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19.これからの事……。


 ライズにより誓約魔術が行われ、謁見の間は静けさを取り戻した。


 「それでは、皆フロスト王国のため頑張っていただきます。」


 そしてペリティアによりフロスト王国の構想が語られる。

 

 一、他種族に対し、同等の敬意と礼儀を持つこと。


 一、元クレセント王国の身分、無効。


 一、よって奴隷の開放。(凶悪犯罪者は除く)


 一、国教としてレイシスト教の廃止。


 一、騎士団、国軍の一時解体。新たに職業軍人の募集。


 一、教育機関(シンラ様の教え推奨)の設立、全国民の基礎教育指導。


 「簡単に言うと、こんな感じで作りたいと思います。」


 ペリティアの構想に対し、元クレセント王国の者から不満が上がる。


 「そんな……、後出しとは……。」


 「暴動が起きるぞ!」


 「市井の者に教育など、時間の無駄だろ!」  


 「亜人と同等とはどういうことだ!」


 フロスト王国の一員となった事で、身の安全が保障されたと勘違いしたのだろう。


 「お静かに!それをこれから協議するのです。端から否定してどうするのです!それに他種族の否定は許しません!」


 「ですが!」


 「ですがも何もありません!ライズ様、ネロ様をお借りしても宜しいでしょうか?」


 ペリティアとしては、ネロの姿を皆に見せ見識を改めてもらおうという思惑なのだろうが……。


 「晒し者にするのは、好ましくは思わん。だが……、ネロ!どうだ?」


 「私は構いません。」


 「と言う事だ。」


 ペリティアは一礼し、ネロに向け話す。


 「有難うございます。申し訳ありませんが、こちらへ来て頂けますか?」

 

 ネロがペリティアの所へ向かう。


 「御足労、有難うございます。フードを取りこの者達に、その姿の顕現お願いします。」


 ペリティアはネロに対し、深々とお辞儀をする。


 その姿に、元クレセント王国の者は不快な表情を見せる。


 自分達の国のトップが頭を下げる、力関係がはっきりと表現されたのだから、当然なのだろう。


 そしてネロはフードを取り流れるようにカーテシー……、その姿に元クレセント王国の者の表情が変わる。


 「ライズ様の妹、ネロと申します。どうぞお見知り置き下さい。」


 頭の上には人族ではあり得ない猫耳、それでいて婉麗な礼……。


 一瞬不快感を見せる者、呆然となる者、見蕩れる者……、様々な反応が返ってくる。


 だが、全体の印象としては『困惑』と言った所だろう。


 一頻り、反応を伺い終えるたペリティアが口を開く。


 「では、先ほど批判した者に伺います。ネロ様は市井の亜人です。私などより、知性、礼節に優れ、武勇に至っては数瞬で国軍を壊滅できるお方です。そのお方が私達、人族より劣っていると、どうして言えましょう?誰かお答えを。」


 「「「「「「………………。」」」」」」


 誰も答えが出ず、静寂があたりを包む。  


 「質問の仕方が悪かったのでしょうか?確かに、ネロ様は特別なお方に違いありません。ですが、亜人族の方々の中にも、私達より優れた方が多々存在する事を覚えて下さい。」


 「「「「「「………………。」」」」」」

  

 皆が項垂れ、口を閉ざす。 


 「まあ、いいでしょう。皆も色々と考える所もあるでしょうし、今日はこれ位にしておきます。明日から忙しく働いてもらいますので、今日はゆっくりと休養してください。それでは解散!」


 ペリティアにより解散が宣言されるが、誰もが動こうとしない。


 「どうしましたか?解散です。」


 二度目の呼びかけに、皆やっと重い腰を上げる。


 グダグダとしたその態度……、状況の変化に戸惑いを覚えるのもいいが、流石にこれからフロスト王国を支える事になる者でその動きはいただけない。


 ライズはそう危惧していたが、案の定ペリティアの怒声が飛ぶ。


 「いい加減に動きなさい!そんな事では、直ぐに更迭する事になります!あなた方、本人は良くても家族はどうするのですか?」


 ペリティアの言葉は、そのまま皆がリストラ対象だと言う事を意味している。


 身分を奪われた上、仕事も無くなる事を宣言された。


 半脅迫に近いその言葉で、皆の動きが変化し、直ぐに謁見の間から出て行った。


 「ペリティア、お疲れ様!」


 「いいえまだです。」


 そう言うのには訳がある。


 まだ、クレセント王国第一王妃及び側室とその子供達、生き残りの騎士達が残っていた。


 「では、お母様……。こちらに。」


 「ペリティア、あなた……。」


 家出して早々、戻ってきたと思ったら、王城内の粛清である。


 第一王妃は状況の変化に対応しきれず、混乱していた。


 「お母様は、フロスト王国、皇太后となりました。ですが、クレセント国王はいませんし、蔑む者もいませんので、側室とともに後宮で隠居生活を楽しんで下さい。」


 「あなたはどうするのです。」


 「先ほども言いました。私はペリティア・フロスト!女王として新たな国を建てたのです。する事など星の数ほどあります。」


 「そう……ですね。分かりました。ですが、あなたは私がお腹を痛めて産んだ子です。何があっても私が味方である事は忘れないでください。」


 「ありがとう。お母様。」


 (これはこれでいい話なのだろうが……。)


 二人がいる謁見の間には、近衛騎士の死体が山積みとなっている。


 場所が違えば親子の感動の対面と言う感じなのだろう。


 ライズがそんな感じに二人を見つめていると、ペリティアが爆弾を落とす。


 「お母様に未来の旦那様を紹介します。」 


 そうして、ペリティアがライズの方を向く。


 それを察し、元第一王妃が目線を辿る。


 そしてライズを視界に収めるのだが……。


 「あなたがですか……。」


 第一王妃は胡散臭そうな目で、ライズを見る。


 言質すら取られた覚えのない、ペリティアの言葉をバッサリと切り捨てる。


 「違います。」


 「ライズ様~……。」


 涙目のペリティアは上目遣いでライズを見つめるが……、ナターリアが割って入る。 


 「ペリティア様、強引すぎます!先程の作戦会議でライズ殿攻略は、外堀を埋めた方が早いと言ったばかりですよ!」


 (何その攻略って……。)


 「あら~、ペリティアが一方的に好きなだけなのね。」 


 第一王妃の目が、胡散臭い物を見る目から、ほほえましく子を見る母親の目に一瞬にして変化した。


 そして左手を口元に当て、右手を目まぐるしく動す。


 「ごめんなさいね~。私ったら、一人娘の事だから警戒しちゃって。」 


 まさに、近所のおばちゃんと言っていい感じの仕草だった。 


 ペリティアの年齢を考えると、まだ20代……。 

 

 この世界がいかに早婚と言え、20代でその仕草とか、いささかギャップを感じる。


 (んっ?これがギャップ萌って奴か?)

  

 意味不明な事を考えながら、ライズは元第一王妃に目が釘付けとなっていた。


 「あら、やだ。そんなに見詰められると照れちゃうわね。」


 「ああ、すいません。」


 「おっ、お母様!」


 「ごめんなさいね、そう言えば、自己紹介まだだったわ。私はオリビア・クレセント、元って事になるけどクレセント王国第一王妃、ペリティアの母親よ。」


 オリビアがそう言うと、スカートを掴みカテーシーする。


 ネロほどでないにしろ、その姿は洗練されたものだった。


 返すようにライズが挨拶する。


 「我はライズ・フロスト、そっちに居るのがネロ・フロスト……、でっ、こっちがアウラ・フロストだ。よろしく頼む。」


 オリビアは首を下げ、考え込む。


 「フロスト……、もしかして、賢者様の……。」


 「オリビア殿が察した通り、ファスト・フロストの系譜だ。」


 オリビアは口調を変え、ライズに問いかける。


 「では……、今回の惨劇、そしてペリティアの建国宣言は……。」


 「そうだな。結果として我とペリティアの邂逅が原因だろう。だが、切っ掛け及び、戦闘の火蓋を切ったのは勇者と騎士だぞ。」 


 「そうですか……。それは失礼しました。」


 オリビアは申し訳なさそうに頭を下げる。


 「だが、オリビア殿は王宮で肩身の狭い思いをしてたと聞く。ペリティアが女王となる事で、体面も回復できよう。」


 「そうではございますが……。ペリティアが女王など……。」


 「何、心配する事は無い。ペリティアは聡明だ、親衛隊も付いている。もっと自分の子を信じてはどうだ?」


 「はい、善処致します。」


 オリビアがライズの前で、跪き頭を下げる。


 (あれ?今現在、皇太后様だよね……。)


 ライズが疑問に思うも、言動が変わったのは名前を名乗ってから……。


 それ以外に思う節も無く、原因らしい原因が思い当たらない。


 (もしかして、前世の俺って敬われる人間なのか?)


 全くもって自覚のないライズであるが、前世であるファスト・フロストは世界でも希有な偉業を成し遂げた人物である。


 「ライズ様……、ペリティアの事、よろしくお願いします。(婚約と言う意味で。)」


 ライズの胡散臭さが取れた故、ペリティアの婚約をお願いする。


 随分言葉が足りないものだが、オリビアはそれでいいと思っていた。


 言質を取り、後から適当な言い訳で固めてしまえば、断られる事は無いだろう。


 それは王宮と言う、伏魔殿で鍛え上げられたクレセント王国元第一王妃オリビアの強かな知恵である。 


 「んっ?」


 若干の違和感を感じるも、その思惑はライズには見破る事が出来ない。


 それは、前世にしろ今世にしろ、全て強引に自力で何とかしてきたライズにとっての副作用である。


 「ああ、面倒は見よう。」


 「有難うございます。(よし、言質を得ました。)」


 オリビアが頭を下げ、ほくそ笑む。


 そして頭を上げようとするオリビアだが、横から声がかかる。


 「では、ペリティア様が治めるフロスト王国について、どこまで面倒(・・)を見るかについて協議しましょう。」 


 アウラである。


 精霊種であるアウラ……基、女性であるアウラはオリビアの思惑に感づいていた。


 故に問題のすげ替えを行ったのである。


 そして他の者を寄せ付けず、ライズとアウラは話し始める。


 オリビアの腹芸が無駄になった瞬間だった。


 「そうだな……。これより起こり得る問題として、元クレセント王国貴族の反乱、市場の混乱、教国の横やり、戦争の勃発……。そしてそれに付随する細々な事か……。」


 「ですので、明確にしないと、この国から出られず生涯を終える事になります。」 


 「それは困るな……。我にも成さねばならぬことがある。」


 「それでしたら、貴族の反乱と教国の横やりを担当するのは如何でしょう?」


 「そうするか……。貴族の反乱については当主排除、教国の横やりは我等の目的にも関する……。市場については国の管理になるだろうし、戦争は国軍の再編でどうにかなるだろう。それでどうだ、ペリティア?」


 「分かりました、それでお願いします。親衛隊の面々も成長しておりますし、こちらでも対応できると思います。」


 オリビアの思惑とは違う物ではあったが、ライズ達の介入にペリティアは満足していた。


 「それで今回の報酬ですが、何かご所望ありますか?」


 ライズは気の向くまま行動を起こしただけで有り、別段何も考えていない。

 

 「特に無いな……。アウラ、ネロはどうだ?」


 「私はありません……、友人のために動いただけですので……。」


 「ネロ様……。」


 「でしたら、社をいただくと言うのはどうでしょう?」


 「そうか……。では、ペリティアこじんまりとした物でいい、建物を一つ頼む。」


 ペリティアは考え込む。


 「建物は分かりますが……、社とは一体どういった物でしょう?」


 「んっ?分かりずらかったか……、御神体を置く場所だな。要は教会の縮小版と言った所か。」


 「それでしたら、教会を取り壊す手間が省けますし、そのまま使っていただいて結構ですが……。」


 今度はライズが考え込む。


 「教会と言うと、ここに来る時、見かけた装飾過剰な建物だろ?あれだと我が神に似つかわしくない。もう少し情緒を持った奥ゆかしさが必要なのだ!」


 「確かに派手ではありますが、それなりに神聖性が求められた作りになっている筈ですが……。」


 「シンラ様をあれと同一視ししないで貰いたい……。」


 「失礼しました……。」


 「シンラ様にかかれば庭の植木が世界樹にもなり得るのだ、装飾など不要なのだよ。」


 「えっ!フロスト王国にも世界樹が……!」


 (えっ!世界樹あるの?)


 ライズの一言に興奮を抑えきれないペリティア……、一方ライズは前世でも聞いた事の無かった、世界樹の存在を認識した結果となった。 


 「ゴホン!それはシンラ様次第……、この国がそれまで繁栄しておれば、それもあり得よう。」


 「分かりました。教会は取り壊します。過剰な装飾品売却後、それを元手に社の建設でいかがでしょう?」


 (んっ?あそこの敷地結構広いよな……。)


 そんなことを思っているライズに、アウラが耳打ちする。


 「場所は確保して置きましょう。建物は神社風、木々で囲い静寂とした雰囲気にして、風の通り道を作るのはどうですか?」 


 「そうか純日本風な感じにしよう。周りからは建物が見えない、それでいて中からは周りがよく見える。」


 「参拝客の確保も必要です。神官、巫女も増やしてはどうでしょう?」 


 「なるほど……。俺達が居なくても回るように教育しないとな……。商品は祈祷、お札、お守り、おみくじ、若水と言った感じか……。」


 「序に言うと、若者の教育機関としても機能させたい所ですね。」


 「なるほど……。寺子屋と言った所だな……。だがそれはこの国の状況次第だ……。ペリティアなら二つ返事で了承してくれるだろうが……。」 


 「でしたら……。」


 「そう言えばこう言うのも……。」


 「………………。」


 「………………。」


 ライズとアウラのボソボソとした密談が続く。


 「……ラ…………ライ……。ライズ様!」


 「おっ!どうした、ペリティア?」


 話に夢中になり、周りの事をすっかり忘れていた。


 「どうしたも、こうしたも、さっきから呼んでいたんですよ。」


 頬を膨らませるペリティア。


 「それは済まない事をした。」


 「もう良いです。で、どうするんですか?」


 「もちろん頂こう。それで解体後更地にして貰い、後はこっちで作ると言う事になった。」


 「ライズ様達だけでですか?」


 「ああ、そうだ。我等の魔術をペリティアは知っておろう。ただ、シンラ神教の神官や巫女が不足する事になりそうだ。誰か候補者が居ないか?」


 そうして知ってか知らずか、着々とライズ達の拠点設置計画が進まれるのであった。



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