12.扇動者な大精霊。
「私たちが魔眼を使えるようになったのは分かりましたが……、そもそもシンラ神国はどこにあるのですか?」
「では、逆に質問させてもらいます。あなたはこの世界に名がついてる事はご存知ですか?」
「えっ?ここはクレセント王国では無いのですか?」
「それはあなた方が付けた国の名です。私たちの認知する所ではありません。」
「アウラ様それは一体どういうことですか?」
親衛隊員に変わり、ペリティアが質問する。
「ここはアウルーラ、唯一神シンラ様の治める世界……。シンラ神国国民とはアウルーラでシンラ様に認められ、シンラ様を認識する事の出来る唯一の住人達です。言わばアウルーラの世界その物がシンラ神国となる訳です。故に種族の垣根など存在せず、下々の営みに極力関与せず、世界の行く末をより良い方向へ導く存在。それがシンラ神国の存在意義とも言えるでしょう。」
「なんと……。そんな存在が……。」
ナターリアが感慨した様つぶやく。
アウラの話はまだ続く。
「あなた方は、既に規格外の力を手に入れました。」
アウラの話に聞き入っている彼女達が頷く。
「その力はすべてを見透かします。ペリティア様はこのまま王女として政策に関わるかもしれません。その力を持って国の政策に関わる事がどういう事か、聡明なあなたならお判りでしょう。また、ナターリア様以下、親衛隊の方々もその力を持って、敵と相対する。それがどれほどの物か想像してください。」
ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!
彼女達は分かってしまったのだろう、いかに化け物じみた力が身に宿ったことを……。
「その過ぎたる力が露見すれば、平民は恐怖し、支配者層はその力を利用しようと近寄ってきます。」
彼女達の表情は一変し、顔を青くする。
「故にシンラ神国の情報は庇護しなければなりません。分かって頂けますか。」
無言でうなずく彼女達。
「でも安心して下さい、シンラ様は常に私たちを見守ってくれています。そしてあなた達の隣には同士もいます。互いに支え合い、共により良い世界へ導いていきましょう。」
ワッーーー!
「「「「清浄なる世界の為に!」」」」
「「「「シンラ神国万歳!」」」」
「「「「シンラ様万歳!」」」」
ワッーーー!
アウラの演説終了とともに親衛隊員による大合唱が始まる。
その姿を見てライズは思う。
(あっれ~~?もしかして狂信者か?)
そしてアウラがライズに近づき小声で話す。
(すいませんライズ様……。扇動しすぎました。)
(う~ん……、気にしないで良いじゃないか……、一応口止してたみたいだし……。)
「お兄様どういう事ですか……。」
ネロも疑問に思っているのか、話しかけてきた。
「ああ、ネロ……。見ての通りだよ。」
「皆、楽しそうです。」
「皆、俺達の仲間になれて嬉しいんだよ。」
ちょっと苦しい言い訳にも聞こえるが……、あながち間違いでもないだろう。
「そうなのですね。私も嬉しいです。」
ネロはにこやかに微笑む。
純真なネロの微笑みに、ライズは笑顔で返すが、その笑顔は引きつっている。
後ろめたさが出たのだろう。
そのライズにアウラが声をかける。
「ライズ様、それで如何しましょう?彼女達には私達が人とのしがらみに関与しないと、理解してもらいましたが……。」
「だよな……。」
そんな話し込む3人に近づいて来る者がいた。
「少々、よろしでしょうか?」
ペリティアである。
「如何いたした。ペリティア様。」
「アウラ様の話を聞き、疑問に思ったことがあります。」
「何なりとお聞きください。」
「私達が崇めていた神クレスタとは何だったのでしょう?シンラ様の教えと別物に聞こえます。」
「そうですな……。それについては我が答えよう。」
そうして、アウラに続きライズが演説する。
「皆が疑問に思っているだろう……。そなた達の崇める神クレスタについてだ。あれは神ではない!」
ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!
まあ、当然の反応だろう。
「何故なら、神が人の営みに関与する事は、先ず無いからだ!それも人族のみ優遇なんてあり得ない。神は全ての生物を平等に愛を注ぐ。そこに差別は存在しない。信者だろうが無信者だろうがだ……。だが信者には神との繋がりが存在し、それは祝福と言う形で体現できる。皆が信じていた神はどこで教えられた!どこがその教えを広めた!そこに特権、利権は存在していないのか……。それを考えれば、いかに信じていた神が欲に溺れ、権利の独占をしている事であろう……。そんな者は人の感情に他ならない!故に断言しよう!その神と名乗る者は人である何かだと……。」
ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!ザワ!
皆の声が収まるのを待ち、ライズはペリティアに質問する。
「ところで、ペリティア様。勇者はどこで召喚された?」
「はいっ!レイシスト教国の聖女メルリーにより召喚されました。」
「多大な生贄を持っての召喚であろう……。」
「はいっ!亜人種の奴隷を生贄にしたと聞いております。」
「教国と言うからにはその偽神も、教国の神で間違いないな……。」
「はいっ!そうでございます。」
「では勇者召喚について話そう。勇者とは人族人種ではあるが、異世界人、この世界にとっての異端者に他ならない。クレスタの教えによれば彼らも排除対象となる。そもそもそこに矛盾が生じている。そして勇者と呼ばれる者達は、争いの無い平和な場所から召喚された。故に、この世界への召喚で精神的負荷を受け、彼らは精神異常を起こしている被害者でもある。故にその精神異常に抗うため、暴走しているとも言えよう。」
「そんな……。」
ペリティアが嘆息する。
勇者が被害者……、そんなことを考える者は存在しなかったのだろう。
自分達には無い特異な力を保持し、その力で暴虐武人な振る舞いをする勇者……。
誰もが恐れおののく力の象徴……。
彼等は自ら望んでここに来た訳ではない、レイシスト教国により拉致されたのだ。
そして、訳分からないまま教国の教えを植え付けられ、この世界でわがままし放題と言う訳だ……。
もしかしたら、教国に隷属されてるのかも知れない……。
前世でファスト・フロストが行った魔術を、レイシスト教国の人間も見ている。
あの魔術を行使出来ないとは言い難い……。
「私に行った仕打ちはレイシスト教国の陰謀……ですか……?」
ペリティアは勇者により被害を受けている。
「精神異常と言っても、理性の崩壊が最もである。故にペリティア様が受けた被害は、勇者が望んで行なった行為と受け取っていいだろう。責任は勇者自身にある。クレセント王国の法に基づき裁くのが、道理であろう。」
「では、勇者はレイシスト教国の被害者ではあるが、行った行為は全て勇者の意思と言う事で良いのでしょうか?」
「そう言う事になる。我がシンラ神国も勇者の取り扱いに苦慮している。だが自分の意思を持つのだから、その責任は本人が取るべきだ。そして……、勇者召喚を行いこの世界に混乱をもたらすクレスタなる者、それを実行した聖女メルリーにも、責任を取ってもらう必要もある。勿論、戦争を扇動しているレイシスト教国にもだ。」
「それでは、シンラ神国国民として私達は何をすれば……。」
「特に何をする事も無い……。今まで通り過ごし、その力を高めれば自ずと道が見えるであろう。」
「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」
ライズの言葉に驚く面々……。
そりゃそうだ……、名代たるライズの口から指示がないのだから……。
「我らシンラ神国に属する者は、自ら考え自ら行動する事を良しとしている。教えのみを信じ、自分の限界に枷を嵌める事も無かろう。己の可能性は無限に広がっている。己の身で感じ考える事で、その枷を解き放ち更なる高みを目指そうではないか!」
ワッーーー!
「「「「清浄なる世界の為に!」」」」
「「「「シンラ神国万歳!」」」」
「「「「シンラ様万歳!」」」」
ワッーーー!
ライズの話が終わるとアウラの時と同じように大合唱が始まる。
(ライズ様……。やりますね……。)
(アウラも似たようなもんだろう……。)
ライズとアウラの小声でのやり取りにネロは普通に入ってくる。
「お兄様、皆、仲良しですね。」
「そうだな。」
「ネロさんも仲良しですよ。」
するとやはりと言うべきかペリティアが近づいて来る。
「ライズ様……。私達がどんなに矮小な考えをしていた事か……。ライズ様、アウラ様のお話し、心が洗われるようでした。」
「そうか……、それは何より。」
「それでです。何かの形でライズ様方に感謝の意を表したいのです。」
「それはどう言う……。」
ライズの言葉を遮り、ペリティアが続ける。
「私を貰って下さい!」
「「「えっ!」」」
それを聞いたライズ達3人は驚きの表情を見せる。
面倒ごとの発生第2弾である。
「それは……。」
「婚約してください!」
ペリティアの顔はゆでだこの様になり、いまにも頭から湯気が出そうになっている。
「私だけでダメでしたら、ナターリアも一緒に……。」
ナターリアの意思はどこへやら……。
「ペリティア様……。」
ぺリティアの後ろにはナターリアが付いて来ている。
それを見たアウラが、口を挟む。
「ペリティア様。私もライズ様と婚約しております。私が第一婦人、ネロ様が第二婦人……。クレセント王国第一王女でもある、あなたが第三夫人で宜しいのでしょうか……。私の知る範囲では獣人を下等種族としている国でもあります。ネロ様を下等種族と思っているのではありませんか?序列がネロ様の下になるのを、あなたは許容できるのですか?」
「そっ、それは……。」
「あなたはまだ、クレセント王国第一王女である事が抜けきれていません。ですから、名代であるライズ様へ、安易に結婚を申し込む事が出来たのです。」
「そんなことは……。」
「女性からのプロポーズ……。それはそれは勇気のいる事でしょう。ですが……、一人でダメなら二人……安易すぎます。あなたは先ずクレセント王国の改正を行いそれを成して、やっとライズ様と対等に話すことが許されることを知りなさい!」
アウラが二人を威圧する。
「すっ、すいませんでした。」
「分かれば宜しいのです。ナターリア様もよろしくて……。」
「はっ、はい!」
「ですが……、憂いが無くなった暁には、ライズ様もお認めになるでしょう。その時は改めて申し込むことを許しましょう。」
アウラは一変し、優しげな表情で二人に話しかける。
「「はっ、はい!」」
それに対し二人は頬を染め嬉しそうに返事をする。
(あれ?ナターリアもその気だったのか……。)
ライズはそんな事を思いながら、二人を観察していた。
アウラ、グッジョブ!
そしてアウラにサムズアップするライズであった。