ウンコと、ギルドと、少女の洗礼。
「テメェーらうるッせえぞッ!! ただでさえ不味い酒が、もっっと不味くなるだろうがよオオッ!!!?」
また新たに、ギルドの中から身長2メートルはあろうかという、傷痕だらけの顔面をした筋骨隆々の大男がゆっくりと現れた。
「ブリィ(この男、デキるな)」
大男から漏れ出している体内生気が、かなり高い練度で練られている。
恐らく、幾多の死線を潜り抜けた歴戦の戦士なのだろう。
「うおおおー!! アニキイイイー!! 《傷痕だらけのバーサーカー》ゴルドのアニキが来てくれたぜえええ!! これで千人力だアアア!!」
モヒカン頭のチンピラAがワーワーと騒いでいるが、このゴルドという男がどれだけ強かろうと、俺の前では無力に等しい。
「それで、何があったんだオイ? なあ、ヤスよ」
「は、ハイ! ゴルドのアニキ、実はそこの女が、ドアノブにウンあああああああアニキ触っちゃダメだああああああっ!!」
「ああン? このドアノブがなんだっ……」
ぐにゅり。
しばしの沈黙が、その場を支配した――。
「ア、アニキ……?」
脂汗を顔中に浮かべて、顔面ブルー○ットのようになったゴルドが、恐る恐る自身の手に目を向けると、
「…………ッきぃゃああああああああああッ!!!!!!? 無理無理、わたしウンチ無理いいいいいいい~~~~~~~~ッ!!!!! もぉヤダああああああああああっ!!!! ウンチやだああああ~~~~ッ!!!!!!」
なんと、身長2メートルはあろうかというこの強面の大男は、まるで女の子のような悲鳴を上げながら、涙を流してのたうち回り始めたのだ!
「ゴ、ゴルドのアニキ……。嘘、だろ……?」
そんなゴルドを見て、困惑しているチンピラA。よく見ると、後ろの方で少女が全力でドン引いていた。
このままでは《傷痕だらけのバーサーカー》の心と名誉まで傷痕だらけになりそうだが、まあどうでもいいな。
「ブリッ(よし、問題は粉砕したな。ではギルドに入るぞ、少女よ!)」
「えっ? 糞神様、この方達はどうするのっ?」
「ブリ……(少女よ。何も言わずに立ち去る優しさも、世の中にはあるのだ)」
俺達は決して後ろを振り返らずに、荒れ果てたギルドの中へとその足を踏み入れるのであった。