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幻想大陸  作者: しるうぃっしゅ
三部 東大陸編
58/106

五十二章 南へ2














 魔人の襲撃があった日の翌日。

 キョウ達は忘却の街道と呼ばれる荒れ果てた道を、歩いて南下していた。 

 何故歩きなのか。馬はどうしたのか。結論はというと、ディーティニアに丸焦げにされてしまったのだ。

 昨晩、彼女が白い怪異を相手にしているうちはまだ余裕もあり、十分手加減をしながら戦っていたのだが、背後からのアトリの奇襲によって怒り猛った獄炎の魔女が超範囲に渡って爆炎魔法を放ち、家屋はおろか馬さえも焼いてしまった。

 

 しかも炭化したと言っても過言ではない状態だったため、新鮮な馬肉にありつくことも出来ずに、踏んだり蹴ったりという状態になってしまっていた。

 挙句の果てには廃墟も消し飛んでしまったので寝る場所も結局は野宿という形になってしまい、流石のディーティニアも申し訳なさそうな顔をしていたのが新鮮に感じられたが、翌日にはケロっとしているのだから中々精神的にタフである。


 馬がなくなってしまった以上、徒歩で南下するしかないのだが―――アトリはまだ万全な状態ではなく、仕方なしにキョウが担いで歩くことになった。

 ディーティニアが微妙に羨ましそうな顔をしていたが、幾ら小柄でも二人担いで歩くのは厳しいため、視線を合わせないように正面だけに向ける。

 やがて諦めたのか、とぼとぼとキョウと並んで歩き出す彼女の姿には哀愁が漂っており、悪いことをしたわけでもないのに

罪悪感が湧き出てきた。


 馬に乗っている時とは異なり、寝て歩く超高等技術を生憎とまだ修得していないディーティニアは眠そうな表情でふらふらしている。

 旅に出たときから確かに他の人間より朝に弱かったが、最近ますます酷くなってきていることにキョウは呆れるのだが―――彼が甘やかしすぎていたことが原因の九割を占めるのだから、どうこう言える資格はない。

 ディーティニアがそれだけキョウのことを信頼しているからこそどんどんと悪化していっているのだから、皮肉な話ともいえた。

 キョウとディーティニアの二人は、空に浮かぶ太陽を忌々しそうに見上げ、じりじりと肌を焼いてくる光に耐えながら並んで歩いて行く。

 

「それにしても、もう少し軽症で済ませれなかったのか?」

「むぅ……。いや、なに。流石のワシも同格の魔女相手には手加減できなくてのぅ」

「嘘つけ。どう考えても頭にきてやりすぎただけだろ?」

「そ、そんなことはないのじゃ」

「昨日俺が別の相手と戦っている時にアトリィイイ、痛いじゃろうがぁあああ、って聞こえたぞ?」

「……き、気のせいじゃ。うむ、空耳じゃ」

  

 だらだらと脂汗を流すディーティニアをじっと見つめるキョウだったが、彼女は必死で視線を明後日の方へ向ける。

 まぁ、仕方ないか―――と、追求を諦めて前へと向き直った。

 

 口で言うほど容易い戦いでなかったのはキョウとて分かっていたからだ。

 仮にも敵に操られていた天雷の魔女を殺さずに無効化するなど、並大抵の苦労ではなかったはず。

 キョウはそれを為したディーティニアの肩にポンっと手を置く。


「まぁ、頑張ったな」

「う、うむ!!」


 何故褒められたか理解していないディーティニアは首を捻りつつも、褒められたことが嬉しかったのか、戸惑いながら喜びを隠し切れずに長い耳がピコピコと上下に揺れた。


 実際ディーティニアだからこそ、アトリを相手にほぼ無傷で完勝することできていた。

 キョウとディーティニアが戦力を分断させた本来なら愚行といえる行動が、プラスに働いたのだから世の中わからないものである。

 ざっざ、と荒れ果てた舗装の街道を一歩一歩踏み締めて進む二人と背負われた一名。


「そういえば、昨晩はどうしたのじゃ? お主らしからぬ奇妙な気配を放っておったが」

「……うっ。それは、まぁ……気にするな」

「普段のお主が凪のない湖面とすれば、昨晩は嵐じゃったな」

「そういう時も、ある」

「ふーむ?」


 今度は逆にディーティニアの視線から逃れるように、キョウが彼女よりも半歩前に出て前を歩く。

 昨晩のことを思い出したキョウは眉を顰めていたのだが、半歩前を進んでいたためそれにディーティニアが気づくことは無かった。

 ため息をつきたくなる衝動を抑えて、自嘲が浮かび上がる口元をキュっと一文字に結ぶ。

 

 昨晩の出来事は記憶を奪われてはいたが、しっかりと記憶に残っていた。

 魔人ムニンに何度か接触を許し、数年分の記憶を奪われた結果―――剣魔と恐れられた過去の自分を出現させてしまったことが何よりも許せない。

 数年前はエレクシル教国との戦いが激化し毎日が戦いの日々だったのだが、何時しか剣に酔い人を殺すだけの獣のようになってしまったのだ。培ってきた技術を捨て、獣のように人を殺した。

 今のキョウからしてみれば忘れたいが、忘れられない過去の思い出である。


 それと同時に、ムニンに何度も接触させてしまったことも許せない。

 あれがもしも鋭利な刃物や、一撃必殺となる能力であったならば、今ここにキョウはいなかったのだ。

 二体の魔人の能力が彼にとって相性がよろしくなかったのだとしても、それで納得できるほどキョウは自分に甘くない。

 

 これは今一度鍛えなおさねば―――と、気合を入れて掌を握り締める。

 だが、手に伝わってきたのは掌を握り締めた感覚はせず、その代わりに何やら柔らかいものを掴んだ感触が訪れた。

 

「……ん?」


 何だこれはと不思議に思いながら何度か手の平を開閉させるが、その度にむにゅむにゅとこの世のものとは思えない柔軟な感触が伝わってくる。  

 不思議に思っていたキョウだったが、背中に感じる重量を思い出した。

 とてつもない重大な事実―――今の彼は、アトリを背負っている、ということを。


「……それ、私のお尻」


 起きていたのか、尻を揉まれたことによって起こされたのか、どちらかわからないがアトリの冷静な突っ込みがキョウの耳に響いた。

 先程のディーティニア以上に汗をダラダラと流し始めたキョウは、この場をどう潜り抜けるか頭を働かせる。恐らくは生涯でもっとも思考を巡らせている彼は様々な言い訳を考え付くが―――。


「……すまん。わざと、じゃないんだ」


 口下手な自分ではたいした言い訳も出来ないと判断し、素直に謝罪を口にした。

 しかし背中からの返事はなく、地面を歩く足音だけが周囲に木霊し、得体の知れない緊張感が空気を凍らせていく。

 思わずごくりっと咽を鳴らすキョウ。これまで《操血》やアールマティには、似たような経験―――というか、一緒に風呂に入ったりベッドで寝たりしていたが、それは付き合いが長い二人だからこそ。流石にアトリ相手に、これはまずいと感じる常識くらいは持ち合わせている。


「……や。別にいいけど。出来ればお尻から手を離して欲しい」

「いや、うん。本当にすまなかった」


 未だがっしりとアトリの小ぶりな臀部を鷲掴みにしていたキョウは、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

 尻を揉まれた天雷の魔女は、特に騒ぎ立てることもせずに再び眼を閉じて夢の世界へ旅立っていく。

 平静を装っているように見える彼女だが、頬がほんのりと桃色に染まっている。流石に臀部を揉まれて普段通りというわけにはいかなかったようだ。

 それでもアトリからしてみれば、朝から背負ってくれている男が悪気や下心があってやったのではないと気づいているため不問にしてもいいかと考えていたのだが、キョウからしてみれば内心で久しぶりに混乱していた。

 再び寝てしまったアトリを起こすのも申し訳ないと考え、とりあえず街についたら謝罪をしようと心に決める。

 

「……キョウ、お主。突然なにをするかと思えば……」 


 ―――しまった、こいつがいた。


 すっかり忘れていたディーティニアの視線がズブリっと突き刺さってくる。

 背負っているアトリにしてしまった凶行を見られてしまい―――隣に居るのだからばれないはずがないのだが―――彼女の対処をどうしようか、冷や汗をかきながら考えていると。


「お、お主も男なのだから仕方がないのぅ。む、娘同然の者を守るのはワシの役目じゃし……ワ、ワ、ワシの臀部でよかったら、す、す、少しくらいなら触っても……」

「いや、遠慮しとこう」

「な、何故じゃぁあああああああああああああ!?」


 顔を真っ赤にしてちらちらとキョウの顔を窺いつつ、どもりながら口に出したディーティニアの提案をばっさりと切り捨ててスタスタと早歩きで逃げ去っていった。

 それに必死ともいえる形相で、タックルを仕掛け腰に掴まる獄炎の魔女。

 キョウはアトリを背負っているためどうしても片手しかディーティニアを腰から引き剥がすのに使えないのだが―――それでも普段ならば片手で余裕を持って外すことができるはずが、何故か今回はそれが出来ない。

 ギシギシと骨が軋むような音をたてて、ディーティニアの両手がキョウの腰に埋まっていく。

 ある意味キョウをも超える膂力を発揮する小柄な魔女に戦慄を隠せず、彼女の肩に手を置いて力一杯押すも無駄に終わった。


「お、お主。な、何を考えておるのじゃ!?」

「いや、俺はお前が何を考えているのか知りたい」

「ワシは駄目で、アトリはよいのか!?」

「良いも悪いも、どちらもない。さっきのは事故だ、事故」

「嘘じゃ!! あれだけ揉みまくっておいて事故で済ますことができるものか!!」

「ああ、うん。それは本当に俺も悪かった」

「だから、だから、ワシの臀部を揉めばプラスマイナスがゼロに―――」

「……ならん」


 スパン、と死角からの手刀がディーティニアの首筋に直撃。

 ふらりっと彼女の身体が揺らぎ、崩れ落ちそうになったところを片手を即座に腹部に回して抱きとめる。

 スーツの上着を持つような体勢となったディーティニアを支えつつ、どうしようかと考えるキョウだったが、下手に起こしてまた暴走されたら敵わない。

 今回のところは仕方ないと諦めて、彼女をひょいっと胸に抱く。所謂お姫様抱っこというやつだ。


 胸にディーティニア。

 背中にアトリ。


 魔女の二人を抱えて、キョウは精神的にも肉体的にも重い足取りで荒れた街道を進んでいくのであった。




















 人間―――いや、エルフ二人を抱えているとは思えないほどの速度で、街道をひたすらに南下していたキョウは、日が暮れる前になんとか人里に辿り着くことができた。

 これは強行軍に強行軍を重ねた結果であり、普通ならば馬を使わねば絶対に辿り着けない距離を踏破していたのだが、それを知らないエルフ二人は気楽なものである。


 いや、ディーティニアに関しては気楽とはいえないほど精神的にダメージを食らっていた。

 自分が何を口走ったのか覚えていたのか、町に着くやいなや、部屋を取った宿に引き篭もってしまったのだ。

 布団に丸まって、呼びかけても返事もしない彼女をとりあえずそっとしておくことにしたキョウとアトリは町へと繰り出すことにした。


 町といっても、プラダの街とは比べるまでも無く小さな大きさで、人口もかなり少ないのは一目で明らかなことであった。

 通りを照らす魔法の照明も数が少なく、薄暗い。

 夜ということがあったとしても、通りを歩く人があまり見られなかった。


 多少遅めとなる夕食だが、飯屋を探して町の中を軽くうろつく。

 アトリは面倒臭がると予想していたが、それを裏切るようにキョウとともに飯屋を探している。

 普段の彼女だったら部屋のベッドで今頃寝ていてもおかしくはないのだが―――と、首をひねったキョウの耳に聞こえるかすかに腹が鳴る音。

 キョウではないことを自身が知っているので、それ以外の誰か。

 つまり傍に居るアトリしかいないわけで。


「……聞こえた?」

「さて、何のことだか」


 恥ずかしかったのか腹部を両手で押さえて上目遣いで睨んでくるアトリに対して、嘘をつきながら飯屋の建物を探そうと視線をあちらこちらに向ける。

 ちょこちょこと背後からついてくるアトリを気にしつつ、ようやくそれらしい匂いを発している建物を発見。

 二人でその建物を覗いてみると、見事に的中。


 中は満席には程遠いが、それなりに旅の者もいるのかテーブル席はそこそこ埋まっていた。

 店に入ると、空いている席に案内されメニューを渡されたので適当に注文をする。

 アトリはやはりというか、肉類の注文をしていた。ここまで肉が好きなエルフにキョウの中でのイメージが崩れていく。


「しかし、忘却の街道を使うとはやいな。まさか二日もかからずここまでこれるとは思わなかった」

「……ん。馬も駄目になったのによく頑張った、キョウちゃん」

「馬が駄目になったのは想定外だったがな。それよりやはり、ちゃん付けはやめないか?」

「残念無念。私は気に入ってるから駄目」

「そうか……」


 ちゃんづけで呼ばれたことが今まで無かったために、非常に慣れない。

 そのうえ、どこか呼ばれるたびにこそばゆい。

 それもキョウのことを考えれば当然だ。彼は百八十を軽く超える長身、体重も九十を上回るがっしりとした体格をしている。そんな相手をちゃん付けで呼ぼうと考える人間がいるだろうか。

 少なくともキョウの三十年の人生で、アトリが初めての相手だった。


「それよりも身体の方は大丈夫なのか?」

「ん。大丈夫。ディーテもかなり手加減してたし」

「……あれで、か?」


 黒焦げになっていたアトリの惨状を思い出して疑わしそうな返答となったが、そんな返答にアトリは珍しく僅かに笑みを口元に浮かべた。


「……私とディーテじゃ、桁が一個違う。あいつが本気を出せば、私なんか今頃消し炭になってる」

「そんなものか? いや、あいつの馬鹿げた魔法の腕は知っているが。お前も相当な腕前だろうに」

「事実。他の三人の魔女も同じ。五大魔女なんて呼ばれはしてるけど、私達とディーテの間には決して埋められない溝がある」

「いや、そこまで自分を卑下することもないだろう?」 

「……下手な慰めはいらない。貴方だって本当はわかっているはず。私達四人がかり(・・・・・)で、ようやくディーテと戦えるレベル(・・・・・・)まで持っていけることが出来る」   


 アトリは自分とディーティニアの違いを淡々と語っていく。

 彼女の言葉とは裏腹に、空気が徐々に張り詰めていった。

 圧倒的な差を認めつつながらも、不思議とアトリの言葉には負の感情が全くこもっていない。


「ディーテと一緒に居られる貴方には知ってもらいたい。私達五人の魔女の秘密を」

「……魔女の秘密?」 


 こくりっとアトリは静かに頷いて。


「本来ならば魔女の称号を冠するのはディーテ一人。私達四人はあくまで後付けの称号。ディーテの魔力を恐れたエルフ達によって私達は選ばれた」

「……何に、選ばれたんだ?」

「第一級危険生物。王位種にも匹敵する大魔法使いディーティニア。彼女が暴走した時のために、彼女を殺すための刺客として―――私達四人の魔女が存在している」

「ほー」


 アトリの爆弾発言にたいして、キョウは特に驚きもせずに納得したという雰囲気で頷いている。

 逆に驚かされたのがアトリだ。仮にも自分の相棒と認めているディーティニアを殺す刺客と吐露したというのに、彼の様子が全く変化しないことに眼を僅かに見開いた。


「……いや。ほーって……他になにか、ないの?」

「いや。あいつにはそれくらいしないと駄目だろうしな。確かにアトリ級が四人揃えば、まぁ戦いにはなるんじゃないのか?」

「……そうじゃなくって」

「―――それに」


 思わずアトリがテーブルに手をついて立ち上がろうとした瞬間を狙ってか、それより早くトンっと彼女の額に指が当てられ―――立ったはずの彼女は何時の間にか再び椅子に腰をおろしていた。


「お前が敵に回るのはあいつが暴走したとき、だろう? それなら今は問題ないわけだ」

「……そうだけど」

「難しいことを考えるな。それに、まぁ……多分あいつは大丈夫だ」

「……」


 アトリは納得がいっていないのか、ぶぅっと頬を膨らませて―――諦めたようにもとの無表情に戻った。

  

「真剣に話をした私が馬鹿みたい」

「人生そんなもんだ。難しく考えても良い結果になるとは限らんぞ?」

「……ふーん」

「まぁ、お前も腹いっぱいになれば気分も良くなるだろ。人間美味いものを食べている時が一番幸せだ」

「……やっぱり聞いていた?」

「さてな。お前が腹が減っているように見えただけだが」


 ふっと天井を見上げて口元を緩めるキョウの顔を穴が開くほどじっと見つめたが、やがて諦めたのかアトリの視線が穏やかになる。

 二人の間の空気が弛緩し、普段通りの雰囲気に戻ったことにキョウは安堵した。食事を取る時くらい、楽しく食べたいからである。先程の空気のまま食事を取る羽目になったら、とぞっとしない気持ちに襲われた。


「というか、ディーテはそこまで飛び抜けていたのか。あいつに匹敵する魔法使いっていなかったのか?」

「……私は知らない。少なくとも幻想大陸八百年の歴史ではいなかったらしい」

「幻想大陸の歴史、では?」


 アトリの言い方に違和感を覚えたキョウが聞き返し。


「……私もディーテからしか聞いてないから本当かどうかわからない。でも、あいつ曰く、自分よりも強い相手は一人(・・)いたって」

「……あいつよりも強い? それは、少し気になるな」

「あいつは幻想大陸がまだアナザーと繋がっていた頃からの生き証人。その頃に、あいつが世話になっていたエルフの集落にとんでもない化け物がいたんだって」

「ディーテが化け物と呼ぶほどか。それは、随分とまた厄介そうな相手だな」

「ん。ディーテは幻想大陸。その化け物はアナザーに別れたらしいけど、今でも勝てる自信がないとか言ってた気がした」

「……俺もアナザーではそれなりに暮らしていたが、そこまでの魔法使いは聞いたことが無いな。どこかで隠れて過ごしているのか、はたまた外海の彼方にいるのか」


 両腕を組んで、アナザーにいた頃の記憶を探るも該当者はなく。

 そんなキョウに、ああっとアトリが首を横に振った。


「ごめん、言ってなかった。魔法使いじゃない(・・・・)。魔法は幻覚系を多少使える程度で、彼女の本領は特異能力(アビリティ)。とんでもない能力だって聞いだけど、詳しくは知らない」

特異能力(アビリティ)? ……そいつの名前は?」


 すぅっと大きく息を吸いこんだアトリはどこか躊躇うように、だがその名前を口に出す。


「……エンド(・・・)。確かディーテはそう呼んでた」 

「―――やはり、知らない名前だな」


 その時、カタンっとテーブルに置かれる皿。

 ほかほかと湯気をたてる皿を何枚か運んできたウェイトレスが、次々にテーブルに置いていく。

 二人は話はここまで、と目線だけで話し合うと、その料理に取り掛かるのであった。


 ただ、キョウだけはアトリの語った名前に心臓がざわめくのを感じる。


 ―――エンド? まさか、な。


 自分の考えを振り払ったキョウの身体が―――ドクンっと激しく鼓動したのを感じながら、彼は静かに料理へと箸を伸ばした。 




  







ぎりぎりせふせふ

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