少女、ギルドデビュー
――小鳥の囀りさえ聞こえない程に、ギルドが人々の活気で包まれている。
チンピラ達の悲鳴が、他のチンピラ達を笑顔に変えているからだ。
それを悲観するかのように、受付嬢達のすすり泣く声が虚空を舞っては消えていく。
――そんな、美しい笑顔に溢れたこのギルドで、この世の終わりのような顔をして受付台の椅子に座る少女と、それに寄り添って座る愛らしい物体がいた。
そう、ウンコである。
「うう、なんでこんなことに……」
「ブリッ(グーだ! 女よ、最初はグーの要領でいけ! そいつをぶっ飛ばせ!)」
「ヒャッハハー!! ダンマリかー!? おい新入りぃ、このアタシにビビッてんのかー!? あーん!?」
舌をベロベロと出し、目ン玉を大きくひん剥きながら、受付台を棍棒でガンガンと叩いて威嚇しているヒャッハー系美少女の顔が、満面の笑みで輝いている。実に守りたくなるような弾ける笑顔だ。
どうやら、完全に怯えきっている少女の様子が嬉しくて仕方ないのだろう。そのヒャッハー系美少女が、受付台の上から覗き込むようにして、少女に顔を近付けた。
「ひぃぃっ!? やっぱりもうお家に帰りたいぃっ。お母様ーっ!!」
……やれやれ、仕方ないな。
今日1日だけで、あと何回助け船を出航させれば良いのやら。このままでは助け船の大艦隊になりそうではないか。
「うぇーんっ! どのお客様もちゃんと話を聞いてくれないよーっ!」
ギルドの受付嬢までもが大声で泣き始めたのを見て、ヒャッハー系美少女の笑顔が更に輝いた。
まったく。わけのわからん客にはグーを決める。文句を返されたら再びグー。これが接客マナーというものだろうに。
まあいい。いくぞッ。
「ブリリッ(《アルティメット・ウンコ・スキル!》、≪≪産まれたての芳香《スメル・バースデイ!!》≫≫)」
――俺の声が場に反響した刹那、香ばしく、それでいて深みのある異臭が俺の体より放たれた。
俺の体内生気を消費して、できたてホヤホヤのウンコの香りが解放されたのだ。
「ヒャッハハー!! ほらほら黙ってないでアタシの目を見なァー!! ……んっ? お前、なんか臭くね?」
「えっ?」
なんだなんだと、ヒャッハー系美少女が少女の隣を覗き込む。すると。
「!?!? マジかよッ!?」
俺と、目が合った。
「て、てめぇ。……したのか?」
「違います」