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エピローグ

「くん…ろくん…代くん…八代くん!」

「ん、んあ」

 部屋のベットに寝転がってうとうとしていると、いつの間にか肩をゆすられているのに気がついて俺は目を覚ました。羽月が俺の顔を覗き込んでいる。

「おお、なんだよ…」あくびをしながら起き上がり、時計を見て一瞬学校に遅刻したかと思ったが、今日は文化祭の代休日である。

「神様が書き上げたよ、ついに。『八代くんと見えない壁』っていうタイトルで」

「おお、マジか!それじゃあ、とうとう俺はこの契約から解放されるのか?」モテなくなるのは少し寂しい気もするが。

「いや、それが…」途端に羽月の表情が暗くなる。

「なんだよ…」そんな目をするな。嫌な予感がするじゃないか。

「もしデビューできたら、すぐにでも続きを書くことになるかもしれないから、契約はこのまま継続するって」

 俺は力が抜け、再びベッドに寝転んだ。

「まあまあ、そう落ち込まないで。八代くんの生活を書いただけの物語でどうせデビューなんてできるわけないし」

「お前ね、それ慰めてるつもりか知らんが、バカにされてるようにしか感じんぞ…って、おい、それ」

「え?」

 今日は早くも、羽月の着ている服がどんどん透けていき、ブレザーの下のブラウスが見え、ブラウスの下のブラジャーが見え、と次第に全裸に近づいていく。

「今日はピンクか」

「こら、見るな!」羽月はサッと手で隠す。「けど、そう何度もしてやられるもんですか」

 そう言うと、羽月は頭だけを残して体ごと透明にした。

「へっへーん。私は透明にだってなれるのだ」

「お前、それ結構前に俺に見せてたよね?なんで、今まで思いつかなかったんだよ」

「え?いや、その…わ、忘れてた…」

 神も神なら、その遣いも遣いだな。なあんて、やんわりした言い方では伝わらないだろうから、はっきり言おうか。ばかにも程があるっつうんだよ、脳足りん。そうやって、お前たちがアホさを露呈する度に、そんな奴らにいいようにされている僕という存在が惨めになっていくでしょーが。ふざけるな。いい加減にしてくださいよ。

「ああ、今バカって思ったでしょ」

「そりゃ、思うわ」何だか生首としゃべっているようで気味が悪い。

「でも私は、八代くん自身も気づいていない、八代くんが見えない壁と戦う目的に気づいたもんね」

「そんなもん、あるわけないだろ」ハッタリ乙。

「あるよー」

「じゃあ、言ってみろ」

「それじゃあ、私をバカって言ったことを撤回した上で」

 羽月がしゃべっていると、次第に消したはずの体が再び浮かび上がってくる。

「あの、羽月さん、体が見え始めてますよ」

「え?わっ、ちょっと、なんで?」羽月は局部を手で隠しながら必死に目をつぶって念じているが、裸体は無情にも消えない。「か、神様、ひどいっ」

「ちょっと、待て」

 今にも身を捩って消えてしまいそうだったので、俺は慌てて呼び止める。

「な、なによ」

「まだ俺自身が知らない、見えない壁と戦う目的ってのを教えてもらってないぞ。お前をバカと言ったことを」

「ああもう、いいから、いいから。それは、あれだよ、八代くんは自分の全てを受け入れてくれる友達を探してるんだよ。その友達を見つけるために、ああやって変なことばっかりしてふるいにかけてるの。見えない壁と戦うとか言ってね」羽月は早口でまくし立てる。

「そんなわけあるか。遠回りにもほどがある」

「そんなわけあるかどうかは、本当は自分が一番よく知ってるんじゃない?」しゃべりながらも羽月の顔はどんどん赤くなっていく。「もう限界。それじゃ、八代くん、また後で食べ物をもらいにくるから、用意しといてね」

 それだけ言うと、羽月は消えた。

 俺が友達を見つけるために見えない壁と戦っていただと…そんなバカな話があるか。そんなこと言ったら、まるであの光輝が俺の友達みたいじゃないか。うわ、今自分で思ってみたけど、それはない。それだけはない。いくら寂しさに狂いそうになっても。あんな奴と友達になるくらいなら、ははは、もう一度教室でウンコを漏らす方がマシだよ。

 俺は起き上がって思い切り伸びをした。

 しかし、代休が明ければ俺は懲りずにまたあの陰険部の部室へ行くだろう。主人公補正が消えない以上は仕方ない。するとあの陰険な男がまた色々と陰険な話やら作戦やらを提案してくるだろう。それも仕方ない。見えない壁に攻勢をしかけるために、それらのいくつかは実行することになるだろう。それも仕方ない。ほのかが来ればあいつにも協力させるだろう。それも仕方ない。

 ああ、仕方ないはずなのに、どうしてこうもわくわくしてくるのだろうか。一人で戦っている時はこんなことはなかった。やはり、見えない壁と戦う内にその同志を知らず知らず心のどこかで探していたのだろうか…

ま、いっか。第一、そうだったらどうだと言うんだよ。たとえ同志と言えども、俺は見えない壁を壊すために必要とあらば、それなりの扱いをするからね。申し訳ないが。

「ははは」

 俺は声に出して笑ってみた。

 そして、ますます見えない壁との戦いが激化することを期待しながら、朝食を取るために部屋を出て階段を降りて行った。

『八代くんと見えない壁』は一応、これで完結です。今まで読んでくれた方々は、駄文にお付き合いくださってどうもありがとうございました。


続編も書けたら書きたいと考えています(その前に違うモノを連載する可能性は高いですが)。


ではでは、このへんで。ありがとうざいました。ノシ

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