第十一話 親子
思わず奇声をあげてしまった玉吉。顔が蒼白になっている。どうやら
「そこ」を触られると猛烈に具合が悪くなるようだ。
「ふふっ苦しいかい? ミラ族最大の弱点だからねっ!」
「ちょ……やめってくれぇ……」
呼吸さえもままならない玉吉。目には涙が浮かんでいる。
「ひざまくらするって約束してくれたら辞めてあげるよ」
どうやらオリエプはいわゆる
「ドS」だったらしい。親指の速度は高速回転の域にしていた。
だが、最早玉吉にはもはや思考能力は残っていない。まさに気絶寸前だったが……
「玉ちゃぁ〜ん、ただいまぁ〜」
なんと運のいいことに、丁度ママンが帰って来た。階段を昇って来る音が聞こえる――……
今日は玉ちゃんの改心の一枚《アフレンジャー☆玉吉》を現像してきた。朝の写真を毎日二人で鑑賞しては、壁に飾る。私が最も楽しみにしている、憩いの時間。
それにしても今回の写真は素敵な出来栄えだったので、普通サイズを10枚焼いて拡大版もつくってしまった。額にいれて寝室に飾ろうと思う。
ちなみに10枚のうち2枚ずつ私とダディと玉ちゃんで持って、後は保存用と絵葉書用にするつもり。
……あら? 声が聞こえるわ? お客さまかしら。
不思議に思い扉を開けると、壁一面に広がる息子達、そしてソファの上には信じられない光景が。
「きゃぁぁぁ! 玉ちゃんが二人いるわぁぁぁっ!!」
そう、そこには愛らしい玉ちゃんが二人、仲良く寄り添いあって座っていた。
頬が高揚するのを感じて、思わず両手で覆ってしまう。
『玉ちゃんが二人っ……どうしましょう! あぁっ……可愛いわ! どうしましょう、私幸せよ!』
鞄を投げ捨て、二人に抱きつく。美しい顔を間近で見て、今にも卒倒しそうだ。
「あなたが俺のママン……やっぱり美しい!」
背の少し高いほうの玉ちゃんが言った。
「えっ?」
「はじめまして……いや、久しぶり、かな。俺は蒼吉だよ。たっちゃんに会いたい一心で、ここに来たんだよママン。」
「……蒼ちゃん!?」
ちゃらら〜ら〜らら〜♪BGM:邂逅(作曲 蒼吉)
「そうね、もう18歳だものね。こんなに大きくなって……うぅっ……」
涙で目の前がぼやける。すると二人が両肩を支えてくれた。
「そうだわ、パーティでもしましょう! 私、すごいご馳走作るわ!! あっ、その前に、せっかく二人が揃ったんだから写真とりましょうよ!!」
急いで鞄の中にあるカメラ(超高画質)を取り出す。
……と、同時に現像した写真が床に落ちた。
「ん?これは……」
「あら、それは今朝の写真よ。蒼ちゃん見る?」
「うん、まあ見てたんだけどね、鏡の向・こ・う・か・ら!」
「えぇっ?!」
──それから私は、フィルムを使いきるまで二人の息子を激写しまくった。
二人いるので、より多彩なポーズがとれた。
《蒼ちゃん耳掻きしてもらうの図》
《窓辺に佇んで語らうの図》
《絡み合う二人(上半身裸)》
などなど。私は最後のがお気に入りだ。これは高く売れるんじゃないかとも思った。将来ユニゾンでも組めたらなぁ……と夢を馳せてしまう。
「二人とも〜! 私はケーキを買ってくるから、仲良くお留守番しててね!」
「「はぁ〜い!」」
そして私は新しく使ったフィルムを持って、買い物にでかけた。
「はぁ……」
未だ先程の興奮が冷めやらぬまま、玉吉はため息をついた。楽しかった……。玉吉は同じように隣に座るオリエプを見た。
ママンの様子からみて、彼の言っていることは本当なのだろう……が、そんなことはもうどうでもよかった。
あっくんと、もっと一緒にいたい。
「あっくん……」
未だ冷めやらぬ熱のこもった声で、大切な兄の名を呼ぶ。
「どうしたんだい、たっちゃん?」
オリエプもまた、先程よりもわずかに低い声で答える。
「俺……ミラ皇国に行きたい! もうこっちの世界なんてどうでもいいよ! 俺、俺、故郷に帰りたい!! あっくんとずっと一緒にいたいんだ!!」
玉吉は叫ぶようにそう言うと、衝動にまかせてオリエプの胸に縋った。
「たっちゃん……!」
やっと、やっと完全に心を開いてくれた弟を、オリエプは涙ぐみながらきつく抱き締めた。
「その言葉を待っていたよたっちゃん!!」
18年も引き裂かれていたのだ、もう離れたくない――!!
「じゃぁたっちゃん、今夜中に支度を整えて、明日一緒に帰ろう! なに、学校のことなら心配いらないさ。俺の部下がすでに校長殿と交渉中だからね!」
気弱な藻下蘭高の校長は、オリエプの腹心・カーリー=フランシスコに脅されて、玉吉を留学扱いすることに同意するはめになっていた。
「あっくん……俺のためにそこまで!」
感激のあまり涙を流す玉吉。
そんな玉吉を穏やかに見つめながら、オリエプはさり気なく爆弾を投下した。
「さぁ、そうと決まったら今夜は兄ちゃん、お前を手伝うよ! うん、今日はたっちゃんの部屋に泊まらせてもらうね!」
「と、泊まるの……?!」
[続く]