創世神話
「ブリ(では往くぞ、少女よ! 我が兄弟たちと共に!)」
「「「ブリィーー!!!!」」」と雄叫びをあげ、次から次へと便器から這い上がってくる兄弟たち。
その頼もしい姿に、目頭が熱くなるのを感じる。
「イヤー!! 汚い!! それに私まだ一緒に行くなんて一言も言ってなっ……ちょ、触らないで!」
汚いとはなんだ汚いとは!! いったい我々のどこが汚いというのだ失礼な!!
暴れる失礼な少女を、ブリッブリッブリッと問答無用で外へと運び出す兄弟たち。なんという力強さ、頼もしさであろうか。
この光景こそ、勇者の旅立ちに相応しいと言えよう……!
「お母様っ、お母様、居ないの!? ああっ! オババ様、助けてください! うんちが、うんちの魔物が私を運ぶのです!」
少女の家から出ると、そこにはオババ様と呼ばれた怪しげなローブを着た老婆と、いかにもな西洋ファンタジー風モブといった出で立ちの村人たちが集まっていた。
「こりゃっ、姫様! なんと罰当たりな! その方はただのうんちなどではありませぬ! 我らが村に伝わる伝説の守り神、糞神様ですのじゃっ!」
「えっ!? じゃあ、まさか、本当に!?」
うむ。何を言っているのかよくわからんが、ここは話を合わせるとするか。
「でも、このうんちの魔物が、そんな……」
少女は息を呑むと、震える声を絞り出すようにして、聞いてもないのに突然語り始めた。
「か、かの《創世神話・猿蟹ウォー》に登場する悪しき魔王、《サルファー・カキ・デス》を打ち倒した伝説の勇者一行……」
「《勇者カニキング》」
首肯する俺。
「《勇者ビー・ザ・ストライク》……」
うむ。
「それから、《勇者クリ・インフェルノ》」
頷く。
「《勇者ウス・ド・マウンテン》」
ああ。
「そして――《勇者ウンコ・オブ・ダークネス》――」
俺は満足そうに頷くと、少女に答えてやった。
「ブリ……。(――そのウンコオブダークネスっぽい奴こそが、この俺だ)」