22.選定者と魔獣ライダー!
一月後、お披露目も終わり、翌日のお祭り時に一般開放……。
社に続く道もごった返し、広場には屋台……。
夜は提灯に似た行灯で照らされ、縁日に似た雰囲気の祭りが行われていた。
社境内には舞台が作られ、アウラ監修、巫女による奉納の舞も披露された。
楽器はと言うと 鼓、太鼓、弦楽器、尺八?など和楽器に似たものが用意された、もちろんライズ作である。
王国の音楽隊は見た事も無い楽器に四苦八苦しながらも、楽しそうに練習を繰り返し、作曲まで手掛けてくれた。
作曲に関しては、ライズは感謝の念をいだいている。
そしてゼロから完成させたその舞と音楽のコラボレーションに、ライズ達はこれ以上にないほどに感動した。
ライズは武術の真似事をしているが……、その舞も武術に通じるものがあり、日本舞踊に似た舞は手に持つ扇子をを巧みに使い、動から静へとの変化しよどみなく身体を動かす。体感のブレが無くスムーズな脚運び……、このまま舞を極めれば、並みの武術家では太刀打ちできないだろう事をライズに予感させる。
そして親衛隊と警邏隊により、警備されたその場所で、特に大きな問題が起きなかった事は幸いである。
王都内では祭りに浮かれ百数十人、ヤンチャした者が居たがそれも警備隊により拿捕され、全員牢に収監となった。
ペリティア、自ら指揮をとり祭りを運営……、悪さし易い様な場所をワザと作りそこに私服警備隊を張りつかせるとか……、どうなんだ?とも思うがその手際の良さに感嘆する。
差し詰め、市井の民への恐怖植え付け、そして自らの存在アピールと言ったとこだろう。
こうして祭りも無事終了し、明日から日常に戻る。
それから数日過ぎたころ、ライズ達は家族会議を開いていた。
とは言っても3人なのだが……。
「なあ、これからどうする。」
「どうすると言うと……。そろそろこの国を出るのでしょうか?」
「えっ、お兄様。もう行くのですか?」
「直ぐって訳じゃ無い。予定も立てずに行き当たりばったりじゃ、ここと同じことが起こる。もう面倒はいやだろ。」
「「はい……。」」
ネロに関しては弟子を一人取ったぐらいだが、面倒と言うよりもライズとアウラに会う事が出来なかった事を憂いていた。
「お兄様……、少しゆっくりしたいです。」
「そうだな……、俺も同感だ……。」
「ならいっそ、冒険者でもして自由気ままに行きますか。」
「それは却下だな。自由気ままな冒険者と言っても、上役には逆らえない。組織として動く以上はそれは絶対だからな。かえって足枷が出来るだけだぞ。」
「ではやはり、旅の伝道者のスタンスは崩さないのですね。」
「そうだな、伝える物が何かまで突っ込む者もいないだろうし、ただそうなると身分証がな……。」
(半端に機能してるんだよな……。)
一昔前の地球ですら、身分証など無かった。
防犯の予防として、ある程度機能はしているのだが穴も多く……、実際、戸籍管理をしているわけでもない……。
あくまでも、個人の身分を証明しているだけの物……。
(勇者の知識だな……。情報ネットワークも無い世界で、うろ覚えの異世界知識を当て嵌めようとすれば無理が出るのは当たり前か……。はあ~……。)
前世では、そのような物と思っていたのだが、知識を取り戻したライズにとって、突っ込み所満載である。
「ペリティアちゃんに作ってもらいましょう。お兄様はフロスト王国顧問で良いでしょうし、私達はその従者で問題ないと思いますが。」
「それはそれで、国のお偉いさん方に会う切っ掛けになってしまうんだよな……。」
ある程度、コミュニティーに関わると色々としがらみが出てくる、= 面倒臭い!となる訳で……。
もう既にフロスト王国幹部の一員として位置付けられてはいるが、あくまでも相談役、居なければ居ないで良いと言う認識で居る。
「となると……、偽装市民証が一番か……。」
「ライズ様でしたら偽装は簡単だと思いますが……、目的を明確にしないと後で辻褄を合わすのが面倒になりますよ。」
「そうだな……。そういやしばらく職業変更もしてないなあ~。」
「でしたら、賢者でなく錬金術師を第一職にしておいては?賢者ほどレア職でもないですから、目立たないと思いますが……。」
「それでもレア職だろ……。」
「では逆に、超レア職、導師はどうですか?今回の騒動で出ている筈ですよ。」
「何、その導師って?」
「そのままです。神の教えを説き、悟りに導く者ですね。仙人の引きこもり脱却バージョンでしょうか……。シンラシステム職業一覧に載ってました。本来異世界人などに発現するのですが、勇者と言う特殊職が自力では外せません、それに勇者召喚している神は偽物ですからね。現状ライズ様のみです。」
「んっ?まて!今回の騒動ってペリティア達とあってからの事だろ?出たとしてもペテン師とか、扇動者じゃないのか?」
「結果が良い方に転がりましたので……。ペリティア様達の覚醒も大きな要因ですね。」
ライズはペリティア達を覚醒させ、フロスト王国建国へ導いたと、幼女神が判断……、結果導師の発現に至った。
(宗教って、詐欺やペテンと紙一重。良い事を囁き、自分の良いように誘導し金銭を得る……。結果騙されたと思えば、詐欺、結果が良ければ神様のお陰……。同じだな。)
「あっ!」
アウラが何かに気づく。
「ライズ様……、今回多くの人死にが出ましたと言うか、処分しましたよね……。」
確かにライズ、ネロ、アウラの3人で多くの者を処分と言う名の虐殺を行った。
(そういやそうだが……、まさか虐殺者とか出るとかいうのか?)
「何が言いたい。」
「それでですね。シンラ様がそれに対し特に問題が無いと言うのですが……、代わりに選定者と言う職業が発現させるとの事です。」
「選定者?」
「ええ、選定者です。要は優秀な種を選び補完、邪魔な者を排除する職です。」
「俺がそれを?選定は言葉通りだろうが……、選定基準が分からないぞ!」
「それに関しては、任せると……。基本好きにして構わないそうです。例えば、シンラ神教信者以外皆殺し等でもいいとも言ってますね。」
「何その、真っ黒な例え話は!」
「例えばですよ例えば……。ですから、そこまでやっても咎めないと言う事ですね。」
「う~ん、問題発言だが、要は諸国放浪漫遊記をしろと……。面白そうだな……。」
「それでは、私がスケさん役で、ネロさんがカクさん……、ハチはいますから、ライズ様はご隠居ですね。後は……、ヤシチ、トビザル、オギン役が不足してますどうしましすか?」
「いや、そこまで再現しなくてもいいから……。とにかく、第一職を選定者に変えとけばいいんだな。」
「はい、そうして下さい。」
取りあえず幼女神からのお咎め無い事になったのだが……、何にしろ面倒事が起こるであろう、諸国放浪漫遊記の決行が確定した。
面倒事に首を突っ込まなきゃ、諸国放浪漫遊記じゃないよね……。
『懲らしめてやりなさい!』で大量虐殺が行われる事については、考えない事にしよう……。
とライズは心の内に秘めるのであった。
ガラガラッ!
「すいませ~ん!」
玄関から声が聞こえる、来客の様だ。
「は~い!」
パタパタと足音を立てアウラが対応に向かう。
「あら、ナターリアさん、いらっしゃいませ。今日はどういった用向きでいらっしゃいますか?」
「ライズ殿は御在宅か?」
「はい、おります。どうぞお入りください。」
家屋内は社、道場を含め土足禁止、ナターリアは慣れていない為と言うか、女性として素足を晒すのが恥ずかしいのか来るたびに部屋に上がるのを戸惑っている。
「これはやはり、慣れないな。」
「靴を脱いだ方が、開放感があり寛げますよ。」
「それは分かるのだが……。いくら年下とは言え、ライズ殿のような異性の前に素足を晒すのは、ちょっとな……。」
「まあ、習慣が違うのですから、それは仕様が無いとあきらめて下さい。」
そんな感じに雑談しながら、アウラはナターリアを案内してきた。
「ようこそ、ナターリア。」
「失礼する。ライズ殿……。今日は折り入って頼みがある。」
「まあ、座ったらどうだ。アウラ、お茶を頼む。」
目前の座布団へ座るように促す。
ナターリアはひざ丈のスカート姿なのだが、ライズが胡坐をかいているのを見て同じように座ろうとする。
「ちょっと待て、ナターリア!」
「えっ!」
ライズの言葉で、ナターリアは動きを止めるが……、図らずとも大股に開いた状態で止まってしまっている。
(ドローワーズではないのか……。)
現に目の前には太腿をライズにさらすナターリアの姿があった。
「あっ!すまん。スカートの場合はこう座ってくれ……。」
ライズは胡坐から正座に体位を変え、ナターリアに見本を見せる。
ナターリアは自分の姿に気付き、急いでスカートの裾をただし座りなおした。
「見苦しい物をお見せした……。」
頬を赤く染め、ナターリアは謝罪する。
「いや……、そんな事は無い。ナターリアは美人だから眼福でしかない。これも頼み事を断り辛くする為にしたのなら、大した策略家に成れるな。」
ライズの言葉にナターリアは頭から湯気が出そうな程顔を真っ赤にする。
「い、い、いえ……。策略など……。」
グホッ!
無言でネロの拳がライズの脇腹に突き刺さる。
(俺じゃなきゃ、腹に風通しのいい穴が開くだろ!)
ネロが横にいるのを忘れていたライズの失態である。
「くっ……。して頼み事とは?」
脇腹をさすりながらライズは問う。
ナターリアは先程の表情を一変させ、真顔になる。
「ライズ殿……。八ちゃん殿を私に譲ってくれ……!」
確かに八ちゃんはライズの従魔と言う事になっているのだが……、正式に手続きした覚えがない。
(正式な手続きって何だ?)
ライズはそんな事を考えてはいるが……。
「八ちゃんは仲間……、と言った方がしっくりくる。従魔って訳じゃ無い、八ちゃんの意思は尊重するが……。う~ん、理由を聞いてもいいか?」
「理由は色々あるのだが……。ライズ殿……、ペリティア様の政策についてどう思われる?」
「ペリティアの?よくやってると思うぞ。」
「あれは武力を盾にした圧政だ……。そしてその武力と言うのが……。」
ナターリアはライズを見つめる。
「俺達だな。」
「そう、ライズ殿達が居るからこそ、あの様に大胆な政策を打ち出している。政策自体は市井にやさしい物だが、今まで権力を振っていた者にとっては……、暴君でしかない。」
「貴族排除したよな……。」
「ええ、この国に貴族はいなくなりました……。ですが、その貴族から恩恵を受けていた者達が残っております。それに……、ライズ殿達はこの国から出て行かれるのでしょう?」
ナターリアがその答えに辿り着いた事には驚いたが、ライズは冷静に答える。
「ああ、そうだな。だが何故分かった?」
「旅の伝道者と言う事を頑なに崩さないですから、いずれはと……。」
「まあ、直ぐに出ていくわけだは無いがな。」
「このことは、ペリティア様には内緒にしててください。寂しがると思いますので……。」
「了解だ。」
「ですので、ライズ殿に代わる武力を……。」
「親衛隊がいるだろう?」
「まだまだ役不足です。特に私がです……。」
「そんな悲観する程でも無いだろうに……。」
「いえ、他の皆が新たな力を得て成長しているのに対し、私の力はテイマー……、従魔あっての者です。ソロとしては平凡な騎士でしかありませんので……。」
「なるほどな……。ナターリアはテイマーが他力本願の力だと勘違いしているのか……。」
「実際そうです……。この前ネロさんと一緒に活動して分かりました。」
ライズは無言でネロを見つめる。
意思が通じたのかネロが話し始める。
「確かにあの時のナターリアさんは特別と言うか……、神懸った感じがしました。」
ネロが言うのだからそれほどの力を発揮したのであろう。
「結果として特に問題なかったので言って無かったのですが、貴族の領地軍と相対しました。」
「軍とやり合ったのか?」
「はい……。」
「結果は出ているが、聞かせてもらっていいか?」
結果勝利……、それは分かっているが、過程でナターリアと八ちゃんがどういう働きをしたのか、ライズは気になった。
「あれは、4つ目の貴族領に行った時の事です。最速で周って居た為、情報が追い付かないと思っていたのですが、町の前に領主が千の軍を率い待ち構えていました。その時は私が本気《獣化》を出せば、特に問題ではないと思っていましたが。八ちゃんとナターリアさんがやる気を見せたので、任せる事にしました……。八ちゃんは突進能力がずば抜けているのですが、躱して側面からの攻撃で簡単に攻略できます。千以上の目に晒されれば、気付く者もいるでしょう。流石に気付いても攻略できる者は居そうにありませんでしたが……。ですが……ナターリアさんが騎乗する事でそれを補い、苦手としていた旋回行動もスムーズに行っており、私でも本気にならなければ、中々倒せるもので無い動きだったと思います。あれは人馬一体ならぬ人獣一体と言っても、過言ではなかったです。あれはライディング技術なのでしょうか……、その勢いそのままに獅子奮迅の働きで敵を殲滅してしまわれました。」
「そうか……、それ程か……。」
ナターリアにとって、かなり刺激的な経験だったのだろう、八ちゃんを相棒にした時と一人で居る時のギャップが、彼女の葛藤を生み出している。
「ライズ殿!ぜひ私に……。」
正座しているナターリアが深々と頭を下げる。
(う~ん……、知らずにしているとは言え……、土下座されるとは……。)
そうナターリアのしているのは、『土下座』である。
史上最強の礼……。
ライズの心内に申し訳なさが吹き上げる。
「わ、分かったから頭を上げてくれ!」
「で、では……。」
「ただし条件がある。」
「条件とは?私は何でもするぞ。この身もライズ殿に捧げる!ペリティア様も一緒にそれでどうだろう?」
ナターリアは矢継ぎ早に、自身に都合のいい条件を提示してくる。
(この期に及びそんな条件を提示するとは……。相当焦っているのか……?)
「まあ、待て……。条件の提示はこちらがする。そして条件は一つだけだ。」
「ライズ殿が優しかったから、便乗して自信を売り込んでしまった。申し訳ない。」
またしても頭を下げようとするナターリアだが、それをライズは止める。
(そう何回も土下座されては困るし……。)
「条件と言っても簡単なことだ……。八ちゃんを大切にする。その一点だからな。八ちゃんとは話はついてるのだろ?」
ナターリアは目を見開き驚愕の表情を見せる。
「それだけでいいのか?」
「ああ、さっきも言ったが八ちゃんは仲間だ。特に拘束してる訳でもない、八ちゃんの意思を尊重すると……。」
「ああ、ありがとう。八ちゃん殿ともペリティア様とも話がついてる。八ちゃん殿とは主人であるライズ殿の了承があれば問題ないと言ってくれた。ペリティア様とは八ちゃん殿を国の国獣とし、フロスト王国の紋章に八ちゃん殿を象った物にと……。そして外壁から王城まで八ちゃん専用の通用門、それに続く騎士団練兵場の一部を改装、そこを八ちゃん専用の宿舎とする事で話がついている。」
「はい?何、その超VIP待遇……。女王より待遇良いんじゃないのか?」
「はい、そうですね。ペリティア様は質素倹約でおりますが、ここぞと言う時は大胆に動かれ、八ちゃん殿を国の象徴とするつもりです。」
「八ちゃんがそれでいいなら問題無いが…………。」
ライズは顎に手を当て一通り考えたことを口にする。
「ペリティアは抑止力を手に入れるつもりか……?それなら、俺達より効率がいいな、八ちゃんのVIP待遇も納得が行く、なるほど。」
「抑止力ですか?」
ナターリアは不思議そうに質問してくる。
「何だ、ナターリア。気付いていないのか?」
「何をです?」
「ペリティアは既に対外戦略に出ているぞ。考えてもみろ、クーデターから始まった幼い女王が治める新興国だ。周りから見れば国も安定していない弱小国……。脅せば直ぐに言いなりになる、強いては乗っ取る事だって簡単……。そんな風に思われているに違いない。」
「そ、そんな事は……。」
「完全に否定できるのか?そこで八ちゃんなんだよ。国の体制が整って無いとは言え、軍隊はある。それで足止めして、八ちゃんを駆るナターリアが縦横無尽に戦場を駆け巡ってみろ……。壊滅しないまでも、相当の痛手となるだろうよ。」
「確かに……、私達だけでそれ相応の戦力になります。」
「だから、周辺の国から戦争を仕掛けられないように、ぺリティアは八ちゃんを国の象徴として前面に押し出し、抑止力として機能させようとしている。」
「そんな事を……。」
「まあ、全てはナターリア次第と言う事になるがな。ナターリア!八ちゃんを頼むぞ。」
「はい!」
ナターリアの返事とともに、八ちゃんはフロスト王国親衛隊長、ナターリア預かりとなった。