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【ヒャクモノガタリ】

 【百物語】

 

 登場人物

 

 靜 聖夜:語りにして騙り

 静寂 子小美:探偵役

 靜 美羅:妹

 紅 静刃:妖怪モドキ

 渡辺 実:医者

 

「はっは、結構盛り上がりましたね〜」

「うむ、酒は皆で飲めばうまい」

「お爺ちゃん、未成年もいますって」

 

 ドンチャンガヤガヤ……夜も更けて行く――

 

 

 〜〜近くのコンビニへ行く途中〜〜

 

「で、靜……その緑色の血液の変死事件犯人は、行方不明の医師でいいのかしら?」

「唐突に語られた静寂子小美ちゃんからの発言に、靜聖夜は戸惑いを隠せないまま……

黙って、酒のんべぇの酔い醒ましのポカリを買いに行く途中だったのを思い出し、今の台詞を脳内デリートした」

「確かに戸惑いを隠せてないようですけど……顔が笑っているのが腹が立ちますね。

まるで、私に解いてください、いや解くのが前提のような、安易なミステリーホラーでしたからね」

「なんだ、そこまでわかってんだったら良いジャン。しおみんの考えているのが多分、正解だよ」

「ならば、解せません」

「何で?」

「医師の動機です」

「罪悪感でいいんじゃね?」

「三流小説じゃあるまいし」

「いや、事実は小説よりも奇なりって言うじゃん。いや、事実は小説よりも素っ気無い、ってか?」

「ならば小説こそ、現実味過ぎていると言うことでしょう。あの医師は患者を死なせて、罪悪感と罪滅ぼしから、関わった全員を惨殺した、と言うことでしょうか? いいえ、いいえ――それこそ非現実……非小説的過ぎます」

「でも、現実に起こっちゃったんなら、どうしようもないぜ? アニメや小説の名探偵ってのは、アレは死神とかそう言うのじゃねえよな。勘がよすぎるんだ、犯罪者の勘がな」

「現実的解釈ですか。相手の立場になって物事を考える――」

「だがよ、男がいくら考えたって、女の生理痛がわからないように、女だって男の金的痛がわからないのと一緒だぜ」

「(スルー)……その医師の立場の詳しい立ち位置はわかりますか?」

「知らねぇよ。借金だとか離婚だとか、あったって不思議じゃないけどな……ってか今気づいたんだが、しおみん、顔青いな」

「べ、別に……」

「怖いの?」「こ、怖くなんかッ……」

 と、叫びかけた少女の瞳は、男――靜の何もかもを見透かす瞳に魅入られ、やがて嘆息と共に答えた。

「ええ、怖いんです。理解できないのがじゃなくて……その……」

「お化け?」

「……」

 沈黙は肯定。沈黙は失笑へ――

「わ、笑わなくたっていいじゃないですか!」

「いやぁ〜っはっはっはっは、面白れぇ〜、今日一番のオチだったぜ! さ、はよ家帰って芋食って屁こいて寝よ」

「い、言うんじゃなかった。こんな下種に言うんじゃなかった」

「策士、痛恨の失策――にゃっはっはっはっは。さ、酒飲み張り倒して寝よ」

「……最低」

「最低で結構コケコッコウ〜。鶏の両親はち〜ちらぽっぽ〜」

「……今ここで変質者と叫んで、レイパーと泣き叫んだらどうなるかしら」

「何でもお答えしましょう静寂子小美ちゃん。さぁ、何なりとお訊ねください」

「……(顔が笑ってる)……お〜ま〜わ〜り〜……さぁぁぁぁぁん!」

「だぁぁぁ! 本当に叫びやがった! つっても、この辺誰もこないけど」

「あら本当、そっか……ふぅん、そうなんだ」

「ほえ?」「そうですか、そうなんですか」「何がなのさ」

「私の初めて」「さ、さっさとポカリ買って帰るぞ」

 

 チン〜〜〜 毎度あり〜〜〜 そして帰宅道〜〜〜

 

「……靜聖夜」

「何さ、静寂子小美」

「女性の処女性に触れるとあっさりまじめになりますね」

「やかましいわ!」「さすがは童帝王」「なにその称号! できれば、ネバーランドガイの方がうれしい」

「止めてください、世界中の子供がグレてしまいます」

「うん、夢と希望を失わせる自信がある」

「では、私の処女の関して」「お前も耳年増なのか! 年増なのか!」「では、私の謎解きに答えてください」

 

 さっきから、靜は百物語に関して、はぐらかしてばかりいる。

 会話もまるで取り合ってくれないから、こういう……自滅の話術で、イニシアチブを得てから、

 子小美の答え合わせが始まった。

 

「まず、犯行――すなわち、看護士、医師を殺害したのは、行方不明となった医師、であっていますね」

「俺もだいたいそう思う。

消去法使うなら、殺害された連中はむろん容疑者から除外。生き残りトリックの線はゼロ」

「続いて、痴呆のお婆ちゃんは、身体的に見て却下。実は凄腕の暗殺者とか、医療ミスでしんだ人の母親と言う線での動機でも説明がつきそうですが、これだけはクリアーする要素がほぼ、ゼロ」

「精神科医のおばちゃん、ああ話の内容には精神科医としか言ってなかったけど、実はおばちゃんね。

彼女も動機犯行、何より事件は夜勤中に起こったから、ほぼ除外していい」

「犯行時間、犯行行動、そして時間帯とを考えるなら」「行方不明の医師でしかない、と」

「そういうこと。事件はその医師を犯人と見て、目下捜査中」

「……やはり現実の事件だったのですね」

「何でそう思ったの?」

「最初はそうは思いませんでした。しかし、二番目の『学校の怪談』と物語を比べてください」

「ん? 何がおかしかったの?」

「矛盾性の有無、ですね。

整合性の無い、現実(フィクション)非現実(ノンフィクション)の差から生ずる、違和感。

それに怪談のほうの、コンパクト。

女性は普通、かばんに入れて持ち運んで、化粧室や電車の中とか、時間の合間に整えるものです。

机の上に放置していると言うのはあまり考えられません」

「あそっか……まぁ、普通は持ち歩いてるよな、コンパクト。常備設置してるって前振りしときゃよかった」

「で、私が気味悪いのは、そこなんです。

『フィクションとノンフィクションの差から生ずる違和感』……」

「あっはっは、つまり――【病院の話】は事実だってことか?」

「【一から十まですべて事実】か? と言いたいのです。貴方ほどの推理考察があるなら、その辺の補完は十分できるでしょう」

「そうか? かなり細かい部分の考察を落っことして、えらい目にあうんだが」

「誤魔化さないで、教えてください。つまり【犯人は医療ミスで死んだ患者】なんですか?」

「ざっつ おーる らいと」

「……」

 

 冷たい風、一陣。

 

「まぁ、科学的には説明つくんじゃない? 幽霊のせいにしなくても」

「……こじつけです」

「そでもないよ。ストレスだってのは脳を圧迫して、幻覚呼び覚ますトリガーになれるだろうし。ただ、それじゃ集団でってのは解せんな」

「薬品も医療器具だって、設備はあっても在庫はつきていたので……あ」

「あ、計画的犯行だったら、備品なくなってたのに説明つくな。幻覚剤とか作ってたって」

「ありえませんね。そんな横領していたら、内部で気づくはずです。気づかないほど杜撰だったか、それとも病院ぐるみだったとか」

「それより気になるんですけど、その最初の急患者さんは、どこにいったのでしょう?」

『決まっている<でしょう=だろう』

 

 子小美と聖夜の声がはもり、


『最初からいなかった<のよ=のさ』

 

 その言葉に、納得する……妹、美羅ちゃん。

「で、こんな夜更けに何でほっつき歩いて」

「ちゃんと保護者同伴です」

「保護者かどうかは疑わしいがな」

「って、くれない……なんで女の子ばっか歩かせるんだ」

「ほかは酔いつぶれていたり、それに美羅を男とほっつかせたら、お前が怒るんじゃないか?」

「俺は紫苑とは違うって」

「それはそうと、興味深い。……その、幽霊が犯人説、お前の中ではどうなんだ?」

「ん、正直判らん――っつか興味ない」

「……何?」

「俺の正直な感想。見ず知らずな医師が二人、看護士二人+婦長が死にました。おしまい。

犯人はわかりませんでした。脳異常が精神科のおばちゃんに起こりました。って結果だけで十分」


「わからないのは気持ち悪いです」

 

「靜兄さんは、何を知っているのです?」

「知っているんじゃ無くて、依頼を遂行しに来たの。だいいち、この事件の解答知ったのだって、姫っちと一緒に超怖いビデオを夜通し制覇した際に、『あ、そっかこのトリックじゃん』って実践見せられて知ったんだし」

「モロそのままじゃないですか! ……って、アレ? 依頼?」

 

「依頼と言うか、お節介さ――」

 

 靜聖夜、不意に「姫っちと子小美は先帰ってて」と言い、

「この先は、グロテスクにつき、立ち入り禁止」と念を押して、ボロアパートの前で別れると、

 

「さて、なんで私は残すんだ?」

「ん? まぁ、妖怪と幽霊って、波長と言うか、原点は同じだから大丈夫じゃないかな〜って」

「ほお、この妖怪モドキ、がか?」

「元人間にして、妖刀――まぁ、そんなのどうだっていいんだ、必要なのは肩書き肩書き」

「……一体何なんだ?」

「話し飛んで、俺のダチに渡辺実って医師がいるだろう?

行方不明の医師って、奴の友達だったんだ。ぽろっと話してたのを思い出してさ」

 

 向かう先は、粗大ゴミ置き場。

 使われていない、古びた……ロッカー……

 

「昔から、霊症ってのは、『視える』者か、それに『近い』者しか、感じたり、呼び寄せたりしてしまう。

逆に言うなら【引き寄せる】って話だ」

「……貴様」

 紅の表情が凍る。

「百物語だって立派な交霊術だって知ってた? 物語って、【者語ものがたり】とも書けるだろう?

【百者語】……だが、百人ってのは数が多い、だが――百の霊っつったら、……まだ【現世】と呼べる中身にある魂も含めたら百になるだろう?

まぁ、ぼちぼち成功したって感じかな」

「もともと百と言うのは、物の数の多さを言う。別に百の数を指すのではないぞ」

「そう、だからこそ、『視える』『視えない』関係ない、物の数で『引き寄せる』のが目的さ……まぁ」

 

 てけてけ……てけてけてけ……

 足、いるか? 赤と蒼と白どれがいい? ワタシ、キレイ……

 フシュルルルルル トゥルルルルルルル トゥルルルルルルルル……ガチャン

 

「……何か余計なものまで集まってきたけど、姫っちやしおみんには見えないから別にいいよな」

「それも、集まれば何とやら、だ。これだけ集まると霊感が無くても、地場や地霊に影響を及ぼすぞ」

「あ、それに関しては生贄捧げちまうから、大丈夫じゃね?」

 

 と……靜聖夜は、振り返り。

 自らの右腕を、切り裂いた。

 

 緑色の血を、流した。

 

「ようこそ、悲しい悲しい被害者さま? それとも、加害者さまになっちまったのかな?」

 

 振り返っても、誰もいない。のに……

 

「赤マントさん、赤マントさん。緑色を御所望の浮遊霊がいらっしゃいます。至急――そちら側へ、お連れしてあげてください」

 

 さらに、背後の……小さなざわめきが、一段小さくなる。

 色を提示してた声が、消えた。

 

「……被害者、なのか?」

「知らない。でも、関係者っぽくはあったよな」

 

 靜の腕は……緑色ではなく、人が生きている証の、真っ赤な色を流し――

 

「まぁ、今の霊がそうだとしても、俺には関係ないね。俺に関係あるのは……」

 不意に、粗大ゴミのロッカーを蹴り飛ばし、中からゴロリと腐乱死体が転がり落ちる。

「ダチがダチの生死を知りたがっていたって話だけだ。

俺が伝えるのは、残念でした。人生そんなにやさしくないぜ、って答えること」

「……霊界流し、か」

「そんな用語あるの?」

「いや、ただ天国であれ地獄であれ」

「この現世のこと。もっと詳しく言うなら、一枚、フィルターが重なった世界」

「お前の表現は回りくどいな。

そう、そっちのフィルター向こうにいたのを、お前は『呼び寄せて』『戻した』。が、お前の答え合わせなんだな?」

「答え合わせってか、ミステリー風味で言うなら【俺の動機】だな」

「おかげで、異界のフィルターがこちらまで、張ってきたのは、どうするんだ?」

「その辺は大丈夫でしょう。ここが結界の中心だし」

「……何?」

「だってほら、言い出したの俺ジャン」

 

 ……

 

「発端、発信、中心源、まぁ本当の発端はあの似非小説家なんだが、これは利用できるな。ってか、アイツを坩堝のど真ん中にいれたら、さすがに可哀想ジャン」

「自業自得だと思うが? あまり遊び半分で死者を弄んでは、然るべき自然の制裁がくるのは当然」

「霊症が自然の制裁って何か嫌だな……。

まぁ、俺そのものが発信源なんだから、連中も俺たかると……このままウチのアパート連中に手を出すと……」

 

 ぶっちゅら……ぺと……ぺと……

 

 路地から、見慣れぬ血液が流れていく。

 

「まぁ、赤マントに緑色ってのは無いし、赤マントも古いからな。そろそろ引退かな?」

「都市伝説、妖怪然り――人の耳に入らなければ、霊症にあらず」

「幽霊妖怪も商売上がったりか。ってか商売じゃねえし」

「理由はわかった。さっさと締めろ」

 うんざりしたように紅。

 周りの気配が……濃く、鋭く、嫌なものに変わる。

「お前が片付ければ、それで御終いなのだろう」

「おう――任しとけ」

 

 そう言って、靜聖夜は……

 

 道路の中央で、土下座。

 

 

「今宵、我らがヒャクモノガタリに御出で頂いた、百鬼夜行の物の怪の方々、

今宵の御免ご迷惑をかけ、恐悦至極、大変失礼いたしました。

我々のご都合のまま、大変不愉快な思いをさせましたこと、深く謝罪いたします。

まこと、此度は、大変失礼いたしました。どうぞ、お怒りをお静め、再び物語の中にお眠りいただくよう、

よろしくお願いいたします」

 

 

 気配は……

 夜明けと共に、去る。

 

「さて、今宵、俺のヒャクモノガタリはこれで御終い」


 

 〜今日の夕刊の見出し〜

【行方不明の殺人医師 ゴミ捨て場のロッカーで遺体で発見される!?】


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