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第十二話 夜景



玉吉は焦った。先程の兄のあふれる愛情の暴走っぷりがまざまざとよみがえる。


「嫌なのかい、たっちゃん?!」


しかし、オリエプのほうが一枚うわてだった。


『うっ、そんな顔をされたら断れないじゃないか……!』


悲しそうな兄に、あわてて言葉を継ぎ足す。


「そ、そんな事ないよ、あっくん! あ、そうだ、ベッドはあっくんが使いなよ!! 俺は布団を出して寝るから……」


しかし、こんな大チャンスをオリエプが逃すわけがない。再び玉吉の頭頂部に手を這わせる。


「うごっ……!!」


「たっちゃんが床で寝る必要なんてどこにもないじゃないか!! 兄ちゃんが腕枕してあげるよ!!」


「わ、わかったから……そこだけは!!」



その時、階下で扉が閉まる音がした。



「ただいまぁ〜」



またもやママン登場! なんだかタイミングが良すぎである。


再び部屋に入ってきたママンは、満面の笑顔で言い切った。


「今日は3人で寝ましょーねッ!」



「ええぇぇぇ!」


あからさまに残念そうなオリエプを尻目に、ひとまずほっと胸を撫で下ろす玉吉。


しかし、これから予想だにしなかった熾烈な戦いが繰り広げられることになる。






ささやかな再会記念パーティが終了し、三人は仲良く鏡の前に並んで歯磨きをしていた。


「はぁ〜家族川の字で眠れるなんて久しぶり!!」


「そうだね!  ところで俺は一緒に寝るのは初めてだから、当然真ん中で眠れるんだよね?」


そこでママンが鋭く反応。


「あら? 私はてっきり二人の可愛い息子達に囲まれて眠れると思っていたのに……。」


玉吉をはさんでバチバチと視線を交わすママンとオリエプ。口元には神々しいスマイル(ミラ皇国的評価)を浮かべている……が、穏やかでない空気がプンプンだ。



真ん中位置争奪戦が、幕を開ける。



「俺は絶っっっ対真ん中だ! たっちゃんとくっついて眠れないなんて納得いかない!」


「私だって、私だってやっと逢えたあなたたちを抱き締めて眠りたいのよぉぉ!」


玉吉は次第に激しくなっていく論争についていけずうろたえていた。


『あぁ、みんな、俺の取り合い!? やめてくれ、俺のために争わないでくれ……!!』


やはり論点がズレている。


「俺はたっちゃんを愛している! ママンも愛しているんだ!! 俺にはどちらかを選ぶなんてできない!!」


「うわぁぁぁぁ〜!!」



結局、オリエプの発した愛の告白により取っ組み合いの戦いには発展せず、三人とも抱き締めあっておいおい泣いて和平が結ばれた。




「じゃあ、俺が真ん中になるから……。」


話し合いの結果、左からママン、玉吉、オリエプの順に決定した。


ようやくベッドに潜り込むと、お約束通りオリエプが擦り寄ってきた。耳元で、理想のバスがささやく。


「おやすみ……たっちゃん」


そしてさりげなく腕枕をするオリエプ。


「お休み、あっくん……」


兄の体温を感じながら、慌ただしい一日にすっかり疲れた玉吉は眠りについた――




一方、オリエプの目は冴えに冴えまくっていた。


何せ18年ごしの願い――弟と添い寝――がかなったのだ。興奮と感動のあまりしばらく眠れそうにない。


「たっちゃん…」


腕の中でぐっすり眠る弟の顔をのぞきこむオリエプ。


その時――




轟音とともに、突然部屋が大きく揺れだした。



「な、なんだ?!」



言うか言わぬかのうちに、部屋の壁は渦を巻くように動き出し、一切の灯りがなくなった。浮遊感が体を包む。


「たっちゃぁぁん怖いよぉお!!」


怖がるオリエプ。兄貴のくせに。



ところが玉吉の声もママンの声も聞こえない。


「どうなってんだよぉ?!」


すると、大きな音とともに、浮遊感は消え去った。




気が付いて見れば、フローリングは草と化しており、白い壁は鬱蒼と生い茂る木になっていた。



しかも玉吉もママンの姿は見えない。オリエプは一人……。




[続く]


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