第六話 衝撃
さすがナルシーもとい、空手を習っているだけあって、力はあるようだ。 それなりの威力のあるボールを投げる。
しばらく無言の投げ合いが続いた。―─笑矢だけは楽しそうだが。
「あっ! わりぃ〜!」
笑矢が克髭へと投げたボールがオーバーした。克髭はボールを回収しに走る。
ごめーん、と叫ぶ笑矢に気付かれないよう、玉吉はちらりとテニスコートの中を確認。
タターン タターン
『…違う! 俺が見たいのはそれじゃなく!!』
明らかに不審な様子で女子をみつめる玉吉。が、本人は誰にもばれていないと思っている。
そこに!
風を切って、藻下蘭高野球部の誇る強肩キャッチャー・花宙立夫の豪速球が飛んできた!!
「はっ!!!」
玉吉、華麗に2回転ひねりを決めてかわした!
唖然とする立夫。
玉吉はセクシーに着地すると、そんな彼に笑顔を向け、取ってくると手で合図した(これを彼はダンディズムの法則と呼ぶ)。
そのボールはあろうことか女子のいるテニスコートの柵の手前に落下したのだ。
『チャーンス!』
ジャージのポケットに忍ばせておいた小型鏡で髪を軽く整え、玉吉は喜び勇んで走りだした。
「……あれぇ〜? やもり、どこいったぁ?」
笑矢からは見えなかったが、柵の方に駆け寄った玉吉は満面の笑みを湛えていた。――なぜなら!
柵の向こう、ちょうど立夫の投げたソフトボールと柵をはさんで隣あわせになるようにテニスボールが落ちていたからだ! しかも、それを拾いに走ってきた少女は! お目当ての女子だったからだ!!
それに気付いた玉吉は、女子にタイミングをあわせるように柵に歩み寄った! そして、接近に気付いていない女子と同時にしゃがみこむ!!
「……ん?」
男子もボールを拾いにきたのかと軽い気持ちであげた女子の視線の先には――
「やぁ、月要さん! 奇遇だね!」
とびきりの紳士スマイルとセクシーバスでアピールする玉吉。しかし。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
ナル嫌いの女子は絶叫した。
あまりの衝撃に立ち上がって逃げることもできない女子に、柵の隙間から指をのばす玉吉! 女子、危うし!
玉吉の指が女子の指をとらえようとした、まさにその時――!
轟音が、弾けた。
「ごはぁっ!!!」
偶然にも飛来した体育科の女教師・魔蛇夢先生の殺人サーブが、柵をぶちやぶって玉吉の額を直撃したのだ! もちろん女子は無傷である。
「た、たすかったぁ…」
「めこー、だいじょーぶー?!」
「さすが先生ですね…」
女子のもとに駆け寄ってきた亜芽と魔珠の声を遠くに聞きながら、玉吉は意識を手放した。
……額からは血が流れている。
しかも顔面は蒼白だ。否、それは元からだ。
段々と人が集まってくる。もう一人の体育教師・右海先生も焦って走って来た。
「大変だっ! 早く保健室に運ばねばっ!」
そう言って右海先生はなんと……
玉吉をお姫さまだっこしたのだ!
周囲の人間は玉吉以上に顔面蒼白、呆然唖然となってしまった。
直後チャイムがなったが、右海先生が視界に入る間は誰も動かない。動けない。
そして、その光景を超至近距離で見ていた女子は
「……早退しよう……」
こうして、アクシデント満載の体育は終わったのだった。(尚、女子の心情を察した魔蛇夢先生は保健室に寄らずに帰らせてくれたのだった。)
[続く]




