!で、ミライ覚悟はあるか?」
「覚悟は無いわ!人の為になんか死にたくないし……。」
「そうか……、生きる覚悟があると言う事だな……。なら話してもいいか……。」
「なんでそうなるのよ!」
「生きる為なら何でもするんだろ!だからこれからの話は、墓場まで持っても行く!簡単に死ぬ覚悟が有るなんていう奴なんか信じられん!皆に公表されて、直ぐにポックリ逝かれたら、こっちも堪ったもんじゃない!だからミライは信用が出来ると言う事になる。」
「何でよ!面倒事は嫌いよ!常にナイフ突きつけられて生きるのも嫌!」
「う~ん、どっちかって言うと、完全にフロスト家の保護下に入り、強大な力で某諸悪の根源に嫌がらせをして回ると言った感じだが……?」
「何よ某って!さっきの話から教会を敵に回すって事じゃない!それに嫌がらせって……、それで勇者をボコスカ殺してるんじゃないわよ!」
何故か、立ち上がり激オコとなるミライ……。
ライズは顎の下に両拳を付け、上目使いでミライを見上げる……、目をパチクリと輝かせ、そして一言。
「ダメ……かな……?」
「可愛くないわよ!」
更にヒートアップするミライ!
ライズの思惑としては、二十二歳の女性が12歳のショタに言い寄られると言う構図なのだが……。
「そんな図体のデカいショタが、どこにいるのよ!寧ろあんたは壁ドンでしょ!」
「そうです!ライズ様は寧ろこう言うべきです!」
ミライに続きアウラのテンションも上がり、会話に参加してくる。
アウラは人差し指を未来に向け、威圧的な目でミライを見る。
そして一言……。
「力が欲しいか……。」
「………………。」
「力が欲しいなら………、くれてやるっ!」
ミライの身体がほとばしる閃光に包まれる。
「と、こんな感じです。」
さも何も無かったかのように、アウラが話し出すが……。
「ちょ!今の何よ!」
ミライは先程の閃光に驚き、ライズはアウラの過剰演出にため息をつく。
「光精霊にお願いしただけですよ。演出です演出。」
「そんなのに高位の精霊術使うの?」
「いけないですか?」
「悪いとかそんなんじゃ無いわよ。高位精霊術よね、今の……。」
「高位とかは分かりませんが、精霊術と呼ばれている物で間違いありませんよ。」
「何でそんなの使えるのよ!」
ミライの矛先がアウラに向かう。
「なあ、それについてもさっきの返事を聞かせてもらわないと、言えないぞ。」
「何なの……本当っ!あなたと言い彼女と言い!どうせ、あっちの娘もやばいんでしょ!」
ライズ達がミライにより危険物認定された結果。
「ナニヲイッテイルノカナ?イミワカリマセ~ン!」
「ワタシタチ、アブナクナイデ~ス!アンゼンデ~ス。」
片言での対応……。
「片言で喋っても誤魔化されないわよ!危ない人はみんなそう言うのよ!」
「で、どうする?」
「どうするも何も……、実感したわ……。あなた達が教会の敵だと言う事が……。過ぎたる力を危険視するのは、人の道理ね……。」
「お気に召したかな?」
「否定はしないのね……。」
「なら敵になるか?」
「ならないわよ!!!!」