26.エレクシア登場。
軽く食事を済ませ、ライズ達は冒険者ギルドへ向かう。
「そう言えば、初めてギルドへ来るな……。」
「そうですね。特に用ありませんでしたから。」
アウラと話しながら歩いていると、ギルド前へと到着した。
中で何やら騒いでいるようで、外まで女性の声が聞こえた来る。
「……ですの!」
「ですから、それは……!」
暴動とかではなさそうなので、ライズ達は気にせず中へと足を踏み入れた。
どうやら騒ぎは受付嬢と女性冒険者らしい。
(金髪ドリルに金色のドレスアーマーって……。)
ライズの後ろで声がする。
「あれ?エレクシアさん……。」
「久々に見ましたね。」
「帰ってきてたんだ……。」
サシャ、ニーナ、フレミーがそれぞれ呟く。
「知り合いか?」
ライズは3人に尋ねる。
「ええ、知り合いと言うか……。有名人?」
「どこかの貴族の3女で、冒険者をする変わり者です。」
「あの物言いですから、冒険者とは反りが合いません。」
ライズはフレミーが何を言いたいのか気になる。
「と言うと……?」
「ソロと言うか……。」
「孤高と言うか……。」
「ボッチですね!」
(フレミーって、結構きつい性格?)
等とライズが思っていると……。
「ですから……。グラスウルフに襲われていた商人を助けたのです。」
「こちらも繰り返しますが、そのような報告は受けてません。」
どうやら先の奴隷商人の話をしているらしい……、彼女が奴隷商たちを助けた凄腕冒険者と言う事になるが……、そりゃ有無を言わせず牢屋行きだったから報告も何も無いだろう。
「ちょっと、宜しいですか?」
ライズはエレクシアと受付嬢に声を掛ける。
「あなたは?冒険者では無いようですが……。」
ライズは武装もせずにギルドへ来ている。
受付嬢はそんな装いで居る、ライズを冒険者じゃないと判断した。
「まあ冒険者では無いけど……、その御仁が言ってる事で間違いない。」
「証人ですか?」
何か胡散臭い者を見るような目で、ライズを見る。
「そのような者だ……。で、その御仁の言う奴隷商と冒険者は憲兵により、先ほど捕らえられた。」
「えっ?」
エレクシアは驚く。
それはそうだろう、自身の助けた者が犯罪者となるのだから……。
そんなエレクシアにサシャが声を掛ける。
「エレクシアさん、おひさ~。」
エレクシアが振り向き、サシャ達を見る。
「あら?あなた達。」
「エレクシアさんでしたか、ここは俺に任せて、サシャ達と話してはどうだろう?サシャ達もエレクシアさんに説明してくれ。」
全容の知らないエレクシアへの説明をサシャ達に任せる。
今のやり取りに受付嬢が何かを察した。
「なるほど、そう言う理由ですか……。で、あなたは?」
「私はライズと申します。」
「ライズさんですね……。どこかで聞いた気もしますが……。まあ、いいでしょう。それでどういった用件でこちらへ?」
「ええとですね。サシャ達の報告の付き添いなのですが、エレクシアさんが言った事で大体だと思います。捕捉としてその商人が奴隷商で、この二人がその奴隷だったこと……。私達とサシャ達が各々助け出した。と言う感じですかね?グラスウルフに襲われていた事については聞いていますか?」
「ええ、グラスウルフの群れを倒したと……。」
「それがその群れが3つに分かれていたと言う事ですね。30匹近い群れと言う事になります。最後の遭遇がエレクシアさんと言う事ですが、一人では無いにしろ、10数匹を相手にしたようですね。」
「本来ならBランクでも可笑しくないのですが……。ところで、その2人はどうするのですか?」
元奴隷のエルフ姉妹を指し、受付嬢が尋ねる。
「もう奴隷から解放してますし、家の施設で保護ですかね?」
「えっ?解放……?誰が……?施設……?」
受付嬢が口に手を当て、俯き考え込む。
暫く考えると、答えが纏まりマジマジとライズを見つめる。
「あなたが……、噂の……、それにしては……。」
「まあ、どんな噂か知りませんが……。」
「分かりました。こちらでそのように記録させていただきます。」
「そう頼むよ。城への報告はこちらでしておく。」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。」
受付嬢は最初に見せていた胡散臭そうな表情では無くなり、むしろ余所行きの緊張した表情へと変わっていた。
(やっぱ!肩書重要!)
そんな感じでギルドへの報告が終了すると……。
「お話は済みまして?」
「話は付きました。エレクシアさんも大変でしたね。」
「お構いなく!貴族として市井を守るのは当然の責務でしてよ。オ~~ホッホッホッ!」
エレクシアの高笑いがギルド内に響き渡る。
サシャ、ニーナ、フレミーがライズに断りを入れる。
「「「すいません……。悪い人では無いんですが……。」」」
高笑いが終わり、エレクシアが口を開く。
「で、あなた!お名前は?」
「これは失礼、私はライズと申します。そしてこちらはアウラとネロです。」
アウラ、ネロが軽くカテーシー。
そのカテーシーは魅了効果付きの筈なのだが……。
「そう、よろしく。私、エレクシアと申しますの、どうぞお見知り置きを……。」
エレクシアはカテーシーで返す。
(おお!返された!凄いよ、エレクシアさん!)
頭を上げたエレクシアとライズの目が合う。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………で、あなた達、見たところ冒険者では無いようですけど。これから冒険者登録するのかしら。良ければ私が教えて差し上げてもよくってよ!」
顔を赤らめ、外方を向いている。
(これは一緒にパーティー組まない?ってことか。確かに悪人には見えない、むしろ面倒見のいいお姉さん?)
「それは、パーティーの勧誘と言う事ですか?」
「そっ、そうです。光栄に思いなさい。」
(ここは、『だが断る!』がテンプレだろうけど……。)
「申し訳ないが、仕事がある為冒険者は出来ない。」
やんわりと断りを入れる。
「そう……ですか……。」
エレクシアは肩を落とし、あからさまに落胆する。
すると横から、サシャが耳打ちしてきた。
「実を言うとエレクシアさん、何度かパーティーは組んだ事はあるんですが、全て解散しています。ああいう物言いですから勘違いされやすいですし……、一緒に居るとすごく疲れると言いますか……。」
サシャの言いたい事が分かる。
つまり、冒険者として四六時中一緒に居る事もあり、エレクシアに付き合っていると言う事は、貴族と付き合っていると言う事、一般人が殆どの冒険者はどうしても気を使ってしまう。
それは精神的にも肉体的にもストレスを溜め、疲労困憊となる。
その状態での依頼遂行は、命を危険にさらす事となる。
故に冒険者達から受け入れられ辛い……。
サシャは話を続ける。
「ですから、誰とも常時パーティーが組めないで居ます。」
サシャを見てライズは疑問を口にする。
「そこまで分かってるなら、お前達ではどうなんだ?」
サシャは一歩下がる。
「うっ……。」
ライズ達の声が聞こえていたのか、フレミーから助け舟が出る。
「エレクシアさんとは同期ですので、ギルドの紹介で一回組んだことがあるんです……ただ……。」
フレミーの言葉をサシャが引き継ぐ。
「金銭感覚の違いから……、ちょっと……、ねぇ~。」
「それとなまじ実力がある為、無茶をする事が多くて……。」
(なるほど……、エレクシアに付いて行けない……と言う事か。)
エレクシアを見る。
その背には哀愁が漂っている。
それをアウラが慰めている。
(何故だろう……、目頭が熱くなってきた……。)
ライズにも心当たりがあった。
前世、前前世……、常に独りで行動していたライズにその思いが思い起こされる。
皆と一緒に仕事などしていると、自分の分が早く終わり、仲間を手助けする。
そのうち頼まれることも多くなり、快く引き受ける……、それが慣例化すると、霜山一は一人残業していた……。
前世ファスト・フロストの時も何やかんや頼みごとを聞いていたら、魔人種との調印の場に一人で立っていた……。
出来る者の弊害……、付いて来る者が居なくなる……。
そして自分が助けを求めたい時、周りには誰もいない……。
ライズ自身、何回もそれを経験している。
エレクシアもそれを感じている事だろう。
ライズは自然とエレクシアの肩に手を置いていた。
「エレクシアさん……、苦労しているんだな……。」
「分かります?……じゃないわ、大した事なくてよ!オ~~~ホッホッホッ!」
ギルド内にエレクシアの乾いた高笑いが響き渡る。