20.それぞれの日々……。
クレセント王国滅亡から数日後。
ペリティアがフロスト王国建国を宣言、王都中にそのことが広まった。
そしてペリティアは、クレセント王国反政府組織であったレジスタンス本部へ、足を運んでいた。
12歳の可憐な少女が、厳つい大柄の男の前にテーブルを挟み座っている。
互いの後ろには、親衛隊、レジスタンス幹部と言った面々が立っている。
「ごきげんよう。」
「第一王女様がこんなむさ苦しい所へどういった用が御有りで?」
「第一王女ではありません。女王です。」
「そうでございますね。『鮮血の女王様』。」
ペリティアの失策とまではいかないが、箝口令を敷かなかった為、門前、城内での惨劇、王都内での異臭騒動、全てがペリティアの手によって行われた物として広まっていた。
殆どの者はペリティアに畏怖し、付いたあだ名が『鮮血の女王』。
だがそれは副次的に、12歳の少女でしか無いペリティアにとって、この上ない援護となっている。
「分かっているのですね。それでは時間も有りませんので、用件だけ言います。あなた達の中から幾人か王城に登城しなさい。政策に関わって貰います。」
「はい?」
レジスタンスリーダーは混乱する。
嫌味を軽く流し、物怖じせずに平民である自分に、政策に関わる仕事をしろと言うのだ……。
クレセント王国では決してあり得ない事、国名が変わったとて、そんな事などあり得ないと思うのが普通である。
レジスタンスリーダーは自分の組織が非合法団体である事を自覚している、となると裏の仕事……。
各国には王族御用達で、裏家業を生業としている者がいる。
諜報員、暗殺者、処刑人等だが、建国早々ここに来るのだから、領地貴族の対応……、諜報員、暗殺者がお望みなのだろう。
結論としてそこへ行きつく。
「裏ですか……。」
レジスタンスリーダーは声を低くし口にする。
ペリティアには意味が分からなかったらしく首を傾げ、考え込む。
「ああ~!」
パンッ!
柏手とともに思い当たる。
「あなたは勘違いしてますわ、既に反旗を起こす貴族は処理済みです。」
「はい?」
レジスタンスリーダーは、またしても混乱する。
「なら、政策に関すると言うのは?」
「深く考えないでください。あなた方は市井の民を思い反旗を翻そうと暗躍していたのでしょう?でしたら、その為に政策を担っては如何ですか?要は執政官として来てくださいと言う事です。」
「へっ?でもうち等には、学が無いですぜ。とても政策など……。」
「人は生きている限り、学ぶ事の繰り返しです。これから学べば済む事ではありませんか。」
「しかし……、読み書きすら真面に……。」
「そんな事は関係ありません。これからの事を考えて下さい。」
「えっ、いや、でも……。」
ぺリティアの膝の上に置かれてある手が、プルプルと小刻みに震えだす。
レジスタンスリーダーの言い訳に、いい加減切れそうになっていたのだ。
幾度と繰り返されるその問答。
そして……、ついに我慢の限界が来る。
「ええい!面倒ですわ!学ぶ場所はこちらで用意いたします。つべこべ言わずに『はい!』と言いなさい!」
「はい!」
『鮮血の女王』と呼ばれる少女。
その少女の怒声に怯え直立不動の姿勢となる強面の男……。
かなりシュールな図柄となっているのだが……。
「分かれば宜しい。明日から登城して下さい。」
「了解であります!」
「では用も済みました、詳しくはお城で説明します。」
そう言ってペリティアが立ち上がり、帰ろうとする。
「「「「「お疲れ様であります!」」」」」」
ペリティアの後ろから、レジスタンスリーダー達が声をそろえ挨拶する。
ペリティアは振り向き補足事項を伝える。
「そうそう、服装はそのままでも良いけど、身の回りは清潔にしておいて下さい。」
「了解であります!」
そしてペリティアはその場から立ち去った。
王城に来る市井の民と言う事を考え、ペリティアなりに気を使った言葉ではあるが……。
「おいおい!どうする身の回りを綺麗にしろってよ……。」
「資金の流ればれてたのか……。」
「『鮮血の女王』だ、あり得るだろ……。」
「それにしても、おっかね~御仁だな……。」
「前に才女だの賢女だの言われてたが、俺達の事も全部把握しているに違いね~……。直ちに行動開始しないと明日まで間に合わねえな、手分けしてやんぞ!」
「おい!奴隷商との契約どうするよ!奴隷狩りの件!」
「馬鹿!そんなの決まってるだろ!」
「そんなのばれたら首がいくつあっても足らねえ~よ!奴隷商と女王様どっちにつくんだよ?」
「「「「女王様に決まってる!」」」」
ペリティアの一言は奇しくもレジスタンスの意思統一とともに裏組織脱却、後の王都内の裏組織あぶり出しに一役買う事となる。
一方、ペリティア達はと言うと……。
「最初からこうしていれば、よかったですわね。」
「そうですね。頭を使わせるのはこれからですし、今の内は権力で従わせた方が手っ取り早いです。」
そうペリティアに答えるのは、覚醒済みの親衛隊員ファリス……。
彼女は魅了の魔眼を覚醒している。
鍛えれば傾国の美女ともなり得る器なのだが、心底ペリティアを敬愛しており、本人にその気がない。
だが一声掛ければ、その力を惜しむ事無く使うであろう事は、ペリティアも把握している。
レジスタンスを従わせるのであれば、彼女一人で済む話なのだが、それをすれば国政に影響を及ぼすことは明らかであり、全てに置いて人手が足りなくなる。
その為ペリティア自ら交渉に乗り出す事になった。
他にも建国のきっかけとなった、城内での戦闘で親衛隊の面々は全員覚醒している。
魅了のファリス。
先見のエレナ。
鑑定のキクリ。
真偽のメリル。
拘束のブレア。
癒しのサブリナ。
何故か二つ名を付け合っっている親衛隊、比較的安全と言う事でこの6人が護衛として、ぺリティアに付いて来ている。
と言うのも……。
他の親衛隊の二つ名。
絶影のグレイス。
雷炎のサクヤ。
氷結のプリシラ。
土流のカノン。
透過のレミー。
そして、ビーストテイマー・ナターリアである。
見た通り、ナターリアとレミーを除く4人は魔術的性が高かったこともあり、上位属性の魔眼を覚醒、それを使いこなせていない為、暴発の恐れもありかなり物騒な者となっている。
そして透過のレミーは文字通りの透視能力。
謁見の間で覚醒した彼女は、顔を真っ赤にしながらライズを凝視……。
アウラに見つかり大目玉を食らった。
その後、変態レミーの二つ名を貰うも、泣きながら懇願……、現在の二つ名に落ち着くと言う惨状を繰り広げた。
だがその能力の使い方によっては無敵能力の一端に化ける。
現在は王城にて医療の真似事、解剖学は邪教の類に当たるらしいが……、教国の教えなど知ったこっちゃないとペリティアが一蹴し……、患部発見の修行中。
今回ペリティアについてきたサブリナとともに、シンラ神教巫女候補の一人となっている。
絶影のグレイスはネロに弟子入りし、ナターリアが駆る八ちゃんで領地貴族暗殺へ。
彼女達は領地貴族暗殺を、三日で終わらすという離れ業をやってのけ、現在のんびり帰路についている。
他の3人は、魔眼を使いこなすべくアウラと共に修行中。
「ペリティア様……、レジスタンス使えますかね?」
「使いようは幾らでもありますよ。要は使い方です。」
「そう言う物ですか?」
「そう言う物です。」
冷静な物言いとなるペリティアは、フロスト王国の未来を見据え、様々な想定を考えていた。
ライズ、アウラに教えを乞いながらも、自分の頭で考え行動している。
そしてレジスタンスを手足のように使い情報収集、処理を任せる従順な駒へと考える。
元クレセント王国文官でもいいのだが変にプライドの高い者より、手間はかかるがレジスタンスのような無知な者を使った方が、後々の国政の管理が容易になる。
フロスト王国自体、道具としか考えておらず、すべてはシンラ神国の為に、強いてはライズ様の為にと……。
そればかり考えていた。
そのライズはと言うと……。
厳つい男達が汗水垂らし、働いている。
カ~ン!カ~ン!
昼を告げる合図が響く。
「おう!あんちゃん一服すっぞ!」
「親方!この作業済んでからでいいですか?」
「あんま無理すんなよ!あんちゃんのお陰で工期が、大幅に短縮されてんだから!」
「分かりました気を付けます。」
地元業者の人たちと共に、教会建物の解体作業をいそしんでいた。
「これで終わりっと……。」
そう呟き作業を終えると、ライズは親方衆の元へ向かった……。
自分達の拠点整備なのだから、関わるの当たり前だとライズは思っていたのだが、地元業者の面々は職人気質……。
そんな人達がライズなど若輩者を受け入れるはずもなく、最初は怪訝そうな顔をしたいた。
だがライズが魔術を使うと評価が一変、今では共に食事をする仲となっていた。
ライズは装飾品等の選別、解体をする傍ら、社の設計もしており業者との打ち合わせ、植林の準備……。
本来なら年間通しての計画となるところを……、もうすぐ解体終了となるところまで進んでいる。
これも偏に、ライズが魔術を否応なく行使した結果である。
こうして各々がするべき事をし、忙しく日々が過ぎて行った。