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09.シンラ神国


 ここはアウルーラでも有数の極寒の地……。


 見渡す限り真っ白な、色の褪せた世界……。


 夏でも雪が解けない、全て凍土によって覆われ生命の伊吹がほぼ皆無な土地。


 そんな中、場違いなほど目立つ、日本家屋が立っている。


 仮に人が住んでいるとするならば……、アウルーラ北方限界地点と言う事になるだろう……。


 そして時折、大地の声と言われる、地響きの音がこだましている。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 その音と共に人の声がする。


 「お~い!そろそろ限界だろ!」


 全身を真っ白な毛皮のコートで覆い、足元も毛皮のブーツ、地球でいうイヌイットと呼ばれる種族と見間違わんばかりの防寒着を着る男が、声を上げたようだ。 


 彼こそが3年前完遂者とし、この世界の管理神こと幼女神シンラにより遣わされた、使徒ライズである。


 現在12歳となったライズは、身長165cm体重54kgと12歳にしては、成長している。 


 そして……。 


 「お兄様……。やはりそうでしょうか……。」


 彼の横で声をかける少女……。


 彼女もまた、全身を真っ白な毛皮のコートで覆い、足元も毛皮のブーツ……、それにコサック帽をかぶり、身長135cm体重???と成長している。


 そして何より言葉遣いに立ち居姿が、別人と見間違うほどに変わってた。


 彼女はネロ……、3年間の淑女教育によりすっかり女性らしく、貴族令嬢と言われても差し支えないレベルに到達している。


 「ライズ様~!ネロさ~ん!ヤバいですよ~!」 


 空中を駆けこっちに向かってくる半透明の女性……。


 彼女はアウラ……。


 彼女は………………、特に変わってません。


 多少砕けた感じに、話すようになったくらいです。


 「二人とも、早く逃げましょ!」


 「ちょっと落ち着けアウラ!」


 「そうです。まずは現況報告が先ですよ。アウラさん。」


 「でだ。どのくらい持ちそうだ?」


 「あと2、3日が限界です。」


 「被害予測は?」


 「山が半壊、爆発だけなら、ここまで来ませんが……。火山流、土石流、日照不足など考えますと、ここいら一帯は不毛の地となりますね。再生は完全に火山が鎮静してからとなりますので、数十年後となるでしょう。」


 「そんなにかかるのか……。結構住みやすかったんだがな。」


 「そうですね。我が家を離れるのが、こんなに忍びないと思いませんでしたわ。」  


 「シンラ様の思し召しと言う事になってるから仕方ないですよ~。でも、ここに御神体もありますし建物自体は残りそうですね。」


 「しかし、きっかり3年とは……。」


 そう彼らが地上に転生したあの日から1190日目……3年の月日が流れようとしていた……。 


 「お兄様!そうと決まれば行動ですの。」


 ネロが催促してくる。


 「そうだな、準備はできてる。後は人族の里へ下りるだけだ。」


 「ライズ様~。その前に旅ですよ~。」


 ここから近くても1500km、1日25kmとして2か月は掛かるであろう。


 だが、ライズ達は移動手段があった。


 彼らは馬車……、正確には獣車になるのだが……、火口域に生息していたファイアリザードと呼ばれる魔獣を従えていた。


 精霊種サラマンダーとはまた別の生き物なのだが……、熱を吸収しそれを糧とする生き物にとって、さぞかし火口は住みやすい場所だったのだろう。


 その生息域を発見した時、3人とも小躍りして喜んだ。


 なぜなら、貴重なタンパク源の確保が容易になったからである。


 それまでは狩猟と称し、雪山を駆け巡っており、いくらマップで補足していても、抜かるんだ雪原の移動は否応なく体力を蝕んでくる。


 一体の確保で数週間の狩猟分と来れば喜ばない訳がない。


 そんな中、今日を見据え比較的大きめの個体を確保し、従わせることに成功したのが今獣車に繋がれているファイアリザード……、通称八ちゃんである。


 名前の由来は8本の犬歯からなのだが……、安易すぎる。


 「それじゃ~、八ちゃんお願いね~。」


 アウラがハッちゃんの頭の上に乗り、御者を務める。


 「グギャ~~~!」


 それに答えるかのように、八ちゃんは鳴き声を上げる。


 さて、その八ちゃんだが、ファイアリザードと聞き皆はどのような姿を思い浮かべるだろう……、例えばコモドドラゴンとかかもしれない、爬虫類が雪山歩いて大丈夫かよ、と思う人もいるだろう。


 この世界のファイアリザード……、それはどう見てもカバ……。 


 だが侮ってはいけない、溶岩をものともしない頑強な皮膚、そして数トンに上る体重を支える屈強な足腰、そして岩石すらかみ砕く堅固な顎……。


 更にファイアリザードの名を冠するほどの、火属性の魔力……。  


 実は災害級に指定されている……。


 基本、温厚な魔獣ではあるが、一度牙をむいたら、辺り一帯火の海と化すまで進撃が止まらない……が、慣れてしまえば可愛いものである。


 そんな魔獣を従える3人の、実力の一端を鑑みることが出来ただろう。


 次の日の午後……、夜の帳が下り始めたころ……。


 ドッゴ~~~~~ン!


 爆音とともにライズ達が毎日、見上げていた雪山の半分が消失した……。


 そのころライズ達は、そこより約50km離れた地で、野営をしていたのだが……。


 遠く離れた地まで移動していたライズ達の耳にも、その爆発音が届いていた。


 移動を開始し、それほどの爆発が起こった。


 長く見ても半日の猶予しかなかった事に、彼らは危機感を感じていた。 


 「おいおい!結構ギリギリだったじゃないか。」


 「ええ、そうだね。私の予想はもって(・・・)2,3日でしたのでこんな事もありますよ。」


 「ああ、もう故郷に帰れないと思うと感慨深くなりますね……。」 


 今の爆発音をもって、3人はアウルーラでの故郷消失を確認する。


 そして彼らは、3年間過ごした土地に別れを告げ、まだ見ぬ冒険に旅立つのであった。















 ライズ達が山を下り2か月が過ぎようとしていた。


 現在、白銀の風景は鳴りを潜め、鬱蒼と茂る木々に囲まれていた。


 ライズ達は防寒着を脱ぎ神衣に着替えている。


 「ああ~!うざい!」


 ライズは獣車の前を歩き、木々を薙ぎ倒し道を確保しながらの移動となっており、思ったように進んでいなかった。 


 「お兄様、しばらく行くと森が途切れます。」


 斥候として出ていたネロが帰って来て早々、報告する。


 八ちゃんの上でアウラは御者をしている。

 

 「あと少しですね~。ライズ様。」


 アウラはそう言うが……、ネロが単身で斥候に出て丸一日かけて持ってきた情報である。


 移動速度を考えると後2日は丸っとかかる事は明らかである。


 更に……。


 グギャ、グギャ~!


 時折ゴブリンの襲撃ときている……。


 ゴブリンならまだいいが、フォレストウルフ、ワイルドベア、ブラッディーエイプ……等々さっきからバラエティー豊富な魔獣に襲われている。


 「もういい!八ちゃん!」


 ライズは八ちゃんに合図を送る。


 「八ちゃんお願いだって。」


 アウラがそう言うと……。


 「グギャア!」


 分かったとばかりに、八ちゃんの口から炎が溢れ出す。


 そしてその大きな口が開かれると、口の前に2m大の火球が生成された。


 「ギャウ!」


 その鳴き声と同時に八ちゃんの前方に、火球が放出されゴブリン諸共前方の木々が薙ぎ倒されていった。


 八ちゃんの前方100mの土は、その熱量によりガラスと化し、火球によって倒された木々が散乱する羽目となっている。


 その木々をライズは収納していく。


 「お~!やっぱりこれは楽。」


 さっきまで愚痴をこぼしながら開拓作業をいそしんでいたライズも、八ちゃんブレスと言うマップ兵器の有用性をかみしめている。


 だがしかし……。


 「ライズ様……。八ちゃんお腹すいたって……。」


 一回のブレスでクマ一頭の燃費では……。 


 狩猟のほうが追い付かない……。


 何回かそれを繰り返していたが、ライズもライズで狩猟と開拓の面倒くささの板挟みとなっていた。


 故にその行為を繰り返している。


 と言う事で、またしても狩猟開始となる訳で……。


 「おう!行ってくる。」


 「「行ってらっしゃい!」」


 そうしてその行為を何回繰り返したのだろう……、さらに二日の時間が経過していた。







 「「「出た~!」」」


 第一声がそれである。


 3人はやっとの思いで、草原に出る事が出来た。


 雪山から約2か月……。


 距離にして1500km……。


 やっとお天道様の光を見に浴びる事が出来た。


 「お兄様……。あちらの方に薄っすらですが、車輪の跡がありました。そこを辿れば人の住む町に到着できるかと……。」


 「ネロ情報、ありがとう。だが……。」


 そう、ここに着て、ライズは迷いを生じている。


 人族の集落に行くことは、面倒ごとが起こると言う事である。


 ライズ達は3年に上る引きこもり生活をしてきたわけで、今更ながら人族のしがらみが面倒なのだ。


 「ネロは他人との接触どう思う?」


 「えっ!私ですか?お兄様がいれば他の人なんてどうでもいいですけど……。」


 「まあそうだよな……。アウラは……。聞くまでもないか……。」


 「えっ!聞いてくださいよ、ライズ様!私にも!」


 「それじゃ聞くが、他人とあってどうする?」


 「どうもしません。興味すら沸きませんね。」

   

 「………………、だよな……。」


 冒険者……。 


 勇者……。


 魔王討伐……。


 貴族……。


 教会……。


 一体何を求めてるのか……、意味が分からん。


 安定した平穏な生活が、一番ではないのか?


 前世でライズは戦争を止めた……、だが再発……。


 多くの人たちがその被害にあっている。


 平民が望むものは、争いの筈がない……。


 その日を生き抜くための食料……、その一点に尽きる。


 だが、パン一個のために争いは起こり、人の命がなくなっていく。


 上位者≪貴族・王族・金持ち≫はその平民の習性を利用し、戦争を起こす。


 平民は考える事を放棄し利用される輪に入る。


 つまるところ、どっちも楽に生活したいと言う事なのだろうか……。


 「幼女神の依頼もあるしな~。」


 「シンラ様の依頼は完遂者の確保ですよ。ネロさんを育てれば以来の達成です。欲張らないで良いんじゃないですか?」


 「それもそうか……。」

 

 ライズは前世のように戦争を止め無ければと思っていたが……、アウラの言葉で我に返る。


 なんてことはない幼女神の依頼は、完遂者の確保と社の建設だけなのである。


 「となると、俺たちの立ち位置が問題だな。」


 「なんなら国でも建てちゃいましょうか?小国でも王族となればそれ相応の態度が要求されますし、変な虫も付きづらいですからね。」


 (何それ!すごい妙案に思えるんだけど……。)


 アウルーラでは大小様々な国が乱立し、種族、宗教等で枠が組まれている。


 その中でも人族の国が連立し魔人族を攻めていると言う事になっている。


 そしてその他種族がそれに巻き込まれると言った時世の様だ。


 ここで一国が出来上がっても、特に問題が出ない。


 結局、アウラの案を採用することとなり、ライズを名代(神の代理者)、ネロが女皇と言う事になった。


 国の名はシンラ神国……。


 正統なる神を祀る国と言う事で、落ち着いた。


 アウラは種族的に表に出ない方がいいと言う事で、1/1モード時は神子服を着用し不思議ちゃんを装う。


 それっぽくして置いて、それ以外は姿を消していれば問題ないだろうと、安直な考えである。


 こうして、ここに国民3人、土地も無し(一応、雪山)と言う極小国が出来上がった。   


 コンセプトは全てを許容する国。


 種族間格差が皆無、蔑む事が犯罪……。


 人が人を敬う国って感じで良いだろう。

 

 「なかなか良さそうな国だな。」


 「当たり前です。神の国ですもの……。」


 「お兄様が国王で良かったのでは?」


 「あまり気にしないで良いぞ、ネロ。なんせ3人しかいないからな。」


 「う~ん、そんなものですか?」


 「そう言うもんだ。それじゃ、人族の町へ向け行こうか。」


 「グギャ~~~!」


 おっと!八ちゃんも国民だからな!


 

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