人生
「……したんだろ?」
「してませんっ!!」
顔を耳まで真っ赤に染め上げて全力で否定している少女だが、ここはハッキリと肯定すべき場面だろう。
チンピラしか居ないこの世紀末なギルドで、か弱い少女がナメられずに冒険者としてデビューするには、堂々と脱糞したと思わせるしか道はないのだから。
「アタシとくっちゃべってる間に、お嬢様みたいな澄まし顔で堂々とクソしてやがったのかよ……。なんて嫌がらせだよ……。イカレてやがる。アンタ、アタシより最高にイカレてやがるよ!!」
「イヤっ! そんなキラキラした目を私に向けないで下さいっ!」
俺と少女を交互に見ながら、ワナワナと震えるヒャッハー系美少女は完全にこの状況を信じたようだ。
ワクワクと興奮のあまり手に持ったこん棒を子供のようにブンブンと振り回している。
しかも少女がこの流れをどれだけ否定しても、ヒャッハー系美少女の方は「嘘だろマジかよオイ!」と聞く耳を持たず、その瞳は輝きを増すばかり。
つまり、助け船の大艦隊は無事に任務を完了したと言える。祝砲モノだな。
チンピラばかりのギルドで少女がナメられないようにする為には、何よりもインパクトが大切なのだ。初めてのギルドでか弱い少女が脱糞したと思わせるインパクトが。
「ウソ……。お客、様……?」
愛らしい俺の姿に気付いたギルドの受付嬢達も、一人残らず顔面蒼白ブルーレ○トなので見ていて実に清々しい。
青天の霹靂ここにありというやつだな。高校デビューならぬギルドデビュー大成功だ。
「こんなオークみてぇなクソでっけぇウンコをアタシに気付かれずにぶちかますなんて、アンタすげぇよ! マジモンだよ!」
「!? 大きくないですこれくらい普通サイズです!! かわいいサイズです!!」
「やっぱりしたんじゃねぇか!」
「お客様!? ギルド内での脱糞はおやめぐださいっ!!」
もはや尊敬の眼差しに近い何かを向けるヒャッハー系美少女と、今日で仕事を辞めそうな涙目を向けている受付嬢の視線の先にあるもの。
それは、梅干しのような顔をしながら真っ赤な目を俺に向ける少女の姿であった。
「……終わりよ! 私の人生はもう終わりよっ!!」
「ブリィ(落ち着け、少女よ。確かにお前の女としての人生は終わったかもしれんが、冒険者としての人生は今、始まったばかりなのだ)」