少女レイニーデイズ
十年間塩漬けにした梅干しのような剣幕で、少女がこちらを睨んでいる。
宥めてもすかしても聞き入れなさそうな勢いだが、取り敢えず頭でも撫でて落ち着かせてやろうではないか。
「ブリブリ(おお、ヨシヨシ。そんな梅干しみたいな顔をして、一体何が不服だと言うのだ? 可愛い顔が台無しだぞ)」
俺が優しく頭を撫でてやると、少女の美しい髪はまるでヒマワリが咲いたかのように、ベットリと黄ばんだ。
「やめてよして触らないでウンコ付くからっ! あなたなんて嫌いよ顔も見たくないっ!!」
……。
失礼なっ!!!!
人様に向かって汚物扱いとは何事かっ!!
「ブリィッ(少女よ! 言って良いことと悪いことがあるぞ!)」
「うるさいっ! 汚いっ!」
きっ、きたな……い?
こんな愛らしいウンコに向かって、汚いとはなんだ、汚いとは!?
そもそも俺をケツから捻り出したのはお前ではないか!?
「うっ、ううっ、うぇぇええええええんっ!!」
「ブリィッ!?(待てっ! どこへ行く!?)」
「オイ待てよアンタっ! アタシと組もうぜっ!」
突然大号泣し、ギルドから飛び出した少女と、それを逃すまいと後を追うヒャッハー系蛮賊美少女を、俺は呆然とした顔で見送っていた。
――汚い。
――やめてよして触らないでウンコ付くから。
――あなたなんて嫌いよ顔も見たくない。
――汚い。
転生前には言われたこともなかったあまりにも辛辣な言葉の数々に、産まれたての小鹿のように震える足を俺はそっと抱き寄せる。
「ブリっ?(冷たっ)」
これは、目から……雨?
気が付けば、俺の目からドシャ降りの大雨が降っていた。ここは屋内の筈なのに、何故、雨が降っているのだ。
いや、考えるまでもないな。
そう。今の俺の心は、冷たい雨の日つまりレイニーデイズなのだから……。
そんな俺の瞳に傘を差してくれる人が現れぬまま、衝撃的な一声がこの場の喧騒を貫いた。
少女と入れ替わり立ち替わるような形でギルド内に飛び込んできたのは、汗と埃にまみれた艶めくグラマラスな美女が一人。
その美女が言い放った一声、それは――
「――きっ、緊急クエストですッ! 街に、街に強力な魔族が現れましたッ!!!!」